隣の席の不真面目な女子が実はアイドルだった
朝輝夜空
第1話 隣の席
「イヤホン外せ」
6月下旬。7月に差し掛かろうとし、蒸し暑さが目立つ。
冷房がついている教室は涼しくて、非常に居心地が良い。
そんな授業中の教室に先生の声が響きわたる。
隣の席に座っている女子、
そうすると彼女は長い髪の中に手を入れ、耳からイヤホンを外し、ケースにしまった。
長い髪で耳が隠れていたせいで、俺は全く気づかなかった。よく見つけたもんだ。
今やっている授業は地理。小テスト中だ。先生が教室をうろちょろしている。だからバレたのだろう。逆を言えば、バレてなかっただけで今までもしてたのだろうなと思った。
すると今度は、スカートのポケットからスマホを取りだし見えないように机の下に隠しながら弄り始めた。
しばらくするとスマホをポケットにしまった。
すると今度は机の上でうつ伏せになった。恐らく寝ている。
たまには真面目に授業を受ける時もあるが、彼女は基本いつもはこんな感じ。不良とまでは行かないが、不真面目である。
そんな何気ない、いつも通りの学校生活を終え帰宅した。
宿題をやりながらSNSを眺めていた。すると、とある投稿が流れてきた。フォローしてないアカウントだ。
アイドルらしき人の投稿だった。俺はアイドル好きと言うのもあって色んなグループの色んなメンバーをフォローしていた。だからオススメか何かで流れてきたのだろう。
ハートの絵文字と一緒に
「学校行ってきた」
という投稿。更に自撮り画像も。
俺はその顔に既視感を覚えた。黒の長髪、灰色のインナーカラー。隣の席の花咲に酷似していた。それだけじゃない。
白ではなく水色のワイシャツ、机、壁のデザイン。全てが一致している。おまけに、ワイシャツにうちの学校の校章の刺繍が入っていた。
「まじかよ……」
まさか隣の席の不真面目な女子が裏でアイドルをやってるなんて。
顔も良いし、不真面目ではあるものの人当たりが悪いという訳でもなさそうだが、あまりクラスメイトと話したりしてる所は見たことがない。放課後もすぐに下校している。
SNSのプロフィールを見ると、花咲は地下アイドルグループに所属しているらしいと言うことが分かった。俺も少しだけ聞いたことがあるグループだった。
地下アイドルと言えば、平日も頻繁にライブをやっていたりするが、恐らくライブがあったりするからいつも帰るのが早いんだろう。
花咲の意外な一面を知ってしまい、若干の動揺を隠せないでいる俺。その日は常にそのことが頭から離れなかった。
目覚めると、窓の外は少し暗かった。
ベッドから出て窓の外を見に行くと雨が降っていた。
朝食を食べ身支度を整え、憂鬱感を抱きながら学校に向かった。
教室に到着すると冷房がついていて涼しかった。
自分の席に着席すると、花咲は既に登校している。
不真面目な割に、登校するのはいつも俺より先。俺が遅いと言う訳ではなく、花咲が早いと言う感じだ。
改めて顔を確認するとやっぱり、例の自撮り画像と全く同じ顔だ。
「なに?」
こっそりとバレないように見たつもりだったが、バレてしまっていたようだ。冷たい返事をする訳でもなく、柔らかい感じの返事。
「いや、特には」
ほんの少しの沈黙の後、俺はこう続けた。
「花咲って、この後時間ある?」
「この後?昼休みとかなら大丈夫だけど」
「じゃあ、昼休み付き合ってくれ」
「う、うん」
正直あまり聞かない方がいいのだろうけど、本当にアイドルなのか気になって仕方がなく、勢いで言ってしまった。
「お、なんだ、告白でもするのか?」
「ちげーよ。と言うか、
こいつは
「………」
「そっか、振られたのか……」
「なあ」
「なんだよ」
「どうしたら付き合えると思う?」
「俺に聞かれても知らん。」
「まあそうだよな。お前は勝手にモテてくもんな」
「なんだよそれ」
「だって、頭も良いし運動も出来るだろ?」
「まあな」
「少しは謙遜してくれよ。悲しくなるだろ」
「じゃあ、お前も勉強して頭良くなってみたらどうだ?運動なら俺より出来るんだし」
「サッカー部のキャプテンってだけで、モテると思ってんだけどな……」
「モテるためにサッカー部入ったのかよ」
「半分くらいは」
「他の部員が可哀想だな」
「なんでモテないんだろうな……。去年のキャプテンはモテモテだったのに……」
「ディフェンスだからじゃね」
「え?」
「去年のキャプテンってフォワードだったよな?」
「ああ」
「やっぱフォワードとかミッドフィールダーとか、点とるようなポジションの選手の方がモテるんじゃないか?」
「じゃあ俺、今日からフォワードになる」
「いや無理だろ」
そんなこんなで一時間目が始まってから昼休みまで中々集中が保てなかった。
自分で思っていた以上に花咲のことが気になっているらしい。
「花咲って弁当?」
「うん。お弁当」
「じゃあ、食堂行って一緒に食べないか?」
「いいよ」
ひとまず花咲を連れ出し、食堂に向かった。
「ところで、何か話でもあるの?」
空いていた席に着くと、花咲はすぐさま問いかけてきた。今になって本当に聞いていいのかと思ってきた。でも、ここまで来たんだし。
「この人知ってるか?」
そう言い、SNSの花咲らしきアイドルのアカウントのプロフィールの画面を見せた。
すると、花咲の目が大きく開き、すぐに本人であると分かった。
「ええと……」
花咲は困惑していた。
「安心してくれ。別に言いふらしたりとかはしないから。スマホ弄ってたら花咲みたいな子が流れてきてさ」
「そ、そう……」
何となく分かってはいたが、凄い気まずい。
「あと、隣の席なのにあまり話したことな無かったから、仲良くなれたらなって思って」
咄嗟に出た言葉だが、これは本当に思っていることだ。隣の席の女子が全く話したことない相手なのは流石に居心地が悪かった。
「……しも」
「え?」
「私も、仲良くなりたいなって……思ってた……」
花咲は若干照れながらそう言った。
「そっか。ところで花咲ってー」
「涼香。涼香って呼んで。あんまり苗字で呼ばれるの好きじゃないから」
俺の話を遮りそう言った。
「じゃ、じゃあ涼香……」
女子のことを下の名前で呼ぶなんて言う経験は、今まで片手で数えれるくらいしか無かったせいか、凄く恥ずかしかった。
「うん。私は何て呼べばいい?」
「俺のこと?」
「うん」
「
「じゃあ、
自分の名前を呼ばれ、一瞬ドキッとした。
「そうだな。じゃあ、それで」
「うん!」
花咲の笑顔を初めてみた気がする。こんなに可愛いのか。それとも、アイドル補正でもかかってるのだろうか。
「でさ、さっきの話の続きなんだけど」
「うん、何?」
「涼香って授業中いつもイヤホン付けてるのか?」
「毎時間じゃないけどね」
「あれ、何聞いてるんだ?」
「私のグループの歌」
「自分のグループの歌聞いてるのか?」
「そう。私って忘れっぽいから歌詞忘れないように」
「ああ、なるほど」
「で、あと授業中よく寝てたりするけど」
「ライブある日は、帰ってから宿題やってたりするから、寝るのが遅くてあんまり寝れてないんだよね」
「そうなのか」
不真面目と言う印象だったが、むしろ真面目な印象に変わってきた。人は見かけによらないとは、こう言うことを言うのだろう。
「逆に遥輝くんは授業すっごい真剣に受けてるよね。ノートとか横から見ただけだけど、びっしり埋まってるし」
「まあ、授業の内容しっかり聞いてればわざわざテスト勉強しないで済むからな」
「じゃあ、テスト勉強とかしてないの?」
「全然してないな」
「なのに、学年一位獲れるの?」
この前の中間テストの成績はどうやら俺が学年で一番だったらしい。毎度恒例の廊下に上位十名の名前を貼り出すやつのおかげで、テストがある度に注目されている。おそらく、花咲もその順位表を見たのだろう。
「まあ実際、授業で出た内容からしか出題されないからな」
「そんな人本当にいるんだ……」
「でも、涼香も勉強が苦手ってわけじゃないんだろ?」
涼香の名前も毎回上位十名に入っている。授業中寝てたりしてるのに凄いなと思っていた。
「苦手ではないかな。でも、私はテスト勉強とかしないと良い点獲れないし」
「まあ普通そうだよ。多分俺がおかしいだけだ。でも時間あんまりないのにテスト勉強はしてるんだな」
「してるって感じではないかな。私のお母さんって塾の先生してるから分からないところがあったら、聞いてるって感じ」
「へえ、なるほどなあ」
そんなこんなでお互いに弁当を食べ終わった。
「じゃあ、教室戻るか」
「あ、ちょっと待って」
「ん?」
「はいこれ。私の連絡先」
そう言って、メッセージアプリのQRコードの画面を見せてきた。
「え、いいの?」
「うん」
クラスメイトで隣の席だからとは言え、アイドルが異性の同級生と連絡先を交換するのもどうかと思ったが、本人がいいと言っているから、交換することにした。
教室に戻ると、大城が早速冷やかしてきた。
「お、上手くいったのか?」
「だから告白じゃないって」
「あまり接点ない女子と一緒に出て行って、仲良さそうに話しながら一緒に帰ってきたら、告白してオッケー貰ったとしか思えないだろうが」
「………。確かに」
「納得しちゃってるじゃねえか」
「でも本当に告白とかじゃ無いんだよ。ちょっと話したいことがあってな。」
「ふーん」
「ほら、もう昼休み終わるぞ」
正直ここまで一気に仲良くなれるとは思っていなかったので、少し驚いている。思った以上に友好的な性格なのかもしれない。
午前中あったモヤモヤがなくなり午後はスッキリした気分で授業に集中出来た。
そして授業も終わり帰る支度をしていると
「ねえ遥輝くん、一緒に帰らない?」
涼香が一緒に帰ろうと持ち掛けてきた。
特に断る理由もないので
「いいけど」
なぜか一緒に帰ることになった。
お互いに家がどこら辺なのか話し合いながら帰って行くと、同じマンションに行き着いた。
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