第5話 文章力編2 ~視点と人称が理解のコツ。地の文とは要するに文語体に崩した口語体。もっと砕けた言い方をすれば自分を名前で呼んじゃう1人称~ その2

 これからは不定期更新と並行して毎週金曜日の夜11時に投下することにします。安心感を与えるためです。




 ・人称と視点



 1人称や3人称についての基本的な説明は割愛して以後の説明をスムーズにするための人称と視点の作者なりの認識をまずざっくりと語ります。



 視点とは要するに語り部を誰にするかということです。1人称の語り部あるいは主人公を誰にするかということです。ただそれだけのことです。そして3人称でもその理解は全く変わりません。語り部の幅が、主人公か、その後ろに背後霊のように憑いてブツブツ語る気持ち悪い作者か、あるいは神を名乗る傲慢な作者か――みたいに広がるだけです。


 なぜかといえば、よく全くの別物として語られる1人称と3人称ですが、実際のところ根幹は全くの同一だからです。というか1人称の亜種が3人称なんです。3人称は本質的には1人称と何も変わらないんです。



 主人公・語り部が口語で地の文を語るのが1人称です。主人公・語り部が文語で地の文を語るのが3人称です。ただそれだけのことに視点という路傍の小石並に地味な癖に糞重要なファクターが絡んでくるのがこの問題の温床です。


 3人称でも1人称でもやってることは同じです。視点者を定めて、その視点者に合わせた口調・心情・知識で語る。それだけです。ただ、3人称はあまりにも文章の一見した傍観者感が高いため、1人称と別物に見えてしまうのです。それ故、ちゃんと視点者に視点を合わせて書いていると言うことが分かりづらく、その不理解ゆえになるべく客観的な文章で書かなければいけないだの視点混合したりだの自由に情報を連ねてもいいだのひたすら地の文の本質からかけ離れていく誤解が広がっていくのです。ちゃんと視点者を定めて、自由度を絞れば、地の文を書くのは巧拙を度外視すれば難しくないです。上手く書こうとすると際限はないのですがやっぱりそれは数をこなすしかないので割愛。


 3人称は色々な視点があるのですが、一番お勧めなのは3人称憑依型という視点です。理由は書きやい上に読者受けが良く、プロも3人称を書くときは殆どがこの憑依型で書くほど小説(特にライトノベル)という媒体にマッチしており、一番キャラクター小説に向いた視点だからです。逆に一番お勧めしないのが神視点で、2番目が作者視点です。理由は扱える情報が多すぎて逆に情報を扱い切れなくなるのと、キャラクター小説に向かないからです。


 という訳でこの話の目的は3人称憑依型を覚えることです。これさえ覚えればもう完璧です。地の文なんてさらさら書けます。そして3人称なんて本質的に1人称なんだと分かります。3人称なんて所詮1人称の亜種なのだと割り切れるようなります。


 というか文章なんて極論すべからく作者の1人称なんです。作者が書いてるんだから当たり前です。どこまで行っても自分からは逃げられないという当たり前の話です。



 と、まぁ、そんな細かく突っ込んだらいくらでも反論できる暴論から今回の話は初めて行こうと思います。地の文への精神的敷居を低くするためにあえて軽々しく断定的に語っていると好意的にとらえてもらえれば幸いです。メンタルがおかしくなってきて体裁を取り繕えなくなってきてるととらえてもらっても可です。直近一週間本当の本気で心臓が痛くて泣きそうです。外科の訪問を心配するレベルで痛いです。チクチクイガイガが止まりません……。





 視点についてもっと体感的に理解できるように例文を引いた視点混合の話をします。3人称を書くとなるとやっぱりちょっと理解しづらい視点という概念をこれではっきりさせます。


 3人称を書くとき、よく視点を混同するなといいます。これも、3人称の本質が1人称だと理解していれば、まず間違えません。もう面倒くさいしちょっとくらいいいやと妥協しない限りは(実体験あり)。


 どういうことなのか、例文を交えて説明していきます。例えばヒロシくんが学校でクラス一可愛い好きな女の子相手に素直になれずつい暴言を吐いてしまった場面を3人称で書くとします。



