八話【原色】
大会から祝日を挟み、四月三十日(火)。
朝のHR前、案の定璃恩が大会の感想を訊きに来た。俺が一勝したことを称賛してくれたことは素直に嬉しかったが、ブライトのことを事前に教えてくれなかった点はきちんと非難しておいた。
「ごめんごめん! でも、せっかく翔ちゃんが〈Colorful Bullet!!!〉のことを好きになってくれているのに、水を差したくなかったからさ。それに厳しいことを言うけど、翔ちゃんより強い人なんていくらでもいるんだから、いちいち気にしてたら遊べないよ」
「……心遣い痛み入ります」
「だから拗ねないでよー。お詫びってわけじゃないけど、『黄色』のこととか教えてあげるからさ」
「……約束だからな。ほら、そろそろ席に戻れよ」
その直後に担任の先生が来たものだから、璃恩や他の生徒たちは各々自分の席に座る。俺は……変に視線が動かないようにわざとらしく一時限目に使う教科書に視線を落としていた。
四時限目が終わり一時間の昼休みが始まると、俺は璃恩に連れられてコンピュータ室に向かった。
コンピュータ室には約五十台のパソコンが並び、パソコン部員用の数台のパソコンを除いて、生徒たちは昼休みと放課後限定で自由に使うことができる。昔は多くの生徒たちがたむろしていたらしいが、今ではほとんどの学生がスマホを持っている影響か人はまばらにしかいない。
「じゃあ翔ちゃん。〈Colorful Bullet!!!〉の攻略サイトを……やっぱり僕がやるよ」
俺の機械音痴を思い出したのか、璃恩は自分の席のパソコンを起動して検索を始めた。
「攻略サイトはいくつもあるんだけど、僕は運営会社が公開している公式攻略サイトが一番おすすめかな。データが綺麗にまとまってるし、イベントやアップデート情報も漏れなく最速で公表されるからね。サイト内の検索機能はもちろん、各色・各武器のソート機能も使い勝手がいい。邪魔な広告が表示されないのも地味にポイント高いし」
「ふーん……」
「……要は、攻略サイトは実質これ一択ってこと。じゃあ、肝心の『黄色』について見てみようか」
璃恩が画面を数クリックすると、『黄色』の能力説明以外の情報もズラッと表示されて目がチカチカする。そんな俺の様子を見て、璃恩は苦笑しながらディスプレイ上のデータも交えて解説してくれた。
『黄色』の能力とは、一言で言えば「高速移動」。これは黄色の「光」「太陽」「活発」といったイメージに由来しているらしい。それゆえブライトは『光速の女王』『黄色の閃光』などの二つ名で呼ばれることもあるのだとか。
ただし、誰もが黄色の能力を使えるわけではない。
〈Colorful Bullet!!!〉には東日本・中日本・西日本サーバーの三つがあり、プレイヤーは出身地に応じていずれかのサーバーに属している。璃恩は「〈Colorful Bullet!!!〉という世界に三つの国があるイメージで、僕たちは中日本サーバー国のプレイヤー」と説明してくれた。
各サーバーのトッププレイヤー四人は『原色』と呼ばれる特別な色を使うことができる。その内の一色が『黄色』で、他の色とは一線を画す強力な能力を持つ。それについては俺自身が経験したことだからよくわかる。
「〈Colorful Bullet!!!〉における最高ランクはS1だけど、当然S1の中でも順位がある。その中のトップ四人が
「心理四原色?」
「俺も詳しくないけど、赤色なら『最も赤らしい色』青色なら『最も青らしい色』で、全ての基本となる色って感じかな。ちなみに地デジの四色のボタンも心理四原色と同じだよ」
「……あっ、本当だ!」
「それだけ重要な色だから、正真正銘のトップランカーしか使えないんだ。もちろん原色を使う前から強いんだから、鬼に金棒って感じでほぼ無敵の存在ってわけ」
強いとは思っていたけれど、まさか全国トップクラスの強さとは想像していなかった。俺なんかじゃ勝てないわけだ。彼女の自信に満ちた態度にも納得がいく。
ページの下部には自由にコメントを書ける欄があり、黄色の現持ち主であるブライトへの想いが無数に綴られていた。「観戦だけでもしたい」というコメントもあれば、自分で考案したであろう攻略法を主張しているコメントもある。見れば見るほど、俺は雲の上の存在と戦い、あまつさえ告白までしてしまったのだと痛感した。
「翔ちゃん、顔赤いよ。大会で病気でももらった?」
「いや、何でもないから!」
璃恩はいい奴だ。こいつのおかげで俺はブライトのことを知ることができたし、初めての大会で俺が打ちのめされたんだろうと案じて、こうして付き合ってくれている。
それに、この気持ちや気付きは俺一人では抱え切れる気がしない。璃恩なら俺の気持ちを共有しても構わない。いや、共有したい。そう思うと、自然と口が開いた。
「なあ、璃恩。確証はないんだけどさ」
「うん?」
「ブライトの正体、知りたくないか?」
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