幼なじみはちっぱいな私に触れてくれない

木種

第1話 A

 私にとって誰よりも大切で誰よりも愛している女の子、生出いで加菜かなちゃん。浜波女子高等学校に一緒に通ってる。


 昔から運動が得意だし皆を引っ張るタイプでいつも前にいるしかっこいい。それだけじゃなくて、実はパンダやクマちゃんが好きな可愛い一面もある。中学生のころ、パンダのぬいぐるみをおそろいで買ったんだよね。


 そんな加菜ちゃんは皆の人気者ではあるんだけど……。


「ちょっ、加菜! やめてって!」


「え~、いいじゃんいいじゃん、ちょっと触らせてくれたらそれでいいんだよ~」


「嘘つけ! いつもそう言って好きなだけ揉むのわかってるん――」


「隙アリッ!」


「きゃっ!」


 こんなふうにクラスメイトのおっぱいを揉むことにハマっちゃってます……。また大きい子だし。


 幼稚園の頃はそんな素振り見せたことなかったけど、小学生5年生の頃に女の子のおっぱいが好きって知ったときはあまりに唐突で言葉が出なかった。


 だって、私のは全然成長してなかったから。今もそうなんだけど。


京子きょうこ! 加菜のこと止めてよ!」


「えっ、あー、うん。加菜ちゃん、こっちおいで」


「うぇー、もうちょっとだけだから~」


「だって。ごめんね」


「そうだ、京子が加菜に激甘なこと忘れてたぁ」


 皆葉さんが諦めて揉まれモードに入っちゃった。


 楽しそうに頬を緩ませてそんな皆葉さんのおっぱいを堪能する加菜ちゃんを見れた喜びと、決して私じゃ見せられない焦燥感が同時にやってくる。


 どうして私にはお胸がないの! ママも妹も大きい巨乳一家なはずなのに!


 私がぺったんだから、加菜ちゃんと休み時間に話すことが少なくなった。中学までは共学だったから抑えられていたおっぱい欲が女子高にきたせいで歯止めがきかなくなっちゃってる。


 この女子高に進学したのも料理系に進みやすいってだけじゃなくて女の子しかいないからだもん。絶対に。


 もう私の唯一の癒しはふたりっきりでいられる帰宅時間だけだよ……。


「きょーこ」


「あっ、加菜ちゃん」


 不安に押し潰されて俯く私の顔を覗くように大好きな加菜ちゃんと目が合った。


 それから左目近くの泣きぼくろや私がこの前プレゼントしたリップで潤っている唇の順に視線を移動させて、また二重の大きな綺麗な目に戻る。


 ずるいくらい可愛い。


「な、なに?」


「なにはこっちのセリフだって。俯いちゃってさ。もしかして次の授業の教科書忘れちゃった?」


「ううん、そういうのじゃないよ。ちょっと考えごとしてただけ」


 加菜ちゃんのことだけど。


「えー、それだけ? にしては暗く見えたけどなー」


 びっくりした……。


 もしかして加菜ちゃんわかってくれてる? 私が加菜ちゃんのこと考えてたって。やっぱり幼なじみだからそういうのに敏感になってるのかな。


 凄く嬉しい。


「あのね、実はね――」


「ちょっと待って茉莉来た! 今私の最推しなんだよ!」


「あっ、うん……」


 いっちゃった。またお胸の大きい子のとこに。


 いいなぁ、境田さん。


 胸がチクチクするから思考の先を変えないと、なんだか泣いちゃいそう。最近はいっつもそう。

 なにか話しててもすぐにそっちに気を取られてるのまるわかりだし、皆と仲良くなっていくうちに見るだけじゃなくて、すぐにわしわししにいくし。


 私とは帰り道で話せるからって優先順位が低いんだ。特別感もなくなって、付き合ってあげてると思われてるかもしれない。


 机の横にかけている鞄から次の授業に使うものを取り出す。掴んだノートは表紙が折れ曲がっていた。

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