鈍色の欠片 2/3
私は今年社会人2年目の会社員だ。
ようやく仕事にも慣れてきて、効率化を考え始める頃だ。今日も朝5時に起きて支度をし、家を出……るはずだった。
ところが、家から出た私は見たことのない場所に踏み入れていた。
そこは地下のように見える。
というのも、かなり暗いからだ。
不意に冷たい風が吹き抜けたような気がして、足を止める。
後ろを振り返ろうとして、止めた。
何故だか嫌な予感がしたからだった。
もう一度周りを見渡す。
何度見てもそこは見慣れた道ではない。
ましてや家の周辺にはこのような場所は無いはずだった。
だとしたらここは……どこなのだろうか。
壁は打ちっぱなしというか、コンクリートですらなく風化した石レンガのように見える。
どこかの遺跡だろうか。
そして、恐ろしいことに薄暗い。
光は後ろから来ていて、前方にはあまり光が届いておらず、目を
まぁ、これだけ暗いのだ。目が慣れたところで見えるはずもない。
精一杯強がってはいるが、内心はパニック一歩手前だ。
そこで、あることに気がついた。
こんな非現実的なことが起こるはずがないのだと。
ともすれば、これは夢であり、おそらく朝起きる夢を見たのではないかと、そういう結論がものの数秒で出た。
そういうことであれば何も心配はいらない。
ここまでリアルな夢は
それならば起きようと思ったが、
だとすれば、恐ろしくはあるが先に進んでみても良いかもしれない。
夢から覚める時といえば、幸せの
私は意を決して奥へと歩き始めた。
不思議なことに光は私に付いてきた。
ぼんやりとした頼りないものではあったが、無いよりはマシだ。そこから若干ながらも勇気を得た私は少しばかり足を速めた。
ところが、だ。
通路を抜けた先で私は足を止めた。
そこには
そして部屋の中には私の腰の高さほども
蛇共はその毒の
こんなのは聞いてない。
そう私が思った瞬間、大蛇の3対の
元の小部屋に戻って来た時、私は心底
思わず胸に手を当て、息を吐き出そうとした、その時だった。
私の手は硬質なものに当たり、カチャ、と音が鳴ったのだ。これは妙だ。そう思い何気なく手に視線をやると。
……何だこれは。
それは金属の板のように見える。指に当たる部分は幅の小さい長方形のそれで、間接はボルトで固定されている。金属の板からは蛇腹の薄汚れたホースのようなものが視界の外へと伸びている。
これが、私か?
私は一体、何なんだ?
腹部は結晶の集合体のようだった。
腰は金属製の大きな箱のようだ。
そこから伸びるのはやはり蛇腹のホースで、その先は金属と思われる材質のブーツへとつながっている。
息が苦しい。
少なくとも、人間ではない。
いや、待て。
まだだ。
頭部はどうなっているんだ?
そう思い、顔に手をやるが何かに当たって弾かれて固まる。
諦めず、何度か別の角度から手をやるが、それも全て弾かれる。
少なくとも、人間の頭ではないようだ。
分かったのはそれだけだった。
私はその場にへたり込むように座り込んだ。
いくら夢だとしても、これはあんまりだと思う。
部屋の外には化け物がいて、まさか自分も化け物の類だとは。
自分が自分ではないことが、こんなにも空恐ろしく、不安感を
私はそのまま、全ての意欲を失って、気が付けば金属の指で足元の石レンガに傷をつけて落書きしていた。なるほど、指が金属質であれば、こんなこともできるのか、とふと思う。
そうか、今の私は硬いのだ。ともなれば、先ほどの化け物共にも引けを取らないかもしれないではないか。
何しろ、蛇共はその毒をどこに流し込めばいいのだ?
もしかすると骸骨共の持つ武器も私に傷を付けられないかもしれない。
私は立ち上がって腕を組む。
そうとも。今の私はほとんど無機物のようなものだ。
傷つけられて血が流れるような構造ではないし、逆に殴りつけて打ち倒せるかもしれないのだ。
そうと分かれば行こうではないか。
私は少し腰を落として両腕を少し曲げて構え、勢いに任せて走り出した。
両足が石レンガとかち合い、ガンガンとけたたましい音を鳴らす。
さぁかかってこい!化け物共!この化け物が相手だ!
