三話【色で戦うゲーム】
そうして俺たちは、自転車に乗って彩華高校の最寄り駅である『彩華高校前駅』へと向かった。
俺と璃恩の家は近く、どちらも自転車通学。自宅から二十分ほど南に走れば彩華高校に、さらに学校から三分ほど西に走れば駅に着く。電車通学の生徒なら必ず利用する駅で、駅周辺には多くの飲食店や娯楽施設が立ち並ぶ。良く言えば活気があり、悪く言えば学生を堕落させる蟻地獄といったところか。
自転車でゆっくり回ってみれば、既にファストフード店では
「あ、翔ちゃん! ゲーセンあったよ!」
璃恩がゲームセンター前で自転車を停めたので、慌てて俺も横に停める。
「ゲーセンってあまり行ったことないけど、外から見る分には意外と静かなんだな」
「当たり前じゃん。パチンコ店じゃあるまいし」
大通りに面した一際派手な外観のゲーセンの名前は『ライスボックス』というらしい。これじゃあ『米びつ』じゃないかと思うが、なぜこんな店名なのだろうか?
店名はさておき、外から店内を覗く。出入り口付近にはクレーンゲームの筐体が並び、少し奥に目を向ければメダルゲームや太鼓を叩くゲームの筐体も見える、俺のイメージに近いオーソドックスなゲーセンらしい。
しかしそれ以上に俺たちの目を奪ったのは店内のゲームではなく、店外ののぼりの文字だった。
『Colorful Bullet!!! 四台稼働中!』
「へー、こんなところに〈
「〈Colorful Bullet!!!〉か。俺でも名前くらいは知ってる。アーケードゲームにしては珍しくCMまで放送されてるし」
機械全般に弱い俺は家庭用のテレビゲームすらほとんど遊んだことがないので、アーケードゲームに関しては無知と言ってもいい。しかしこのゲームは例外だ。
〈Colorful Bullet!!!〉それは世界初の〈フルダイブ対戦型
一つは「フルダイブVR」という点。簡単に言えばプレイヤーが作成した
もう一つは、プレイヤー一人一人の個性に応じて『色』が割り振られるという点だ。色にはそれぞれ能力があり、その能力を駆使して他のプレイヤーと戦う。
ゲーム世界の一員となり、自分だけの能力で戦える。その魅力は多くのゲーマーを魅了し、既存のVRゲームを過去の遺物にしてしまった。
熱狂したのはゲーセン側も同様だった。最新技術の粋を集めた〈Colorful Bullet!!!〉の筐体は数あるアーケードゲーム筐体の中でも桁違いに高価らしく、導入できるのは大型のゲーセンばかりだった。
とあるドキュメンタリー番組では、小さいゲーセンの店長が多額の金を借りて筐体を購入し、借金を返済してもお釣りがくるほどの成功を収めた例が取り上げられていた。もちろんその逆も然りで、夜逃げに至った店長も紹介された。
良くも悪くも多くの人生を狂わせた〈Colorful Bullet!!!〉はたびたびワイドショーで槍玉に挙げられるので、遊んだことがない俺でも最低限の知識を持つに至った。
俺が自分の持っている知識を反芻している間にも、近所の大学生らしき男たちがライスボックスに入っていく。会話の中に出ていた単語から、彼らのお目当ては〈Colorful Bullet!!!〉のようだ。
「翔ちゃん財布持ってるよね? せっかくだから一緒に遊んでいこうよ!」
「え? でも俺、遊んだことないし……」
「大丈夫だって! 僕が手取り足取り教えてあげるからさ!」
「いや、気持ち悪いこと言うなよ」
そんなやり取りをしていると、自分の携帯電話が震えていることに気付いた。同時に璃恩のスマホにも着信があったらしい。
二つ折りの携帯電話――今じゃ高齢者でもほとんど持っていない化石のような代物だが――それを開くと母さんの名前が表示されていた。通話ボタンを押すと、案の定「そろそろお昼だから帰ってきなさい」と言われた。璃恩も同じようで、俺に向かって苦笑いを見せている。
通話を切った俺たちは自転車にまたがり、元来た道を戻ることにした。
「そういえば翔ちゃん、気付いた?」
「え、何が?」
「担任の先生。あの人、僕たちが昔トイレにいたずらしたとき、引っ掛かって男子トイレに入っちゃった女の人だよ」
「マジかよ? 世界は狭いなぁ」
「まったくだね」
その話が本当なら、先生が俺たちを忘れていることに感謝した。
帰宅後の話だが、俺は母さんに烈火のごとく叱られた。それはそうだ。入学式に息子の姿はないし、びしょ濡れになって教室に現れたのだから。
夜になって父さんが帰ってきてからは、父さんも交えてもう一度叱られた。記念すべき入学日ということで夕食には寿司の出前を取ったのだが、ばつの悪さで寿司の味もわからなくなり散々な一日となってしまった。
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