ゲレンデで叫ぶ美代!

脳裏の片隅に去来した他人を慮る思考は、白馬に来て初めて持ち合わせた感情だった。

自宅に残してきた妻のキリコと娘の香里奈(かりな)はどちらを取っても計り知れない愛すべき家族だった。

一つの饅頭を二つに割ってどちらが好きかと聞かれても、選択出来ない。どちらも愛して居るからだ。

強いて言うなれば娘の香里奈が一歩リードしていた。

しかし、「わあ~!ボーゲンに毛が生えたよな滑り方ねやっくんたら。」美代がゲレンデで叫んだから皆が皆こっちを向いたんだ。恥ずかしいよな!

美代のやつ!

神戸へ帰ったらお仕置きしてやる。ニヤリと笑う。

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