普段は地味男子、ときどき最強の魔王さま ~闇スキルを極めて魔王なりきりプレイをこそこそと楽しんでいたボク、美少女配信者を助ける。え?超高難度ダンジョンに魔王が降臨したって鬼バズった?~
side:赤沢セリナ『監視者としてだけじゃなく』
side:赤沢セリナ『監視者としてだけじゃなく』
次元同位体が『
赤沢セリナは、ダンジョン管理局特務課を訪れていた。
普段は扉を閉じていても圧がただよってくるのだが、ここ数日はいくらか薄まっている。
もっともセリナは相手の機嫌なんてお構いなしに、扉をトントンと叩くのだが。
「頭領ー、はいりますよー」
部屋の主がギラリと睨んでくる。
子供サイズに合わせた事務机には、少女がちょこんと座っていた。
頭領だ。
「遅刻よ。それと返答もなしに部屋に入らない。
……貴方は昔から変わらないわね」
小さくなっても頭領は頭領。
ピリリと空気が重たくなった。
「ちょ、ちょっとお土産を買っていまして。飴、いります?」
「……そうね。この身体は糖分を欲しがるようだし、いただくわ」
セリナはお菓子セットを机に置いておく。
「まー、子供の身体になっちゃったわけですし」
「部下は全員戻ったのに、どうして私だけ……」
「鷗外君の怒りを一番買ったわけですし、そこんところが術に影響でたのかもですねー。
仕事に支障はないんですか?」
「幼児退行はもうないわ。ただ……」
「ただ?」
「青木君が、なんだかやけに優しくてね……」
「あー」
わりとモテるのに浮ついた噂がまったくないと思ったら、青木君そんな趣味が。
人ってどんな闇を抱えているのかわからないなーと、セリナはしみじみ思った。
「警察に通報しなくていいんです?」
「以前より働いてくれるなら問題ない。
犯罪に手を染めないかぎり、部下の趣味をとやかく言わないわ」
それで子供な姿を利用するあたり、さすがというか。
こういった手段の選ばなさが鷗外君の怒りを買い、子供になってしまう原因でもあるのにとセリナは考えたが。
当の本人は堪えてなさそうだ。
「セリナ、報告」
「……心配しているんですよ?」
「気持ちだけ受けとっておくわ」
頭領が机を指で叩いて、催促してきた。
セリナは少しだけ姿勢を正す。
「ダンキョーの鴎外君監視チームは解体。
以後、次元同位体の件は、研究所あずかりとなります。
わたしたちが常時監視するってことはできなくなりますねー」
「各上層部の反応は?」
「標準世界での力の発現までは面白可笑しく期待していたようですが、さすがに影響力の規模に態度をガラリと変えました。
良いサンプルがいるわけですし」
小さくなった頭領は「でしょうね」とうなずいた。
「研究所はなにか言ってきた?」
「非常に興味深そうにしていましたが各組織からのニラミが効いていますし、独断で動くことはないでしょう。
次元同位体については、沈静化に舵をきると思います。
厄介がられても危険視するよう、頭領が訴えつづけた甲斐がありましたねー」
「対応が遅いぐらいよ」
「おおむね、頭領の狙いどおりですか?」
「そーね」
頭領は疲れたように椅子にもたれた。
次元同位体について、頭領とダンキョー上層部は彼の力もふくめて以前より危険性を訴えつづけていた。
いつ爆発するかわからない爆弾。
しかも爆発規模がわからないときている。
監視する側からとっては、毎日がヒヤヒヤものだった。
とはいっても自分たちは監視組織の一部門でしかない。
各上層部に重たい腰をあげてもらうには、権限を利用してでも自らハチの巣を突きにいくしかなかったわけだが。
まあ、さすがにイレギュラーすぎるよなーと。
セリナは、グミを美味しそうに食べていた頭領を見つめる。
「どうしたの? セリナ?」
「……もうちょっと手段を選ぶべきだったでしょ」