「カスミ、お前鼻毛出てんぞ」


 ヒロシがカスミの鼻毛を見つけたのは偶然だ。ちょっとローアングルで。そう思い消しゴムを落としてカスミを見上げたら目に入ってしまったのだ。そして気づけば上記の台詞を吐いていた。最近冷たいカスミに構って貰えるチャンス。ヒロシのそんなちょっとやんちゃな男心の発露だった。


 カスミはいつもいつもさりげなくスカートを覗こうとしてくるクラスで一番嫌いな男子生徒であるヒロシに言った。


「一々指摘すんじゃねぇよ! 大体お前、私のパンツ覗こうとしただろ。全然さりげなくねぇからな」




 これは視点混合の典型的な悪文です。凄く露骨に書いてあるので悪文がどこかは簡単に分かると思います。空白を2つ挟んだ行、カスミはいつもいつも――から始まる一文ですね。ずっとヒロシくん視点で進んでいたのに急にカスミちゃん視点になっています。3人称だと分かりづらいですが、これを1人称にすると問題点が明らかになります。これは3人称憑依型――キャラになり切って書く3人称――なので主語を俺、私に変えるだけでもう殆ど1人称になってしまいます。では変えてみます。



「カスミ、お前鼻毛出てんぞ」


 俺がカスミの鼻毛を見つけたのは偶然だ。ちょっとローアングルで。そう思い消しゴムを落としてカスミを見上げたら目に入ってしまったのだ。そして気づけば上記の台詞を吐いていた。最近冷たいカスミに構って貰えるチャンス。俺のそんなちょっとやんちゃな男心の発露だった。


 私はいつもいつもさりげなくスカートを覗こうとしてくるクラスで一番嫌いな男子生徒であるヒロシに言った。


「一々指摘すんじゃねぇよ! 大体お前、私のパンツ覗こうとしただろ。全然さりげなくねぇからな」




 問題点が凄くはっきりしたと思います。俺視点が急に私視点になっています。これが視点混合です。1人称では絶対犯さない間違いを、3人称になると犯してしまうのです。この間違いはひとえに知識不足と、視点と人称なんて当たり前にできると言う思い込みから発生します。気づけば当たり前ですが、気付かないとついやらかしてしまいがちなミスです。



 ちなみになぜ視点混合が悪文かというと、文章には、視点主が知り得ない情報を語ってはいけないというルールと、視点者をコロコロ変えるのは望ましくないというルールがあるからです。その2つのルールに抵触しているから視点混合は悪文なんです。新人賞とか応募すると必ず見られます。注意しないといけません。



 なお、先程の悪文の箇所を視点混合せずに意図を伝えようとすると、


 カスミはいつもいつもさりげなくスカートを覗こうとしてくるクラスで一番嫌いな男子生徒であるヒロシに言った。


 この文を、


 カスミは鼻毛のことを指摘したにもかかわらず何故か猛烈な速度でスカートを抑えてヒロシに言った。


 こんな感じに書きます。ヒロシくんが日常的にカスミちゃんのパンツを自分ではさりげないと思いながら覗いていることが、こう書けばヒロシくん視点のまま伝わると思います。ヒロシくんは変態ですね。


 視点混合は積み重なるほどに、物語への没入感、情報の理解、キャラへのシンクロ感を妨げるので、意識して気を付けた方がいいです。





 あと、この文章、主語がヒロシ・カスミ、俺・私と切り替わるだけでごく自然に1人称・3人称が切り替わっていることもわかると思います。前話でやろうとしていたことはこれです。


 これが3人称憑依型の特徴です。3人称にもかかわらず殆ど1人称の感覚で地の文が書けるんです。


 この、殆ど1人称とも言われ、3人称の中でも扱いやすくて使用率が高く、また読者受けもいい3人称憑依型を覚えようというのがこの話の終点です。もう少しだけ3人称憑依型について詳しく説明します。