だが、私は失念していた。
私は化け物だと気付いたばかりで、相手は熟練の化け物たちだ。
つまり、化け物として過ごした時間の密度が違う。
むしろ私が化け物になったところで同格になっただけであり、実力には大きな
結論から言えば、私の胴体は骸骨の振るった武器に粉々にされると同時に盛大に爆発し、同時に私の意識も途切れた。
それはやはり、夢だったのだろう。
私は今でもあの出来事を思い出すが、思い出しては現実はあれほどの恐ろしさは無いな。と思っている。
度胸はついた。そのことだけはあの夢に感謝している。
だが、あんな悪夢はもう二度と
私は今年大学二年生になったインドア派女子だ。
こうみえて結構充実した大学生活を送っている。
ゲーム実況が仕事になる時代で助かった。
ただ、私がしたいのはFPSプレイヤー達のような実力主義の世界ではなく、新しいゲームの広告やレビュワーだ。
個人でゲームを作れるようになり、ぽんぽんと新たなゲームが生まれる中で、広告は幾らあっても足りないぐらいだ。だから、私はそのうちの1人になれればいいな、と思っている。
思っていた。
私は自分の意志ではなく、そこに向かっていた。
そこは石造り《いしづく》の小部屋のように見える。奥の方は薄暗がりになっていて見えない。石レンガで出来たその部屋は所々苔生しており、その石レンガは角が劣化して欠けている。それなりに時代を経た場所なのかもしれなかった。
まるで夢遊病のようだったと思う。
ふと気が付いた時には部屋の中に居て、なんとなくぐるりと見渡していた。といっても、何かあるわけじゃない。殺風景なその部屋には何も置かれていないように見えたからだ。
というのも、部屋の奥は暗くてよく見えないからだった。
かろうじて部屋の奥に通路が一つあることは分かるが、その先は暗くて見えない。
私は首を傾げ、ここがどこなのかを考えながら、顎に手をやろうとした。
しかし、そこに顎はなく、私の手はそのまま奥へ貫通した。
慌てて手を引っこ抜く。
顔の
ここ、これ、どど、どうなってるの???
顔、顔どこいっちゃったの?
確かに私の顔はあんまり美人とは言えないし、目もぱっちりじゃなくて細目だし、声も可愛くなくて低めだけど、だからってなくすのは無しじゃない??
なんで??何が起こってるの???
もしかして私、幽霊になっちゃった…?
ここ、恐い怖いコワい!!
幽霊嫌い!こわい!!イヤ、イヤ!イヤだぁっ!!
あいたぁっ!!?
思いっきり何かにぶち当たった私は勢いよく弾かれて尻もちをついた。
お陰で少し落ち着いたけど……これ、どうなってんの?
目の前の空間をぺたぺたと触ってこんこんとノックするように叩く。
どうやら、ここには見えない壁があるみたいだった。
ここから出て来たのに戻れないってなんなの…?
そう思いながら肩を落として、暗い方を見る。
ゲームなら怖くは無いけど。ここはなんだか妙にリアルだ。
石造りだからか、肌寒いように思えるし、まだお尻もジンジンしている。
だけど、こっちが行き止まりなら、先に進むしか、ないか。
そう覚悟を決めて、通路の方へと歩き出す。
そうすると、不思議と通路が明るくなった。
歩きながら見回せば、どうやら私の周りがぼんやり明るくなっているようだった。
明かりがあるなら、いや、でもやっぱり心細い、かも。
そんなことを思いながら歩き出す。
私は嫌なことはさっさと終わらせたいタイプだ。
だから多少恐くても歩を進めていた。だけど。
通路よりは少し明るそうな部屋が見えてきた時、私は立ち止まってしまった。よりにもよって、スケルトンだった。
私が嫌いなモンスタートップ3に入るそれは、カタカタと骨を鳴らしながら部屋の中を歩き回っている。うぅ、絶対夢に出るやつ。
だけど、どうしよう。私には対抗手段が無い。
武器は持ってないし、防具だって無い。この服にも防御性能は、ってあれ?私こんな服着てたっけ?
