頼義、子四天王に出会うの事(その一)
すゞ子こと
「って、本当にここにいるんでしょうね、はあ」
頼義が嘆息するのも無理はない。朝早くから彼らを訪ね歩いて、すでに昼過ぎである。その間中頼義はずっと都中を歩き回された。
最初頼義は道長の説明通りに朝方兵部省の役宅を訪ねた。衛士小隊の若者たちは通常五つ半(午前九時)には兵部省に出勤し、合同で座学と軍事教練を行なっている。
当然そこに頼義の探す「紅蓮隊」の連中もいるものと思っていた。だがいざ訪ねてみると彼らはそこにはいなかった。聞くところによると、そもそも彼らは午前中に役宅に顔を出すことなど滅多にない、全くたるんどるけしからんなどと教導官にいらぬ説教をくらい、ではいずこにおられるかと聞き返してみると、大方朝市にでも冷やかしに行っているのであろうと言われた。
急ぎ七条の朝市に赴いてみると、さっきまでいたがさんざん商品にケチをつけては値切って買い漁られてこっちはとんだ迷惑だ上司なら代わって弁償しろだなどとこれまたいらぬ苦情をくらい、なんとかなだめてどこへ行ったか聞きただしてみると
「さあ、この時間ならあの連中賀茂川あたりで呑気に釣りでもしてるんじゃないの?」
と言われたので、
衛士小隊の各部隊には特に名前がついているわけではないのだが、隊員の若者たちは隊内の連帯を強めるため、また若者らしい虚栄心を満たすために、やれ「
頼義の探している「紅蓮隊」もそういった血気盛んな若者衆のうちの一団なのであろうが、どうもここまでの経緯を鑑みるにロクでもない連中であるのは間違いないようである。
現に今ここで呻いている若者たちを叩きのめしたのもその「紅蓮隊」の面々だという。しかも彼らはたったの四人でこれら十人以上の集団を相手にしていたのだという。
素行はともかく彼らが道長の賞賛するが如く一騎当千の強者であることは間違いないようだ。頼義は彼らの悪評よりも、その純粋な「強さ」に感銘を受けた。そんな彼らの長となって共にいずれ来たるべき戦に向けて教練に励む。なんと素敵なことだろう、頼義の胸は踊った。
頼義はうずくまっている若者を一人ふん捕まえて紅蓮隊の行方を聞いた。自分は知らないが、紅蓮隊の一人が「帰って一杯飲むべ」と言っていたのを聞いたという。さらに彼らが飲みに行きそうな場所を聞いてみると、意外な返事が返ってきた。
かくして、朝から丸半日駆けずり回された頼義はようやく「紅蓮隊」の連中がいるという陰陽寮にたどり着いた。
「もう、そんなことなら最初から教えてくれればいいのに」
と頼義が嘆くのも無理はない。なにせ陰陽寮は最初に訪れた兵部省から歩いて半刻もかからぬような位置にあるのだ。
彼女が午前中いっぱい歩き回った労苦は、全くの無駄だったわけである。苦言の一つも言いたいところであるが、初対面ということもあり、また噂に名高い勇者たちに敬意を表してここは一つ胸内に飲み込んでおこうと決めた。頼義の中で彼らに対する敷居が無駄に高くなって行っている。
頼義は大きく深呼吸をしてから、陰陽寮の正門に向かって呼びかけた。
「ごめんくだされ、こちらに兵部省方衛士小隊『紅蓮隊』の方々はおわしませぬか」
緊張のあまりか少々上ずった高い声でそう呼びかけると、すぐさま垣根向こうの小門から一人の若者が現れた。
「いっらっしゃいませ陰陽寮へようこそ〜、
どことなくイタチかカワウソを思わせる、なんともしまりのない顔をしたその若者は似合わないどじょう髭をニンマリと揺らして鼻の下を伸ばしながら、そこまでを一息で言い切った。
男の言っている内容は半分も分からない。陰陽寮の専門用語なのだろうか。「陰陽寮」という部署について彼女は暦を作ったり占いで日々の行動を定める所というぐらいの知識しかなかったが、この男の対応を見る限りロクでもない組織であることだけは理解できた。
「あ、あの、すみません。私、陰陽寮にご用があるわけではなく……」
「あ?」
頼義が最後まで言い切るまでもなく応対者の態度が豹変した。
「なんだよ客じゃねえのかよ紛らわしいなーケッ。え、で何の用?」
なんたる態度の変わりよう。そのあまりの態度の変わりぶりに怒るよりも呆れ果ててしまった頼義は、それでも襟を正して礼儀正しく尋ね直した。
「私は
「へ、
「
思わぬ相手からの返事に、頼義は素っ頓狂な声を上げた。
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