細い白の走る空色 - 2
「ぁ……え?シューティングスター?」
それはあだ名だった。丁度私が始めた頃に
スクリーンショットは本人の許可がない限り、顔と名前が映らない。だから無許可のSSはその装備やアバターで判断するしか無い。
その
SSの許可を取ろうにも本人の許可を取るための接近すら許されないほど移動速度が速く、別名、ニンジャとも呼ばれていたほどだった。
それでも流れ星のあだ名がついたのは、もちろんキラキラのエフェクトが付いていたことも理由としてあったけど、一番は瞬く間に視界から消えてしまうことと、
だけど、
「シューティングスター……?」
まさかの本人はそれを知らない様子だった。それを見て、折角上向きになりかけた気持ちが沈んでいく。そいつも私の目から光が消えるのが見えたのか、慌てた様子だった。
「あ、あのこれ。もしよかったら……」
眼の前に譲渡のウィンドウが開く。もので釣ろうと言うのか、と思う反面、あのシューティングスターが何をくれるのかという期待も僅かにあった。
結局、迷った末、私はそれを開いた。
それは1本のスクロールとスクリーンショットだった。
そこには……
「ぁ………う」
なんで、どうして、そう思う間も無く、そいつは一言だけ言って消えた。
そこに写っていたのは<
それは私が入ることが出来なかったエリアの内側から撮られたものだった。
「……ぁ 来てくれたんですね」
彼女が来てくれて正直ホッとした。何時まで待ち続ければいいのかとふと思って、思いつきで行動したことを後悔するところだった。
ここは彼女が初めて
そして未だに誰も踏破していない場所。
その先だ。
たどり着いたのはただの偶然だった。
いつもみたいにただ踏破したくて、たまたまここがルート直線上に掠っていたからだった。
それが正規なのか、非正規なのかは分からない。だけどこの中に何があるのかは、たぶん僕だけしか知らない。そんな場所だった。
「あんなもの見せられて、気にならないわけないじゃない」
彼女は……あの頃から配信中でも時折不安そうな顔をするようになった。それが見ていられなくて、なんとなく見なくなった。
それまでが快進撃で、そこが初めての彼女にとっての挫折だった。やっぱり、とか、ダメか、とかそんなコメントを見るのも嫌だった。
その頃に会えばよかったのかもしれない。メッセージを送ればよかったのかもしれない。でも、なんとなく目立ちたくなくて、なんとなく独り占めしたくて、機会を逃してしまった。
あんな風に落ち込むようになるのなら。でも。今来てくれたのなら。あるいは。
「勿体ぶってないで教えなさいよ。そのために呼んだんでしょ?」
「ん、ごめん。じゃあ行くよ」
「行くってどこに」
まず、三角飛びで3本の木の幹を
そうしたらそこから
「ねぇ!ちょっと!まさかとは思うけど真似しろとか言うんじゃないでしょうねぇ!!」
と、そんな声が聞こえてきた。
「そうですよ!」
そう言うと黙ると思ったので
「そんな訳ないじゃないですか!」
と間髪入れず否定した。
「ちょっと予行演習ですよ。久しぶりなので感覚を掴んでおこうと思って」
「……予行演習、ね」
「ただ、そうなるとおんぶか抱っこになりますけど、どうします?」
また無言になると思ったので、今のうちに内側に降りる練習をする。これはアイテムを使えば簡単だ。踏破する時はロスになるから基本使わないけれど、今回は関係無いので安定性重視で行こうと思う。
それに今回は荷物もあるし……
やり方は難しくない。
掴んだ手を放して、角の壁をそれぞれ蹴り、先に滑り込む先にポーションを投げておき、ダメージ覚悟で滑り込み。途中でポーションのエフェクトに当たって、黄色になりかかったHPバーを回復させつつ、摩擦で勢いを殺しておしまいだ。
上がる必要はない。なぜなら
「わっ!?お、お、驚かさないでよ!びっくりしたぁ……」
流れ星は扉から突然現れた。バグみたいに貫通して来たからとても心臓に悪い。しかも、そいつはニヤニヤしていた。気に食わない。
「で、おんぶか抱っこか決まった?」
「……抱っこで」
とはいえ、ここは相手がやりやすいようにした方がいいと思う。おんぶでは首が締まる可能性がある以上、前側から掴まる抱っこの方が
「ほんとにいいの?」
「へんなとこ触ったら殺すから」
「片手で支えるから……
「えぇ……」
ここまで正直だと逆に清々しいかもしれない。まぁ、最前線のプロと
「じゃあ膝付くから……首に手を。あ、ハラスメントは解除お願いします」
「そっちもね……よいしょ、っと」
これは……思ったより不安かもしれない。流れ星が立ち上がると視界がいつもより少し高くなった。私の体が強張ったのが伝わったのか、彼はこっちに顔を向けること無く、そのまま言った。
「大丈夫。落ちてもリスポーンするのは僕だけだよ。
それはそれでちょっと不安かもしれない。
「じゃあここからはお喋り無しで。集中したいから」
そう言うと、思うより緩やかに走り始めて、先程より丁寧に円を描いて最初の木を蹴った。振動は思ったよりも無い。ただ、遠心力なのか、外側に引っ張られる感覚は少しあった。
不安はある。でも、掴まる彼の身体は私なんかよりもずっとしっかりと安定しているようで、私がいることでバランスが崩れるかもしれないという不安はすぐに無くなった。
「少し揺れるかも」
そう言った後に、ダン!という音の割には小さな振動が伝わってきた。
もうここまで来ると認めるしかない。
もし彼が人を抱えてこんなことをするのがこれが始めてなんだとしたら。それはきっと生まれついての才能でセンスなんだと思った。
それは不思議と簡単に受け入れられた。それを実際に体験したからなのかもしれなかった。
「ここからちょっとごり押すけど、大丈夫だからね」
そう言うと、彼はポーションを2本取り出し、まず一本を地面に投げた後、2回目の壁蹴りの直後に2本目をその奥に投げた。
そして、勢いよく地面を滑る、滑る。
あっという間に削れる彼のHPは最初のエフェクトに当たり緑色まで回復するとすぐに黄色に削れて、次で緑色になり、また黄色まで削れる。
だけど勢いは止まらない。このままだと壁に衝突してしまう。私は咄嗟に勢いを殺すために風魔法を放とうとして……打ち消されて唖然とした。
そういう場所だとは知らなかった、では済まない。私は大丈夫だろうけど彼は。
場所は知っているだろうけど、彼がリスポーンして戻ってくるのは何か違う気がして。やっとインベントリから取り出したポーションは投げることが出来ずに、私たちが壁に衝突する勢いで割れた。
「あッッッ……ぶな」
見てみるとHPゲージはミリだった。
僕は帰ってこられるからリスポーンしても良かったけど、それはそれ、これはこれだ。
彼女の機転で生き残ったんだから、これは
「っ くく」
「はは」
「「あははははは!!!」」
二人で生き残ったことを喜んでもいいんじゃないかな。
そうやって僕たちはしばらくお腹を抱えて笑っていた。
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