第2話(3)

 ソルドバージュ寺院前は、広場を囲うように様々な店が軒を連ねている。

 その中の一つに家庭用園芸店ポートはあった。

 イヴが着いた時、店の前に馬車が停まっていたが、ちょうど帰っていくところだった。

「じゃ、フランソワさん。

 次の納品は一週間後に。」

「はい、ありがとうございます。

 ハイランドさん。」

 ハイランドと呼ばれた男はイヴの存在に気付くと軽く会釈し、馬車に乗って去っていった。

 フランソワの足元には、袋詰めされた土が大量に置かれている。

 フランソワも、イヴの存在に気付いた。

「あ、いらっしゃいませー。

 ちょっと片付けますので、店内を御覧になってて下さい。」

「あ、はい。」

 はいとは言ったものの、置かれていた土袋は20あった。

 これを一人で店の裏手に全部運ぶのはキツいわね。

「手伝いますよ。」

「あ、ありがとうございます。

 でしたら裏手の方に。」

 裏手にまわると大きな畑が見える。

 様々な花が咲き、脇には植木鉢が山積みになっていた。

「ここに置いて下さい。」

「はい。」

 植木鉢の脇に次々と土袋を置いていく。

 全て置き終えると、二人は大きく一息ついた。

「どうもありがとう。

 御礼に良い土でサービスするわ。」

「あ、あの教えてほしい事があってきたんです。」

「私に?」

「私、ニードルのイヴといいます。

 この花が何の花か教えてほしいのですが。」

 花を見て、フランソワが怒りの形相になる。

「どういうこと?」

「え?」

「押し花でもないのに花が萎れているじゃないの!

 花を何だと思っているのよ!」

 あ、なるほど。

 そういう意味で怒っているのか。

 花屋さんだもんね。

「さっさと土に還してあげて!

 話す事なんて無いわ。」

 え、それは困るんだけど。

「いや、あの、この花は女の子の服に付いていたものらしくて・・・。」

「さっさと帰って!」

 取り付く島もない。

 仕方ない、キャサリンに言われた通りにするか。

「実は、ケイトと一緒に仕事している内容に関わる事なの。」

 するとフランソワがグルリと勢いよく向き直る。

「なんですって!?

 お姉様の!!?」

 え?

 何この反応?

「何故それを最初に言ってくれないんですか!

 さあ、よく見せて下さい!!」

 何この切り返しの素早さと激しさは?

 変なスイッチが入ったみたいだけど・・・まあいいか。

「これです。」

 フランソワは、そっと右手で受け取った。

「・・・これは毒花ペレス。」

「毒!?」

「毒といっても麻痺毒ね。

 死には至らないけど、強力である事は確かよ。」

 そう言ってフランソワは、姉さん被りしていた布を取り外す。

 エルの深緑色とは違う、明るめの草原のような緑色の髪。

 エルフのような綺麗な目鼻立ちだが、耳を見る限りは人のものだ。

 ハーフ・エルフなのかしら?

 そう思っているとフランソワが話を続ける。

「病院で使用する麻酔薬の原料として活躍している花。

 手術には欠かせないわ。

 人の命を救う為に使うなら理解出来る。

 でもニードルに狙われるような目的に使用しているなど、私は絶対に許さない・・・!

 イヴ、私にも協力させて。」

「え?」

 そっちの方向に話が流れるの?

「お姉様の為なら、お店をたたんででも精進してみせますわ!

 私の花魔術なら、きっと役に立ちます!!」

 花魔術?

 どこかで聞いた事が・・・あ!

「森の女神!」

「私の二つ名を知っていたんですね。」

 花魔術だけでない。

 魔法使いとして、王国ナンバー5の実力者だとも聞いている。

 確かに実力なら申し分ない。

 ちなみに人形娘ドールがナンバー3、ケイトがナンバー2、ケイトの師ポーラがナンバー1だ。

「分かりました。

 宜しくお願いします。」


 イヴのこの決定は、ケイトにとって最大級の爆弾であった。

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