三話【圧倒】
カウントダウン終了と同時にフィールドが照明で照らされ――俺は、この戦いが一筋縄ではいかないことを悟った。
「なんだ、あれは?」
モノとクロはいつの間にか武器を持っていた。それも初めて見る武器だ。
特に目を引いたのはモノの武器で、奈雲が使っていた
「怯むな! 俺たちが一番槍だ!」
「先手必勝!」
血気盛んな二つのグループ、計六人が近接系武器を構えながら飛び掛かる。
「クロ、準備はいい?」
「いつでもいいよ」
前後左右から同時に飛び掛かる六人に対し、クロはその場でしゃがみ、モノは巨大筆の重さを感じさせないスピードで円を描くように薙ぎ払った。
「うおっ⁉」
べったりと白いインクが付着した六人の体は灰色の天井に吸い込まれていった。
立ち上がったクロの両手には、子供が持つには武骨過ぎるサブマシンガンが握られていた。彼はそれを天井付近で浮遊する六人に向けると、躊躇せず引き金を引いた。
「ひ、ひいっ⁉」
たちまち黒いインクまみれになった六人は、今度は床に向かって急降下しドスドスと痛々しい音を立てて床にへばりついた。ゲーム内では痛くもかゆくもないとはいえショッキングな光景に背筋が凍る。
もはやうめき声を上げることしかできない六人の前に、キューブからモノが降り立つ。
「はい、バイバーイ」
腰のホルスターから拳銃を抜くと、笑顔で全員の頭部にCB弾を撃ちこんだ。彼らの体が白く染まって弾け飛ぶと、彼女は拳銃を手元でクルクル回しながら口元を歪めた。
「百五十発もいらないわね。七十発もあれば五十人倒せちゃうんじゃない?」
露骨な煽りに、残る四十四人の半数以上がモノに襲い掛かった。侮辱されたと憤慨する者もいれば、大人数ならごり押しで倒せるだろうと流れに乗る者もいる。
しかし、稲井はそのどちらでもなかった。俺と璃恩の肩を押さえながら首を横に振る。
「今はまだ様子見」
彼女が顎で指す先には接地したキューブがある。俺たち三人は一旦その陰に身を隠した。
「早く行かなくていいのか? 先を越されるかもしれないぞ」
「まずは『白』と『黒』の能力を見極める必要があるでしょ。私たちはあの二人のことを何も知らないし、逆にあの二人はゲーム内の全データや戦法を熟知している可能性がある。ご褒美に目が眩んだ連中が当て馬になってくれているんだから、有効に活用すればいいわ」
俺の感情的な問いに、稲井は冷静な言葉で答えた。
「翔ちゃん、あれ!」
「――あぁっ!」
モノとクロを取り囲む集団の中にエリさんと奈雲の姿があった。全身を色とりどりのインクに染めながら攻め込んでいく。
思わず一歩踏み込んだ俺の腕を稲井が握った。
「何する気?」
「知り合いがあの中にいるんだ! やられるかもしれない!」
「放っておきなさい。負けたところで死ぬわけじゃないし」
「でも!」
「あなた一人が出て行って何が変わるの? それより今は、取り返しがつかないほど戦力を削られる前にあの二人の能力を見極めるのが先決よ」
それは理解している。しかし、この数分間彼らの戦いをずっと見ていたからこそ助けに行きたかった。モノとクロの強さは圧倒的だから。
二人の能力を一言で表すと『重さを操る能力』だ。攻略サイトで学んだことだが、人は明るい色は軽く、暗い色は重く感じる。宅配便などで白いダンボール箱を使うのも荷物の重さを感じさせないための効果を狙ったものだ。〈Colorful Bullet!!!〉においては『白』は物を浮かせるほど軽くして、『黒』は重さを数倍にする効果があるのだろう。奈雲の『鉛色』もこれに近い。
二人は互いにこの能力を駆使し、地上だけでなく高さも活かした三次元の動きでプレイヤーたちを翻弄していた。『白』で羽のように舞い、『黒』でプレイヤーの動きを止めつつ超重量級の一撃を放つ。一対一の戦いしか経験できない俺たちにとって、モノとクロの息を合わせた連携は未知の戦い方だった。
自分の体に白のインクを付けたモノは重力から解放され、宙に浮かぶキューブ間をピンボールのように跳ね回っていた。遠くから見ている俺には、それが地上のプレイヤーを一箇所にまとめているのだと気付いた。その中にはエリさんも奈雲もいた。
「離れろ! 狙われているぞ!」
そう叫んでも届かなかった。
モノは筆を振ってクロにインクを飛ばし、軽くなった彼の手を握って一緒にプレイヤーたちの直上に飛んだ。
モノは巨大な筆を振り上げ、天井を蹴って垂直に落ちる。天井に残ったクロがサブマシンガンで彼女の筆に黒いインクを付着させると落下のスピードはさらに上がり、白と黒の稲妻となって地上を穿つ。
ゴォンッ‼
フィールド中に轟音が鳴り響き、落下地点にいたプレイヤーは白と黒のインクにまみれて倒れていた。やがて地上に降りてきたクロと共に、モノは無邪気な笑顔のまま淡々とCB弾を撃ちこんでいった。エリさんは白く染まり、奈雲は黒く染まって、弾けた。
俺の数え間違いでなければ、たった十分の間に三十五人のプレイヤーがフィールドから消滅していた。その間、モノとクロが撃ったCB弾の数は約四十発。ほぼ一発で仕留めている。
俺の我慢が限界に達しつつあった時、ついに彼女が動いた。
「頃合いね。反撃するわよ」
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