第65話 混沌と可能性と君たちと①
闇の炎をたくみに操り、アスファルトにふわりと着地する。
ボクが着地すると同時に、ひらきっぱの配信画面でリスナーが騒いでいた。
『魔王さまの高層ビルジャンプ‼‼‼』
『っべええええええええええーーー!』
『やっぱダンジョン内じゃん、ここ!』
『ちがう……トゴサカ駅前だわ‼‼‼』
『トゴサカ住みだけど夜になったぞ⁉⁉⁉』
『えええええええええ⁉⁉⁉ なにが起きてるん⁉⁉⁉』
リスナーの騒ぎに連動するように、周囲も騒がしくなる。
聖ヴァレンシア学園の生徒に、黒森アカイック学校の生徒がスマホでボクを狙っていた。
「魔王さまじゃん⁉⁉⁉ いま高層ビルから飛びおりてきたよね⁉」
「会長の言ってた超楽しい厄介ごと魔王さまだったんだ‼‼」
「おい⁉ どうして夜になっている⁉ 黒森の仕業か⁉⁉⁉」
「ま、魔王ううううう⁉⁉⁉ 執行部に招集をかけろ! 緊急事態だ‼」
再生数とコメント数がぎゅんぎゅん伸びる。
標準世界で力をつかい、さらにはトゴサカを暗黒に染めあげた魔王が高層ビルより舞いおりてきたのだ。
社会人も、観光客も、家族連れも、魔王の登場にみーんな驚いている。
「クククッ……」
注目を浴びまくっていたボクは、口元を歪めながら笑った。
…………こっわわわわわあああっ!
自由落下が思ったより早すぎて怖かったああああああ‼‼‼
寸前で闇の炎を操作して助かったけれど、あのままアスファルトに激突したらどーなってただろ……大丈夫だとは思うんだけれど……。
ただまあボクの向こう見ずのおかげで、すごく目立っているな。
よしっ、もっとみんなの前で力を使っていこう!
ボクは足元から炎を発生させて、旧衣装を闇の炎で彩った。
「クハハハハハハハハハハハッ!
貴様たちニンゲンどもに、新たな世界をみせつけんとこの地に舞いおりたぞ!
恐れよ! 我こそが混沌の魔王であるっっ!」
タイミングを合わせて、闇の炎をボウッとたぎらせる。
標準世界で発現した魔術を前にして、みんな目の色を変えて撮影してきた
「撮れ撮れ撮れ撮れ撮れ、撮れ高だよーーーーーーー!」
「なにが起きているかわからんけど、とにかく撮りまくれ‼‼‼」
これだけ目立てばもう誤魔化しようがないかな。
マジックだトリックだ合成だなんて言い訳できるわけがない。
「我が力! 我が姿! とくと見るがいいわ‼」
暗黒に染まったトゴサカを威風堂々と歩いてみせる。
ボクに吊られるようにして、他の人たちもいっせいに移動をはじめていた。
と、妙な気配を感じたので、自動迎撃魔術を構築する。
すぐに炎の壁が展開された。
「――
魔王ポイント30点!
ぐっ……!
咄嗟すぎて、そのまんますぎた!
魔術にみんなが驚いている中、ボクは炎の壁が防いだモノを見つめる。
弾丸だ。
ボクの炎でも溶けてないな……?
それに普通の弾丸より口径が大きいようだ。
「……む?」
ステータス画面が勝手に閉じてしまう。
そして、周りの人たちがだんだんと消えていた。
彼らは別次元に去った魔王のように、スゥーと姿が消えつつある。
あれだけ騒がしかったトゴサカ駅前が、がらんと静かになってしまった。
いや……40人ぐらいはのこっている。
彼らはフルフェイスとボディアーマー、さらには銃器で武装していて、ボクを取り囲んでいた。
いつのまに……?
さっきまではいなかったよな……?
