戦い終わって
各地の現場から爆撃隊の撃墜及び空母の撃沈報告が上がり、翌19日に一般に報じられた。
軍艦マーチと共に大本営発表が流されたが、横須賀鎮守府の会議室に詰めた将校達の顔は疲れもあり暗い。
「まだ本決まりじゃないが、呉の連中は昨日の迎撃戦を受けて連合艦隊司令部を陸上に揚げる事に同意したそうだ。
本土上空に侵入された事がよほど堪えたらしい」
平田長官は苦笑いを浮かべながら言った。
発言を受け、横須賀の通信部を統括する谷恵吉郎大佐は鼻白む。
「
軍令部からなら兎も角そもそも管区が異なるとボヤいた。
敵機の通過を許した木更津に対し病み上がりの山本長官から叱責が飛んで来たが、木更津を指揮下に置く平田以下横須賀は越権行為と反発した。
IFFも故障して引き返してきた陸攻の可能性も捨てきれず、指揮所に詰める参謀の数も通信能力も空間に制約がない地上の方が上である。
代行する能力が無い者の物言いは雑音でしかなかった。
「富津と霞ヶ浦の漁協に対空砲の不発弾と墜落した敵機引き揚げに対する詫び状を書かにゃならん。
現場からの報告の取り纏めは頼んだ」
平田はそう言うと会議室を後にした。
「お任せ下さい」
背に応える谷に伊藤が近付く。
「谷大佐。
自分も富士通と東北大学に用がありますので失礼します」
「あっおい」
谷が呼び止める間もなく、伊藤は人の波に紛れ去っていった。
──東北大学、電気通信研究所──
『浩研究員、海軍の伊藤中佐からお電話です』
受付から連絡を受けた浩は怪訝な表情を浮かべながら言った。
「はいはい、どうぞ──もしもし?」
『やっと繋がったか、俺だ、伊藤だ。
突然で悪いが
「もう一度って……富士通に製造権譲渡してますからそっちに話を通してから『先に電話したが手一杯だと断られた』……でしょうね」
小川兄弟は35年にリレー計算機を開発した後、より高速な計算機であるパラメトロンコンピューター開発の為、その原料となるフェライトを生産する東京電気化学の社長を務める斎藤憲三に接触。
フェライトの発明者である東工大の加藤与五郎、武井武両博士も巻き込みパラメトロン用フェライトリングを発注していたのである。
両博士が1930年に開発した物は酸化鉄に亜鉛を添加していたが、奇しくもパラメトロン用として最適だった為材料に起因するトラブルは起こらず、製造場所を極東最大級の電気街である秋葉原に近い東京ではなく東北大学に置いた事を除けば開発は順調に進んだ。
未だ学生だった喜安善市もメンバーに加え、彼が57年に完成させたMUSASINO−1相当の機種を一型と呼称し38年に製造。
この電気機械は計算速度が従来のタイガー計算機の2万倍を誇り好評を博したが、部品調達に難があり製造に時間がかかった為拠点を東京に移し、東大物理学科助手の高橋秀俊や同科に在籍していた岡崎文次らと共に高橋が後に開発するPC−1相当の計算機──一型の2.5倍の性能で二型と称した──を39年に。
計算速度が二型の2.5倍のPC−2相当の機種を三型と称し41年に製造。
後継のトランジスタは歩留まりが悪かった為、三型は完成早々柏の防空指揮所に移転していた。
「陸が持ってるなら海軍でも欲しいってアレは玩具では無いので……」
『
新型も不安定と聞くし何とかさせるから頼む』
伊藤はそう言うと電話を切った。
(
トランジスタはゲルマニウムすっ飛ばしてシリコンでやってるが樹脂がなぁ……)
浩はそう思考すると溜息を吐いた。
半導体製造に必要な超純水を精製するのにイオン交換樹脂は不可欠だが、先行していた独から無断コピーを警戒された為量産技術の導入が遅れ、日本では未だ実験室レベルに留まっていたのである。
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