第46話 地味男子、覚醒ポイントを溜める

 蒼天のお城ダンジョン。

 天守閣のてっぺんで、魔王ボクは陣取っていた。


 下界の堀向こうでは数十名のワビサビ騎士団が、おかしな和菓子な武具を身にまとい、「魔王はどうして和菓子を認めないのか‼」と叫んでいた。


 否定した覚えはないのだが???

 なんでこう変な人ばかりが寄ってくるのだろう……付き合うけれども。


 今日はどんな技名にするか考えるボクの隣で、お猿の面をかぶった忍者が指示を出していた。


「――ええ、彼らの背後関係を調べて。経歴もね」


 頭領だ。

 ステータス画面をひらき、標準世界の部下にも指示を出している様子。


「……経歴を洗う必要はないだろう」

「モンスター剥製事件を忘れたの?

 変人を装い、魔王を利用している可能性もある。

 それに経歴を洗っておけば、標準世界から圧を与えられる」


 よくもまあ淡々とそんなことを言えるなあ。

 標準世界のことは忘れて、次元境界を全力で楽しむ人だっているのに。


「圧など与えるでないわ」

「むしろ圧を与えるべきなの。貴方は隙が多すぎる」

「我に歯向かう者は、すべて返り討ちすればよいだけだ」

「貴方がそうやって付き合うから、次々におかしな連中があらわれる。

 暗黒の魔王なら魔王らしくいなさい」


 教師ぶった態度で、魔王の駄目だしときましたか……。


 魔活についてきたかと思えば、こうやって口出しか。

 今日の魔活にしたって、場所と時間を勝手に決めたあたり、ボクたちを徹底的に管理するつもりだ。


 ダンキョーの人……もとい頭領は、標準世界でもこんな感じだ。


 食事や風呂の時間。さらには登校ルートの指定。

 就寝の時間だって決められている。


 あくまで管理でボクになにか実験めいたことまでしないのは、彼らの領分じゃないからだと思う。

 アルマたちにも管理レベルは低いとはいえ、似たようなものだ。


 そんなわけで、美少女たちとの共同生活でドキドキすることもない。

 ただまあ、元々アルマたちに日常を浸食されていたのであまり変わってないというか、耐性ができているから全然大丈夫というか……。


 夜中ミコトちゃんが寝室にもぐりこんできたりとか。

 クスノさんと遊ぶ約束がいつの間にかできていたりとか。

 アルマが愛情たっぷり前世料理を作ってくることもない。


 あれ……以前よりマシな状況になっている……?

 混沌か、管理か。

 判断が悩ましい。

 中立ルートはないのか考えこんでいるボクに、頭領がまたも注文をつけてくる。


「それと、これからは案件やコラボを積極的に受けてもらうわ」

「は? どういうことだ?」

「案件先は私たちがリスト化する。貴方はそこから選んで」

「待て、そんな話が聞きたいわけではない」


 案件やコラボなんて受ける気なんてないぞ。

 活動資金に悩んでもいないし、有名になるにしても俗っぽくなりすぎるから、アルマとも最初のほうでそれは基本的にやらないと決めていた。


「貴様が決めることではない」

「状況が沈静化に向かうわ」

「沈静化だ?」

「貴方の魔活は、趣味に傾倒しすぎている。

 企業のキャラクターでもなく、ただの個人が圧倒的な力をもっているものだから、本当に魔王だと信じるものがでる始末。

 だからお金の匂いをただよわせる。冷める者がでてくるわ」


 お金はとても大事だ。そこは否定しない。

 だけど、魔王なりきりはボクの趣味だ。

 趣味だからこそ、大事にしたいものがある。


 しかし頭領は、平穏な生活がお望みなのでしょうと言いたげな視線をよこしてくる。


 ………………こう、なんていうか、モヤモヤがさ。

 いやいやいやいや、落ちつけー、落ちつけー。

 相手は国家権力だ。変なことは考えるなって。


「あと、術の名前も考えなおして」

「トゥは固定だ。変えられん」

「そっちではなく、ダークやシャドウね」

「……我を魔王たらしめるための術だが?」

「あのネーミングセンスがあるから魔王には隙があると思って、変な人がたくさん寄ってくるの。

 作るのが大変なら、私たちで用意してあげてもいい」


 大人な私たちが素敵な技名を見繕ってあげる、そんな物言いだ。


 …………ひゅー、ふぅー。

 頭領に『その歳でやけに身体のラインがハッキリしている忍者衣装を着ていますが、どういう意図なんですか? 諸々、しのびきれてませんよ?』と言いたくなってきた。


 ダメダメダメ、相手は国家権力国家権力……。

 他にも敵ができそうな発言だし。


 はい、深呼吸深呼吸。

 ………………よしっ。


 反抗しよー。

 なんかあったら666ぶっぱしよー。


「その歳で――」

「魔王さま、開戦準備が整いました」


 背後から、アルマの落ち着いた声が聞こえた。

 ボクがゆっくりふりかえると、アルマがしずしずと頭を下げている。まるでボクに冷静になってくださいと諭すように。

 狐面をかぶった赤沢先輩もいて、申し訳なさそうに両手を合わせていた。


 ……いつもと逆だな。

 反抗するにしても、今のボクには手札がない。


 良いタイミングで声をかけてくれたねと視線で伝えて、アルマに言う。


「ご苦労。いつもよく働いてくれるな」

「もったいなきお言葉……」

「アルマ、ワビサビ騎士団に伝えよ。『和菓子もよいが、ポテトチップスはもっと好きだ』と」

「彼らの闘争心をさらにあおり、そのうえで叩きつぶすおつもりですね。

 かしこまりました、魔王さま」


 そうして、開戦のドラが鳴る。

 ワビサビ騎士団の怨嗟にも似た絶叫が聞こえてくる。


 ミコトちゃんのトラップ。

 クスノさんの狙撃。

 ワビサビ騎士団の侵攻に合わせて、影人形を自動召喚。


 リスナーたちは盛りあがったし、ワビサビ騎士団も暴れてスッキリしたのか戦闘後に和菓子セットを贈呈してくれた。


 そんなボクたちを、頭領はずっと監視していた。


 ボクでさえ思うところがあるのに、どうしてだかアルマは静かにいたのだが、フラストレーションは溜まっているようで彼女から強烈な圧を感じていた。


 いったい、いつまでこの生活がつづくのやら。


 ――そんなある日のこと、母さんが突然みんなに提案した。


「みんなでプールにはいろー!」

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