炎の壁が消えて、弾丸が地面にカラカラと転がる。
派手な髪色の女の子が転がっていた弾丸を拾った。
「対魔王用に作っておいたんだけどね~。
簡単に倒せないか。ざんねんむねーん」
派手な髪色の女の子は、ギザ歯を見せつけながら弾丸を指でつぶした。
武装集団とちがって私服だ。
彼女の側には、私服の人間が二人いる。
傷らだらけの大男に、前髪で目を隠した女の子だ。
「誰だ貴様ら。他のニンゲンをいったいドコにやった?」
……いや、見覚えがあるな。
ギザ歯の子……たしか、次元同位体ファイルの備考欄に【上層部判断により、接触】と書かれていた女の子だ。
ギザ歯の子は馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「ドコにもやってないよ~。うちらが別次元にいるだけ~」
ボクはそれとなく身構える。
「うちらは対断層次元化現象特殊部隊。
収拾がつかなくなった次元現象を、こーやって制圧しにくるわけよ~。
わかってくれたかな? 後輩ちゃん」
「後輩だと?」
「君ね~、うちらみたいに特殊な力を使える人間として、部隊に勧誘する予定だったのよ~。
なにせ標準世界で力を使えるオンリーワンな存在だもの~。
でも使えないって判断されちゃったわーけ。
ほんと、余計なことをしでかしてくれたね~?」
ギザ歯の子は苛立ったように言った。
赤沢先輩が言っていた特殊部隊はこの人たちか。
特殊な力を使える人間ってのは……傷だらけの大男と、メカクレの女の子のことかな。
「貴様らが都合よく隠すからだろうが」
「そーゆーとこだよ~。ほーんともったいない。
せっかく選ばれた側なのに、自分から特権ほーきなんて信じられないわ~」
「はっ、そうやって驕っていられるのは今だけだぞ」
「後輩ちゃんがみんなの前で力を使ったから~?」
「ああ、もはや隠すことはできん」
「ん~、無駄無駄~。完全に無駄ってわけじゃないけど~」
ボクが眉根をひそめる。
すると、ギザ歯の子は首のチョーカーみたいな機械を、トントンと指で叩いてみせた。
「実はね~、標準世界で力を使うための研究は進められていたの~。
大金を注いで機械を作ってさ~。ま、効果は数百メートルぽっちだけどさ」
「機械……? その機械のせいで周りのニンゲンが消えたのか?」
「そうだよん~【次元結界発生装置】っていうんだ~。
次元変数がイビツなモノを別次元に隔離する代物で~……うちらは補助装置でこうやって存在しているわけ。
君はイレギュラーな存在だから勝手にホイホイされたけどね~」
「ふんっ……その機械の暴走にするわけか」
「察しがいいね~? そ~なの、後輩ちゃんの行動はムダムダなのでした~!
ギャハハハハハハハッ!」
ギザ歯の子は嫌らしく笑った。
「それじゃあ、しつけの時間だよ。後輩ちゃん。
次元結界内でまともに戦えるとは思わないでね~」
ギザ歯の子は、傷だらけの大男に視線をやる。
傷だらけの大男はふしゅーと鼻息を漏らしたあと深く構えた。
「後輩ちゃんが泣いても許しちゃダメだよ~?
二度と逆らえないようにしておいてね~」
「押忍! いくぞ小僧!