「悪意をもった誰かに爆破されるよりは、管理下で爆破したほうがマシでしょう。あの子の周り、ただでさえ我の強い女の子たちが集まっているのに」
「それでも相手の心を無視しすぎですよー。
そのせいで子供になっちゃったわけですし、むしろ子供で済んでよかったぐらいです。
……大怪我じゃすまなかったかもですよ?」
「ほんと、子供になるぐらいで済んでよかったわ」
さらりと言いのける。
ほんとにこの人は昔から変わらないなー。
やっぱり苦手だわー、とセリナは思った。
「頭領……もちろんわたしも阻止しますが、研究所が鴎外君を拉致することは?」
「ない。力の発現条件はわかったでしょう?」
「はい、『怒りと反逆』でしたね」
「彼は抑えこまれるほど力が増していく。
下手な拉致や管理なんて、状況が極めて悪くなるだけ。
研究所も今ごろは、彼の対処をどーするかで頭を抱えているんじゃない?」
いい気味と、頭領は珍しくご機嫌そうにした。
「条件も頭領の推察どおりでしたねー。どうしてわかったんです?」
頭領はチョコの包みを手にして、うわーチョコだぁーと嬉しそうな表情をしていたが、コホンと咳払いする。
「鴎外君の力……というより魔王の力ね。
あの力は対集団、それも少数で多人数を相手するための……まるでゲリラが好むような術やスキルばかりだもの。
魔王がどんな存在かはしらないけど、力の背景はおおよそ察しがつく」
「別次元の
「ええ、そーよ」
頭領はチョコを美味しそうにほおばった。
苦手意識はあるけれど、頭領の怖いオーラがずいぶんとゆるくなったので、セリナは内心で『鴎外君! 魔王さま! グッジョッブ!』と褒め称えていた。
(しかし子供になったのに全然凹んでなさそうだなー)
と思っていたら、美味しそうにチョコを食べる自分に気がついたようで、頭領は「はあああああああ……」と重い溜息を吐いた。
(気にしていなさそうで、ダメージはかなーりあるみたい。例のおもらし動画はトップシークレット扱いにしたようだけれど……ちゅー太郎経由で入手済みなんだよねー。
切り札とはあればあるほどいい。だよね、頭領)
まさかメンタルが子供化すると、メスガキになるとは。
色々と使い甲斐のある手札だなー、さすまおだよーと喜んでいたセリナを、頭領はジロリと睨む。
「それでセリナ。貴方の鷗外君の見立ては?」
「ほ、報告書どーりですけどー?」
「…………狐さん、狐さん、私に隠していることがあるでしょう?
まさか年下の子をたぶらかしたくなったわけ?」
「人聞きの悪い言い方ー……」
セリナはうっすらと糸目をあける。
「鷗外君の人となりをきちんと知るためには、わたしの内面をさらけだすしかないなーと思っただけです」
「…………本当にそれだけ?」
「それだけです」
「……貴方は妙に律儀よね」
あれこれ言われたくないから黙っていたのになーと、セリナは唇をとがらせた。
「それでセリナ。見立ては?」
「鷗外君は良い子ですよー」
「ええ、そうね。貴方が肝心なことを隠しているの……気づかれてたわよ?」
「だと思います。そんな風に人をよく見ていて……他人の孤独には敏感な子です。
誰かのために傷つくことができるし、大切な人のためなら誰かを傷つけることもいとわない子です」
「魔王の素質は十分ね」
頭領はそう言って、チョコをもう一つほおばった。
彼にはもう関わるつもりはないらしい。
セリナとしては彼にはまだまだ借りがあるし、ここで終わらせるつもりなかったので、正直に告げておこうと思った。
「ママ」
「仕事中は頭領。まあいいわ、なあにセリナ」
「この先、鴎外君が困ることがあったら……わたし、手助けするからね?」
それからわずかに眉をひそめ、どこか仕方なそうな表情で少女は告げた。
「好きにしなさい。貴方はもう子供じゃないんだから」
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