100周目のハコニワシティ

やばくない奴

迷い人

箱庭

 崩れ行く地球には、禍々しい姿をした化け物が佇んでいた。曇天の空は暗く、そこに広がる景色はどことなく退廃的であった。そして、その化け物と果敢に立ち向かい、命を削る者が一人いる。

「今度こそ……アンタを倒す! ディスペア!」

 赤髪の女が声を張り上げた。同時に、彼女の周囲には無数の宝石が生み出され、その全てが眼前の化け物の方へと発射される。しかし依然として、ディスペアと呼ばれる化け物にはかすり傷一つつかない有り様だ。


 ディスペアから放たれる黒い炎に呑まれ、街は消し炭になっていく。数多の命が悲鳴を上げ、無惨に散っていく。女の守るものが失われるたびに、彼女が戦う理由も失われていく。そんな彼女もまた、黒い炎に呑まれて苦しみ喘いでいる。

「ぜぇ……ぜぇ……はは、こりゃ厳しいな。おいおい勘弁してくれよ。アンタを倒すために、オレが何周してきたと思ってんだ?」

 何やら彼女は、同じ戦いを何度も繰り返してきたようだ。その上で依然として強敵に対処しきれず、半ば防戦一方と化している惨状である。彼女は己の身を宝石の鎧に包み、黒い炎から己自身を守る。その目の前では、大地の割れ目から溶岩が噴き出している。


 直後、ディスペアの周囲に魔法陣が展開された。


 女は息を呑み、咄嗟に身構える。

「まずいな……宴もたけなわ――ってところかよ!」

 彼女がそう叫んだのも束の間、その周囲は眩い光に包まれた。


 やがて彼女の視界が晴れた時、そこにはもう地球などなかった。星の残骸の散らばる宇宙空間にて、女は頭を抱えながらため息をついた。彼女はすぐに魔法陣を展開し、その場を去ろうとする。魔法陣には時計のようなものが映し出されているが、その針は逆方向に回転している。

「次こそは……絶対に……」

 そんな想いを抱えつつ、女はその場から姿を消した。



 *



 女が目を覚ますと、そこは閑散とした街中だった。そこは都会のようにビル群が立ち並び、田舎のように人の気配のない場所であった。

「なんだ? オレの知らねぇ場所に出ちまったぞ」

 そこは彼女にとって、初めて目にする場所だった。一先ず、女はもう一度魔法陣を展開し、今度こそ魔法を発動しようと試みた。しかし魔法陣はなんらかの力により、すぐに打ち消されてしまった。続いて彼女は、手元に宝石を生み出した。

「……どうやら、時間だけ操れなくなっているみてぇだな。色々探ってみるか」

 何やら女は、妙な街に迷い込んだようだ。彼女は街を散策し、現状を理解しようと試みる。その末に彼女が目にしたものは、更に絶望的な真実であった。

「おいおい……こりゃなんだ?」

 女は街の端に到着した。そこには見えない壁があり、彼女は事実上この街に幽閉されているに等しい現状だ。その上、壁の奥に広がるのは真っ暗な空間だけだ。言うならば、この街に外など無いに等しい。そんな虚無の空を眺めつつ、彼女はわずかな頭痛を患う。それは決して、彼女が頭を悩ませていることに由来するものではない。


御代奏多みしろかなたよ……この街に住む全ての住民を殺すが良い。それがこの世界を脱する唯一の方法だ」


 彼女の脳裏に、見知らぬ声が響き渡った。異様な事態に巻き込まれた奏多は苦笑いを浮かべつつ、眉間に皺を寄せるばかりだ。

「おいおい……これは悪夢か? それとも幻覚と幻聴か? オレはヤクなんかキメた覚えはねぇぞ?」

 あまりにも現実離れした状況を前に、彼女は己の頬をつねる。

「……っと。少なくとも、夢じゃねぇらしいな」

 兎にも角にも、彼女がこの街を脱するには他の住民たちの命を奪うしかないようだ。


 その時である。

「君もあの声を聞いたのかい?」

 突如、奏多の背後から何者かの声がした。彼女が振り向いた先には、桃色の服に身を包んだ男がいた。

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