第2話 えーい、やきもきするっ

‐2‐


 いいのかなぁ。SNSで知り合っただけの男性と由美を会わせても大丈夫なのか。詐欺やセールス目的だったらどうするの?

「つか、相手は何歳だっけ?」

「知ってても言わなーい」

 知らないんだ……。

「あ、そーか。結婚しそびれて中年になっちゃった男性とか?」

「詮索はそれくらいにして」

 えぇ……言っときますけどねえ。

「貧乏は身を滅ぼすわよ」

「お金持っていれば、合わない人とも結婚するっていうこと? ホワミーは」

 となぜか強気だなあ。

「私はたいていのお金持ちとは価値観が合うから。幸せになる覚悟はできている。無問題!」

「人生何が起こるかわからないからいいんじゃない」

「四十六、七にもなって、現実的じゃないなあ」

「なによ、反対なの?」

「忠告しておきますけどね、ダメになったらなったでストーカー被害とか、こわいんだからね!」

「デジタルタトゥーにリベンジポルノ、ね。大丈夫だいじょうぶ」

 ん? なんかやけに自信たっぷりと……由美、なんか隠してない?

「当日はこのメイクで行こうと思うの、どう?」

 さっきから、背を丸めて何してるのかと思ったら! 顔面真っ白な能面に黒々とした細い眉にピンクのアイシャドウ。チークは頬骨を強調してる……何年前のお化粧?

「バブル期の女子大生じゃないんだよ? 年下の彼氏が萎えるよ?」

「彼はそのままの私でいいって言ってくれるもん!」

「ええい、今からメイク用品、買いに行こ!」

 私は由美の腕をひっぱり、洗面所で日焼け止めをたっぷり塗って、一応マスクをして車に乗った。

 ピンクのラパンは由美のお母様のもの。由美は助手席でバックミラーをのぞきこんでいる。

「アイシャドウがピンクなんてありえない。ブラウンにゴールド、口紅はシャネルでいくわよ!」

 少なくとも、おてもやんよりはまだまし!


 高島屋の化粧品売り場に踏み入った。

 ブランドごとに棚があって、少し見上げた位置にキャンペーンガールのあでやかなポスターが並んでいる。

 さあて、どのあたりが適当かしらね。カネボウ、ちふれ、ケイト、マジョリカマジョルカは若向けだけど、わか見えじゃないしなー。やっぱりシャネル……由美は元から色白だから、白塗りすると老けて見えるのよね。

 しかし、彼女の持ってるメイク用品は見事に年季が入っている。二十何年前のもの?

 引きこもる前に使ってたんだろう。でも年をとったことは認めなきゃだめよ。

 今の化粧品はUVカットとかスキンケアが一緒になってるのがあるし、化粧水はたくだけでも違うんだから。

 そう、由美は映画女優みたいな顔立ちで、よく言えばお人形さんのよう。

「ねえ由美、私、ついていってあげようか? 相手の男性、品定めしてあげるよ」

「詮索はヤメテと言ってるでしょう!」

 わからないなりに、協力してるでしょうが!

「彼だけだったんだもん。私の気持ちを聞いてくれて、馬鹿にもしないで励ましてくれて……口を出さないで」

「私が口をださなかったら……もう、本番当日は私の服を貸すから、美容室で髪も巻いてもらって、メイクしてもらいなさいな」

 実のない喧嘩をして、その日はやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る