アンチテーゼ

やざき わかば

アンチテーゼ

「なぁディラン。俺はずっと思うんだけどな」

「どうしたの、ヒーローくん」


 昼下がりの、おっとりとした街。道行く人も、犬も猫も、車も鳥も何もかも、平和な雰囲気を満喫している中、ヒーローとディランの二人は物騒な話をしている。


「今まで、俺らヒーローや君らディランは、銃撃や爆発は平気だったじゃん?」

「そうだね。当たっても、怪我すらしないことが殆どだった。痛かったけどね」


 どうやらヒーローは、ヒーロー側もディラン側も、斬撃や打撃には弱いのに、銃撃や爆発に強いのはどういうことなのか、と思い悩んでいたようだ。


「妙なことに悩むんだね、ヒーローくん」

「でも不思議じゃないか? 普通の人は銃に撃たれると死んじゃうんだぞ。爆発もそうだ。でも大抵、銃や爆発を使うヤツってなんかこう、弱いじゃん」

「うーん。そんなに言うなら、ヒーローもディランも銃や爆発に弱くしてみる?」

「えっ。そんなこと、出来るのか?」

「うん。ちょっと待っててね。おーい神様やーい」


 ディランが空に向かって呼びかけると、ヒーローとディランを司る神様が降りてきた。


「どうした。ディランちゃん」

「おっはー、神りん。ちょっとお願い事なんだけど、ディランやヒーローが、一般人と同じく銃や爆破に弱い世界を見てみたいな」

「うむ。実際にそういう世界にするのじゃなくて、そういう世界を見たいってことだな。それならお安いご用だ」


 神様はブツブツ何かを唱えだした。


「ディラン、お前ってなんかすげぇな…」

「やだなぁ。褒めても何も出ないよ」

「よし二人とも。準備は整った。じゃあ行くぞ」


 周囲の風景が一瞬切り替わり、また元の場所に戻ってきた。平和な町並みである。ヒーローもディランも見当たらない。


「これ? 普通の平和な日常じゃん」

「まぁまぁ。ほら、何かやってきたぞ」


 銀行強盗をしたと思しきディランが二人、全速力でこちらに向かってきた。後ろには警官が四人。昼間の逃走劇のようだ。


 振り返ったディランは、何らかの能力を使い警官に攻撃をしようとしたが、紙一重の差で警官の放った銃弾がディラン達を襲った。


 胸に一発ずつ、銃弾を食らったディランはそのまま動かなくなってしまった。どうやら死亡したようだ。


 警官はてきぱきと現場の処理を進める。救急車を呼び死亡確認。強奪された金品の確認。現場検証。全ては手慣れたものだったが、そこにヒーローは来なかった。


「え。ヒーローは?」

「まぁ、つまりはヒーローの出る幕など無いし、ディランもおいそれと犯罪行為など行えないということだな。あの二人はよっぽどの阿呆だったのだろう。銃弾が効くなら、銃を装備した人間が動いたほうが効率が良いわけだしな」

「ええ…。こう言っちゃ悪いんだろうけど、なんだろう。つまんね…」

「でも、こんな世界になったら、ディランのほうが一攫千金を狙えるかもってことで、さらにヒーローなんていなくなるかもね」

「夢も希望もねぇなぁ」


 神様は少し、間を置いて言った。


「いや、ヒーローはいるぞ」

「えっ?」

「あの警官の持っている銃と、悪に対する反抗心だ。彼らはヒーローの助けを借り、日々、悪と戦い続けているのだ。何よりも、非力な一般人でも持てる。銃は悪と戦うために、人々に勇気を与える紛うことなきヒーローだよ」


 ヒーローは鼻白んだ面持ちで、答える。


「でもそれって、言い方を変えると一般人が簡単にディランにもなれるってことでしょ? それこそ危ない気がするなぁ。それに神様。なんでそんなに銃を推すの。まるで宣伝をしているみたいだよ。あはは」


 現実に戻してもらった。


 神様にお礼を言いその場を立ち去った二人は、近くのカフェに入って、全く別の話に花を咲かせていた。瞬間、建物が大爆発を起こし、犠牲者が何十人も出る大惨事となった。


 ヒーローとディランも、その爆発に巻き込まれて死亡してしまった。


 爆発の原因を追求するのも大事なのだが、この場合、二人にとって一番重要なのは、銃撃や爆発に強いはずのヒーローとディランの二人が、何故死んでしまったのか。ということなのだろう。


 が、今となってはもう、どうでもよいことだった。

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