私が書いた、宝の地図

つきまる

プロローグ

第0話 出会い

 宝の地図を書く者は、誰しも自分の目的を持っている。

 誰かを幸せにするため、誰かを不幸にするため、自分の幸せのため……

 運で、たまたま宝を見つけるなどといったことは、あっても良いのだろうか。

 宝の地図を書いた者のことなど眼中にない。そもそも、地図があったことすらも知らない。

 宝の地図を書いた者の目的、努力は、どうなってしまうのだろう。



 中学2年生にもなると、周りは皆、自分磨きを始め出す。髪型、服装、性格。今まで当たり前のようにしてきたものを見つめ直し、自分ウケを狙い出す。SNSなどのプロフィールや活動にも力を入れ始める。他人のオシャレな写真のアイコン、訳の分からないフォントを使った文字……

 「自分」という与えられた形の中で人生を最大限に楽しみ、時に苦しむ。それができる人たちが、正直羨ましい。

 僕には、僕が磨いて輝くような素質の持ち主だと思えない。それを理解している。だから、自分磨きなどといった堂々とした行動をしない。

 ただ、もし、僕が磨いて輝く素質の持ち主であったならば、今頃、何もかもを楽しめる程の人間となっていただろう。

 そう考えると、少し悔しい。

「どうしたの、はる? 体調悪いの?」

 そう言って僕に話かけてくれたのは、前の席の鈴木美織すずきみおりさん。

「いや、大丈夫。ちょっと考えごとしてて」

 僕は彼女に、「憧れ」のような感情を抱いている。なぜなら、彼女こそが、僕の思う「美少女」だからだ。

 流行りに乗った前髪、ポニーテールで結んだ長い髪、大きくて輝かしい目、長くて綺麗なまつ毛、かわいらしい二重……

 そして、身長が僕よりも高い。

 生まれ変わったら、彼女のようになりたいと思っている。

「そんな難しい顔して、何考えてたの?」

 鈴木さんとは、一年生の時に同じクラスだった。関わりとしてはそれくらいだ。なのに、彼女は下の名前で僕を呼ぶ。その上、まっすぐと僕の目を見て話しかけてくれるのだ。その辺の男子なら、メロメロになっているだろう。だが僕は違う、彼女に抱いている感情は「憧れ」だ。

「だ、大丈夫だって……」

「え〜、そう言わずにさ、教えて! あ、ごめん、呼ばれてる、 行ってくるね!」

 とは言っても、ドキドキしない訳ではない。むしろもう限界なぐらいだ。

 僕は、磨いて輝く素質の持ち主ではない。自分磨きなど意味がない。現状に、納得しているのだ。



――放課後

 僕は、1週間前に引越しをした。以前までは一緒に帰る友人がいたが、今は近くに友人がいないため、1人で登下校をしている。

 でも、これはこれで、悪いものではない。色んなことを考えることができる時間だ。

 家に帰ってからすることを考える。もうすぐ提出しなければならない課題があるし、買ってからまだ読んでいない漫画もある。

 その前に、まず部屋の片付けをしなければならない。引越したばかりだから、まだ散らかっている。

 今日は何をしようか……

「あの、すみません」

 そう考えていると、人から声をかけられた。

「は、はい!」

白宮陽しろみやはるさん、ですよね?」

「そうです! 白宮です!」

「良かった! 白宮さん!」

「はい! 白宮です!」

 一体何が起こっているのだろう。

「私、2組の朝倉華あさくらはなって言います! あの、白宮さん!」

「はい! なんでしょう!」

 反射で会話をしている。

「白宮さん、さっきハンカチ落としましたよ!」

 ……え?

「あ〜、ありがとうございます!」

「いえいえ! では!」

 僕には、考えごとというものが向いていないみたいだ。

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