【月曜更新】俺は「王様」、彼女は「聖女」~絆の継承者~

酔夫人

プロローグ

 この世界のものは神様が作った。


 動物も植物も神様の創造物で、神様は全てを我が子として愛していたが、ある日『人間』と言われる動物が火を発見したことを始めとして神様の想像できないことをするようになった。 


 神様は我が子の自立を喜んだ。


 それから神様は人間をよく観察するようになり、好奇心で自分が特別に愛しいと思う人間に自分の力の欠片を与えるようになった。

 その力で人間が何をするのか、神様はわくわくしていた。


 神獣と呼ばれる神様のペットたちも主の楽しそうな様子に好奇心を抱き、神様の許可をもらって地上に降り、人間と契約を交わすようになった。

 悠久のときをいきる彼らにとって人間と過ごす時間はとても短い。

 そして契約を交わした人間が死んだとき、それを自然の摂理と受け入れる神獣が多いなか、「人間の生命の時間が短過ぎる」と神様を恨む神獣が現れた。


 神様を恨むようになった彼らは神気で生きる神獣ではなく、神気とは真逆の性質をもつ魔素で生きる魔獣となった。


 地上の中で最も魔素の濃い場所、この世界の人間が『深淵の森』と呼ばれる世界の最北にある森に魔獣たちは棲みついた。

 魔獣はただ人間を愛していただけだった。

 しかし、ときが経つにつれて魔獣の愛が歪んでいき、愛する人間を食べれば彼らは己の血肉となって永遠のときを生きられると思うようになった。


 魔獣は己の一部を森にいた獣たちに与え、獣たちは人間の血肉を求めて南下し、人間を襲うようになった。


 変化したとはいえ元は神の力である。

 神を相手に戦う術のない人間は魔物に蹂躙され、愛する人間で腹を満たした魔獣の気分は高揚し続け、さらに魔物を作り出して人間を貪り食うようになった。


 そんな魔獣の蛮行に憤り、立ち上がった人間がいた。

 神様が特別に愛するほど美しい心をもった彼らは人間のために戦うことを決め、己の持っていた不思議な力を使って魔物と戦った。


 やがてこの不思議な力は『神力』と呼ばれるようになった。

 そして主が力を分け与えた者が戦っているのに己が何もしないわけにはいかないと、次々と神獣たちは己の契約者に自分の一部を与え、彼らと一緒に魔物と戦うようになった。

 

 こうして神力を使う者は深淵の森に近い場所に町を作り、やがて町は大きくなり、千年のときを経てシュバルツ王国になった。

 シュバルツ王国は小さかったがどんな大国にも属さない独立した国である。

 これができたのはシュバルツ王国だけが世界を魔物から守れるからだ。


 シュバルツ王国の民たちが血を繋ぐ過程で、神力や多くの神獣の力が混じり合い、こうして生まれたのが【聖女】である。


 その存在が【聖女】と呼ばれて特に神聖視されたのは、この女性が深淵の森全体を包み込むように結界を張ったからだ。


 この光の結界は力の強い魔物を森から出さない。

 壁というよりも網のような形状なので力の弱い魔物は森から出てしまうが、そんな魔物ならば神の力を持つ血をわずかでも繋いできたシュバルツ王国の騎士たちが討伐できた。


 【聖女】は世界を安寧に導く者として人々に崇められた。


 そんな【聖女】を愛し誇りに思った神様は【聖女】が途切れないよう三十年に一度、その年に生まれた女の赤ん坊に【聖女】の力を引き継げるようにしたのだった。

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