――光の閃光おおおおお!」
傷だらけの大男が叫ぶなり発光する。
そしてシュンッと姿が消えた。
トゴサカ駅前のいたるところでアスファルトが弾けとぶ。バンッ、ドンッ、ガンッ、足音だけが聞こえる。超高速でボクの周りを移動しているようだ。
めちゃくちゃ早い‼‼‼
あと技名にすごくシンパシーを感じるぞ‼‼‼
「キャハハッ! 目で追ってもムーダ! はーい、ざんねんむねん――」
「ふん」
ボクの真横から超高速で突進してきた大男を、ぺいと叩いてやる。
思いっきり軌道を逸らされた大男は、そのままビルの壁にドガーンッと突き刺さってしまい、気絶したのか動かなくなった。
ギザ歯の子は笑顔をひきつらせる。
「へ、へぇー? やるね、後輩ちゃん。でもまだまだ――」
「
ボクの足元から影が広がる。
ずもももーっと、黒き狼を6体ほど簡易召喚した。
腹を空かせた狼たちは「うおーん」と雄叫び、トゴサカ駅周辺に散る。
すぐに物陰から「ぎゃー⁉」「びゃー⁉」「おだすげーーー‼‼‼」と叫び声が聞こえてきた。
周りの様子がおかしくなった時点で、ちゅー太郎たちを放っていたのだが、ギザ歯の子と似たような雰囲気の人が隠れているのを発見。
なにかよからぬ力でボクを狙っていたので、
「そ、そんな……【目覚めし10人】が……」
そんなかっこいい名前の集団だったのか……。
さっきの素敵すぎる技名といい、こんな出会いじゃなければ仲間になっていたのかもしれないな……。
「セーフティー値が高めのようだし、まあ死なんだろう。……さて」
「ちょ、ちょっと待とうか、後輩ちゃん‼‼‼
うち、待てる男の子が大好き~~!」
ギザ歯の子は武装集団をギラリとにらむ。
「結界内だよ⁉ それに標準世界では怒ってもステータスS6程度なんでしょ⁉」
「……SSS相当に跳ねあがったと報告が」
武装集団は銃器をボクに向けたままだが、逃げたそうにしていた。
まあ狼は怖いよね。
この場の責任者であろう、ギザ歯の子は涙目になる。
「き、聞いてないよぅ……」
ボクは真顔で歩み寄る。
ギザ歯の子はびくつきながら両手を突き出した。
「ま、待って! こ、これは違うの~!」
「なにが違うのだ」
「しょ、職務上のキャラってのがあってぇ!
後輩ちゃんを煽るつもりはなかったの!」
「機械の効果範囲が数百メートルということは、持ち運べるサイズなのであろう?
どこにある。潰してやる」
「す、すうひゃくおく円の機械だよ⁉⁉⁉」
「あの見るからに怪しいトラックの中か?」
「ま、待って待って待って~!」
「邪魔するなら消えてもらう」
するとギザ歯の子は、メカクレの女の子を紹介してきた。
「こ、この子! 前髪で目を隠しているけど、瞳にハイライトがない女の子なの!
大人しそうで闇を抱えているの!
つまり君のヒロインだよ⁉⁉⁉ それでも攻撃する気⁉」
「我を闇専みたいに言うでないわ‼‼‼」
好きでそうなったわけじゃないんだぞ⁉⁉⁉
メカクレの女の子は「ふええええ……男の人が近くに……恥ずかしいようぅ。ぶっ殺したくなるよう……」と、すでに闇が漏れているし……。
ギザ歯の子は汗をダラダラと流しながら、あざとくアピールしてきた。
「う、うちら、美少女なわけだし~?」
「だから?」
「そ、その……! 絵面!
可憐な美少女に、攻撃をしかけるのは絵面が悪いと思うのっ!
う、うちら今から無抵抗するわけで⁉⁉⁉
なんならすがるように懇願しますけれど⁉⁉⁉ そんな美少女をけちょんけちょんにしちゃうわけ⁉⁉⁉ ずっとうらむよ⁉⁉⁉」
とんでもない逆ギレをかましてきたなあ…………。
さっさと機械を壊しておきたいけれど、なんかのちのち粘着してきそうなメンタリティを感じる……。
どうするかボクが考えてこんでいると、足音が聞こえてきた。
「なんだか大変なことになっているわね」
聞き慣れた声にふりかえり、ボクは身の毛がよだつ。
――だって、いるはずのない
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