 3人称憑依型とはよくキャラクターの内面にカメラを入れてその視点で書く3人称――などと説明されます。もっとシンプルに説明するとキャラクターが3人称で地の文を語る人称です。


 憑依型は覚えやすいだけでなくとても応用が利きます。このキャラクターを色々入れ替えると色々できます。キャラクターに纏わりつく背後霊にすれば背後霊視点になります。作者にすれば作者視点になります。神にすれば神視点になります。実質1人称ながらちょっと応用するだけでどんな人称にもなれます。3人称なんて全部1人称だとぶちまけた暴論の根拠の一つです。でもあんま真に受けないでください。その時々一番自分にしっくりくる言葉で、結論を仮止めしてるだけなので……。



 無駄に話が長くなってきたのでそろそろ締めることにします。最後に本題である憑依型の簡単な書き方をざっくりとだけ。


 まず、1人称(出来れば文語体寄り)で文章を書いて、主語を名前に変えて、そして少し文章を整えるだけです。違和感がなくなれば完成です。もしかしたら1人称を書く工程はいらないかもしれません。というか多分いりません。僕はそんな書き方していません。最初から3人称で書いています。


 まぁ、とにかく例文を書いていこうと思います。ヒロシ君が英語の授業を受けているところです。




「Mrヒロシ。この問題を教壇に上がって解きなさい」


 英語教師のパトリシアが予想外のタイミングで俺を回答者に指名してきた。予習なんてしていないのに参ったと頭を掻きながら渋々と教壇に上がり、俺はチョーク片手に黒板に向き合った。


(えっと、Today is Mondayを和訳しろ? いや、既に殆ど日本語じゃん。簡単な問題で良かったな)


【Today is Monday = 東大は問題である】

 

「どうですか?」


 俺は自信満々にパトリシアを振り向いた。パトリシアは頭を手で抑えて首を左右に振った。


「You are mistake」

 



 この俺をヒロシにベタ移植します。




「Mrヒロシ。この問題を教壇に上がって解きなさい」


 英語教師のパトリシアが予想外のタイミングでヒロシを回答者に指名してきた。予習なんてしていないのに参ったと頭を掻きながら渋々と教壇に上がり、ヒロシはチョーク片手に黒板に向き合う。


(えっと、Today is Mondayを和訳しろ? いや、既に殆ど日本語じゃん。簡単な問題で良かったな)


【Today is Monday = 東大は問題である】

 

「どうですか?」


 ヒロシは自信満々にパトリシアを振り向いた。パトリシアは頭を手で抑えて首を左右に振った。


「You are mistake」




 一応、3人称になっています。相当文章が糞いですがフィーリングは伝わったのではないでしょうか。




 この話はもう終わります。無駄に長くなりすぎました。頭がギンギンして気が狂いそうです。




 最後に軽く総括を。


 ・3人称憑依体は1人称の主語を名前に変えて、文語体化を意識しながら違和感のある部分をちょっと修正するだけで作れる。


 ・視点は、視点者の知ってることだけを書くのがルール。あと、1人称と同じように視点は統一し、視点混合のミスを犯さない。


 ・地の文なんて会話文と同じノリで書けばいい。それを少しだけ体裁を整えるだけ。文語体にして客観性を強めるだけ。


 口語文語・視点・人称についての話は一旦これで終わります。この2話を要約すると地の文への曖昧模糊な認識に明確な輪郭を与えて苦手意識を払拭するとともに、3人称憑依型という一つの型を提示して地の文を書くとっかかりを作ろうという話でした。



 なんか思ってたよりずっと纏まりのない話しかできません。内容に反してタイトルの誇大広告感が半端ないですね。自己流ラノベ執筆啓発創作論くらいに抑えた方が良かったかもしれません。







今日の没例文2


「おいカスミ。お前鼻毛出てんぞ」


 ヒロシにとってカスミはエターナル美少女だ。憧れ中の憧れ。授業中はいつも後ろの席からうなじのラインをじっと見てる。好きなのだ。カスミのことが。その髪懸かったうなじのラインが。たまにカスミが振り返ってバレそうになるが、そのスリルが逆にいい。逆に、ヒロシの視線をカスミのうなじへと引き付ける。リスクがリターンを際立たせる。背徳感がカスミのうなじをさらに色気づかせる。カスミはヒロシの学園生活をただそこにいるだけで華やかせる天使なのだ。


