ドゥーリトル空襲その三
──鹿島灘沖、加賀艦上──
「横空より入電! 大型機のみの編隊十数機が低高度を速力二四〇ノットで方位二七〇へ向け飛行中。
敵編隊の現在位置北緯三六度四〇分、東経一四九度!」
「南東だな、攻撃隊を出せ。
随伴艦には敵編隊を捕捉した場合敵情を横須賀に打電するよう通達。
後は東部軍に任せて我々は打ち合わせ通り艦隊を叩く」
伝令の報告に座乗していた第三航空戦隊司令官の桑原少将がそう指示を出すと、幕僚達が一斉に動き出した。
五分程で風速十mの北風に煽られながら空六号電探を搭載した艦攻が発艦。
やや遅れて攻撃隊が電探搭載機に続く。
陣容は九七式艦攻二十六、九九式艦爆二十六、零戦十七機の六十九機である。
発艦時間は従来より短い。
戦間期に小川兄弟や米独から齎された各種工作機械や生産技術により工作精度が向上。
オイル漏れチェックを兼ねて整備兵がプロペラを手で回す必要が無くなり、車輪止めさえ外せば搭乗員一人で始動、発進が可能になったのである。
(矢は放たれた。
報告を受信した木更津航空隊も離陸した頃だろう。
敵空母二隻……いや、一隻は報告にあった大型機を載せていたようだから互角か。
剣崎型は仕方ないがせめて千代田の改装が間に合っていれば……今更だな)
艦上から
剣崎以下三隻は潜水艦の増勢に伴い純粋な潜水母艦として竣工。
千代田は松型駆逐艦の建造が終わりを迎えつつあった横須賀工廠で空母に改装中だったのである。
全機発艦から一時間後、真っ先に離陸した艦攻の機内に叫び声が響いた。
「電探に感!
方位〇二一、距離一二〇〇(〇〇)、大型艦複数!」
独伊の教導により雑音が小さくなった無線から状況を把握した編隊は、高度を上げつつ逃走する米艦隊に変針。
程なくして敵直掩機発見の報が入る。
「敵機約六〇、正面距離八五〇、高度四〇に在り」
「数はこっちが多いが、高度は同じか……」
艦爆に乗っていた森川一飛曹は冷や汗をかいた。
春とはいえこの高度では零下を下回っている。
投下高度付近で照準眼鏡が曇る夏や南方よりやりやすい事だけが救いだった。
(訓練通りやるだけだ)
森川は心中で呟くと、操縦桿を軽く引き起こした。
‡ ‡
「西方より敵機、約七〇!」
「馬鹿な、早すぎる!」
ヨークタウン艦橋でフレッチャーは驚愕した。
「確かに潜水艦や偵察機の通報を受けて本土から発進したにしては早すぎます。
近海に空母が居るかと。
電鍵のパターンから判断しますと相手はカガです」
「カガの母港はサセボの筈だ、ツイてないな」
部下の報告にフレッチャーはそうボヤくと、唇を噛んだ。
敵の哨戒が予想される海域目前でレーダーが船を探知したが、艦載機から潜水艦との報告を受けた幕僚の一部は気象観測の為先行させたスレッシャーだと思い込んでいた。
だが通信しても応答が無く、発信電波は友軍の物ではなかった為敵と判断。
海空共同で撃沈し、続いてやって来た偵察機も撃退したものの時既に遅く、恐れていた事が遂に起きたのである。
「
友軍の絶叫が響く中、艦攻や艦爆の外縁を固めていた零戦が翼を翻し向かってきた。
加速、上昇性能の高さに目を見張った米軍搭乗員は20㍉に砕かれ次々に墜ちていった。
護衛時の速度──400㎞/h前後の機動性は日本側が勝り、馬力が劣り重い米軍機は一対一の格闘戦では勝ち目はなかったのである。
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