その服はチェック柄だ。私はあんまり明るい色の服は着ないし、派手な柄も着ない。これは、何というか、赤地に黄色の細いチェック柄のシャツに、ベスト?ウエスタンかな?という感じの服だった。
シャツは長袖で、手には白い手袋を着けている。
いつの間にコスプレしたんだと思うと同時に、どうせなら可愛い服が良かった、とも思う。
でも、そんなことを考えてる暇じゃなかった。
スケルトンに目なんか無いはずなのに、目が合った。合っちゃった。
途端に駆け足で走ってくる!やめて来ないで!!
そう思ったけど、意外とスケルトンは遅かった。
駆け足だけど、随分とスローモーだ。ふざけてるのかと思ったけど、そういえばあるゲームでは、動きは遅いけど力は強かったことを思い出した。
だけど、それなら反撃しないと今は良くても、いつかは部屋まで来られてしまう。どうしよう、と思っていると、ふと自分がウエスタンコスプレなことを思い出した。
どうせなら、こうやってバーンとか。
と思い、構えたら銀色の渋カッコイイピストルが出てきて、そこから発砲音と共に飛び出した弾丸がスケルトンの脚の骨に当たり、骨が砕け散った。
……へ?
ピストルをまじまじと見てから、スケルトンを見ると、スケルトンは片足を失ってもがいているところだった。
でも、その音で他のスケルトンが気付いたのか、こっちに向かって移動してきている。まま、待って。とりあえず確認させて!!
慌てて少し明るい部屋から飛び出して、元の小さな部屋へと戻る。
もう気付かれてるから全力だ。運動不足の全力なんてたかが知れてるけど、出来るだけ時間を稼ぎたかった。
部屋に戻って、少し呼吸を落ちつけてから、その
間違いなく
私はFPSゲームは少ししか触ったことがないので、銃についてはよく知らない。
でも、
いや、これはもう勝ちゲーです。
そう思った私は、これならいけると頷いて通路の奥へと進んだ。
スケルトンがナンボのもんじゃい!
その日、私はスケルトンが恐くなくなった。
……いや、ごめん嘘。やっぱりまだちょっと怖いかも。
それと同日かは定かじゃない。
だけど、私はまたそこにいた。
一度やれば慣れたものだ。
まずはコスプレの確認から、と思って慣れた動作で両手を見てみたら毛糸だった。
は?
ちょちょちょっとまって。これでどうしろと?
慌てて全身を見てみると、毛糸でぐるぐる巻きの何か、というか、毛糸そのものだった。いみがわからないよ……。
! もしかして他になんかあるとか!
そう思って辺りを見回してみたけど何もなかった。
いや、分かってたし。
そう思いつつも体は正直で、壁を背に脱力してそのまま座り込む。
そして、現実逃避したくて、毛糸の膝の間に頭を埋めた。
毛糸はふわふわで、きもちよかった。
だけど、いつまでもこうしていても仕方がない。
結局、これが夢なのかなんなのか分からない以上、先に進んでみるしかない。
とはいっても、この体で一体何が出来るのかは確認しといた方がいいよね。
そう思って立ち上がる。
それから、改めて両手を見てみた。
指は無い。もうなんか、棒状のものに毛糸をぐるぐる巻きにしましたってな感じの見た目だ。……いやほんと、これって何なんだろう。
試しに
だけど、何かできないとどうしようもない。
そのままぷるぷる耐久してみたけど、結局何も起きなかった。
こうなりゃ
そう思って自爆特攻することにした。
でも実際に自爆するわけじゃないから無策の突撃だ。
私は両手を振り回しながら、通路を走ってその先の部屋に突入した。
目を瞑っていたからどうなったのかは分からない。
だけど、撃破したような手応えはなかったから、モンスターにやられたんだと思った。
その2つの夢は、私の将来に大きな影響を与えることになった。
なんとなく創作意欲が刺激されて、暇つぶしに3Dモデリングをつついていたら、思いの
でも、あれからああいう夢は見ていないので、有名人ではない。
無いけど、まぁそれなりに充実はしてます。
……ホントだよ?
おわり?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます