【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。

かずき りり

第1話

「アマリア・レガス伯爵令嬢!其方を王族に毒をもったとして処刑とする!」

「……え?」


 いきなりの事に、呆気に取られてしまう。一体この人は何を言っているのだろうと、頭の中に疑問符ばかりが浮かぶ。

 前触れもなく現れた近衛兵達に有無を言わさず王城へ連れてこられて、貴族達が立ち並ぶ部屋へ連れてこられたかと思えば、これだ。


「立て!」

「キャッ!」


 兵士達が私を罪人のように掴み、そのまま無理やり立たされた痛みにて、やっと今この瞬間に起こっている事が全て現実だと受け入れられた。

 あまりの恐怖に身体は震え、大粒の涙が次から次へと零れ落ちる。だって、さっき処刑って言ってたよね……つまりそれは……。


「私はやっていません!」


 精一杯の声で泣き叫ぶ。だって、知らない。王族に毒が盛られた事……言ってしまえば、王族の誰に盛られたのかすら知らないのだ。

 ――つまり、冤罪だ。


「今更自分の大罪に怖気づいたか!」


 信じてもらえず、そう叫び返された声で息を呑んだ。本当にやっていないのに、という思いと、どうして信じてもらえないのか、という思いから涙を流して頭を左右に振る事しかできない。

 けれど、兵士達は問答無用と言わんばかりに私を連行しようとする。

 誰か……誰か!!

 そんな思いで視線を彷徨わせていると、涙で歪んだ視界の端に婚約者の姿が見えた。

 助けて。

 出てこない声……だけど、口だけは確かに動いた……と、思う。けれど……婚約者は私から視線を反らすだけで、助けようとはしてくれなかった。

 悲しい表情も、怒るような表情も、何もなく。ただ無表情に視線を反らすだけだった。


 ――どうして。


 ただ婚約者の態度に目を見開いて、無抵抗に引きずられて歩くように連行される。

 どうして、どうして、どうして。

 ただ、その言葉だけが頭の中を反芻し、涙は次から次へと溢れ出す。

 ……先ほどまでとは、違う理由で。


 ――どうして目を反らすの。

 ――どうして助けてくれないの。

 ――どうして表情すら変えてないの。

 ――どうして声をあげてくれないの。

 ――どうして……助けてくれないの。


 沢山のどうしてが頭の中で繰り返される。

 ……私がやったと思ってるの……?

 信頼する婚約者に見捨てられ、絶望が思考を支配する中、ふと婚約者の隣に居る女が視界に入った。

 親しそうに、腕に寄り添い……そして、その口元は口角を上げて微笑んでいた。まるで邪魔者である私が消える事を喜んでいるかのように。

 私が、正式な婚約者なのに、だ。

 心が引き裂かれたかのような痛みが走り、身体は生きる気力すら奪われたかのように、無気力で動かないのに、痛みだけが生きている実感を与える。

 そのまま私は兵士達に牢へ連行されるも……その後すぐに斬首刑に処され、絶命した。




 はずだった。


 私は、そこで死んだ筈だったのに……。




「お嬢様!いつまで寝てるんですか!?」


 カーテンが開かれ、まぶしい朝日が部屋に入り込み、瞼を閉じたままでも分かる眩しさに目を覚ます。

 侍女が朝の用意に訪れ、モーニングティを差し出されるも、私は現状を理解するのに精いっぱいだ。というより、寝起きで頭の回らない状態では混乱に混乱を呼ぶだけだ。


 ――確か私は死んだ筈。


 それだけは確かな事だと言い切りたかったけれど……本当に?

 こうやって朝を迎えて起きれば、どちらが夢なのか分からなくなるほどだ。でも自分的には両方現実のように思えて仕方ない。だけれど……どうして?

 両方を現実だと考えるならば、時間が巻き戻ったという事だろうか。


「お嬢様……?大丈夫ですか?」


 侍女であるルアが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「ルア……今日は何年何月何日……?」


 いつも通りの朝を迎える。そう、いつも通りすぎて今日がいつか分からない。

 もしかして処刑されてなくて、処刑の翌日かもしれない。そんな事を願いながら問いかけると、ルアは怪訝な表情をしながら、およそ一年前の日付を口にした。


「学園に入る……前……」

「お嬢様……?」


 私の言葉にルアは更に心配したかのような焦った声を出す。その事に私は少し焦り、ありがとうと声を出し、紅茶を手に取った。

 その様子を見てルアは安心したように息を吐き出した後、言葉を続けた。


「本日はジーン公爵令息様がいらっしゃいますからね。……でも、体調が悪いならあまりご無理をなさらないようお願いしますね」


 カラルス・ジーン公爵令息。

 私にとって最愛の人。そして……私を見捨てた人。

 巻き戻る前であれば、体調が悪かろうが、何があってもカラルスが来ると言うならば絶対に会う。むしろそれ以外の選択肢はないという程だ。

 一度高熱を出した状態で、身体を引きずるかのような状態でも会った為、周囲が物凄く心配性になってしまった程だ。お陰でカラルス関係に関してだけは、侍女達が私の体調をいつも以上に観察するという程に。

 そして……まだ、あの女とは出会っていない。

 あの女は学園に入ってから出会ったから……。


「お嬢様!?」


 思わず震えた身体をルアは見逃さず、焦ったかのような声を出した。

 小さい声で大丈夫よ……と呟きながらも、もう少しだけゆっくりさせてと願い出ると、ルアはまた来ますと部屋を出て行った。

 ……連行されている時の、あの女がしていたニヤついた顔を思い出して、思わず鳥肌がたった。

 これから処刑されるという私に、嬉しそうな顔をしていた不気味さと恐怖。


「本当に巻き戻ったという事かしら……それとも、現実じみた夢か……」


 そう呟きながら、私は思い出す。というか、カラルスに関しての事は忘れない。

 学園に入る前、カラルスが訪ねてきた日に起こる事が同じか確認をするのだ。


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