 そんな天使の鼻毛を見つけてしまったのはほんの偶然だ。少しローアングルで。そう思い消しゴムを落としてカスミを見上げた瞬間、眼に入ってしまったのだ。そして気づいた瞬間、チャンスだと思った。いつも言葉はおろか挨拶すら返してくれない高値の花の天使たるカスミを自分の位置まで、人間の位置まで引きずり下ろし、そして自分に否が応でも構わせるチャンスだと。そう思った瞬間、上記の台詞を発していた。カスミの羞恥に染まった表情を見た瞬間、カスミを穢した興奮がヒロシの身を包んだ。


 カスミはいつも自分を視姦してくる学園で一番嫌いなキモオタに向けて、ありったけの嫌悪を籠めて叫んだ。


「死ねよこのキモオタが! いつもいつもきめぇんだよ! 何が鼻毛だ! にちゃついてんじゃねーぞ!」





没例文3


「ちっ、どじっちまったぜ」


 俺――佐藤ヒロシは血の滲んだわき腹を抑えながらそう言った。まさかこんなことになるとは――ぐっ! 痛い! 脂汗の滲んだ顔を悔恨に歪ませながら俺は一分前の出来事を脳裏に再現する。


 それはカスミに誕生日を祝うドッキリを単身仕掛けたときのことだった。


 俺の頭の中ではこうなる予定だった。友人との誕生日パーティーの帰り、祭りの後の静けさにセンチメンタルを感じながら夜道を歩くカスミをプレゼント片手に奇襲。背中に隠した花束を電柱の陰から現れると同時にプレゼントフォー・ユー。カスミは驚きながらも相手が俺だと知ると、実は急に一人になって寂しかったの。ヒロシくんって、ちょっとわんぱくだけど優しいね……好き……。カスミが顔を近づけてくる。おいおい参ったなといいながら俺は仕方なくカスミに応じる。ちゅっ……2人は幸せなキスをして互いの気持ちを確かめ合い、恋人、結婚、HAPPY ENDING――そうなる予定だった。


 そんな青写真はドッキリの1段階目から失敗した。後ろ手に花束を隠して突進する俺を見てカスミは悲鳴を上げて金的。「ああああああああああああ!」と悲鳴を上げながらも、必死にプレゼントを渡そうとする俺を見てカスミはさらに追撃。俺が世界で最も愛する漫画【ホ〇リ〇ランド】でリーチと破壊力を兼ね備えたマジヤバい攻撃とまで作中最強キャラに言わしめたマジヤバい前蹴りを俺の脇腹に突き刺してきたのだ。文字通り、ハイヒールのかかとを突き刺してきたのだ。カスミはその攻撃を最後に逃げて行った。ドッキリを仕掛けた相手が俺だと最後まで気づいた様子はなかった。どうせなら姿もちょっとだけ隠してドッキリ感を倍増させよう。そう思ってフードを深く被って接近したのが功を奏した。地面に蹲り痛むわき腹を抑えながらも俺は笑う。正体はバレていない。なら、まだ希望はある。これからいくらでも挽回できる。今日はちょっとドジっただけ。また明日から頑張ればいい。


 俺は何とか立ち上がり脇腹を抑えたまま壁にもたれて、痛みに脂汗を掻きながらもニヒルに口角を歪める。そして、ちょっとドジなところも俺の心を捉えて離さないカスミを夜空の星に重ね合わせ、その星を拳の中にぐっと捉えて言った。


「ぜってー、諦めねぇ。この程度じゃ、挫けねぇ。いつか絶対、お前を振り向かせて見せる。愛してるぜ、カスミ」


 俺の希望に答えるかのように、偶然傍を通った選挙カーの車が「明るい未来を目指しましょう!」と力強く言った。まるで俺の未来を暗示しているかのようだった。

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