第2話 知らされなかった妊娠

「やつかさんですか?」

知らない声の主の方へ振り向いた孝には声色も顔色も知らない若い男が立っていた。

グレーのハンチングを目深に被り紺のセーターと白いコーデュロイを鯔背に着こなしていた。

ブルーのストールが長いのか二重に巻いてその端が胸から腰へ垂れていた。

「えっ?ハイ。あ、あのブルーのストール、新神戸オーパに売ってた、7万円の。美代に買ってやれなかったやつ。」知らない若い男?後輩?部下?

ゲイのストーカー?判らないまま、対峙していたが、「先いくよ!?」直美の号令に従い台帳に書き終えた孝以外の3人が直美の後に美代、功太とゾロゾロと付いて行った。

それを見送り南国功太(なんごくこうた)の背中が階段を上り始めた時に「反町八重(そりまちやえ)知っていますよね?」鋭い目付きで若いのに落ち着いたトーンでゆっくり話し始めた。

高倉健を彷彿とさせた彼は正面切ってそれを言い放った。

だが、彼の両手はコーデュロイのポケットへと仕舞われていて胸を張って言ったから物怖じしないタイプか?

そりまちやえ?

ああ、やえちゃんか、「ハイ知ってますよ?」

スナック幻(げん)のママ。

知ってるとも、僕の女だ!

付き合って物凄い年月になる。

そういえば会って無いよな!?

ここ5年・・・。

いや15年?

大体18年か。

感慨深げに想い出を探していたら、「だったら僕のお父さんかも知れないです。」

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