第28話 地味男子、少し変わった日常を楽しむ

 日比野高校の休み時間。


 今日もボクは地味で平凡で冴えない男子として、教室で一人ぽつんと座っていた。

 いや、最近はそこそこ注目を浴びていたりした。


 今だって教室の廊下から、ボクを見つける生徒たちの視線アリ。


「あの人が……」

「噂の人なの……?」


 なにせ噂の魔王配下の甘城アルマと親しいし、しかもなんか雑用係やっているみたいだしで、そりゃあ顔を見にきたくもなるか。


 ふふ、今までパッとしなかった男子が注目を浴びる展開か……悪くはない。 


「あの人が……小学生と付き合ってるの……?」

「否定したらしいけど……」

「小学生とは遊びの関係だって……」


 ちが……っ!

 注目を浴びるにしても、もっと別の浴び方が……っ!


 ううっ……小学生とお付き合い疑惑のある、男子扱いかー……。


 いやあ……特定班って優秀だね。

 あっという間にボクの学校がバレたよ。

 ミコトちゃんは恋人宣言を冗談だとリスナーに言ってくれたが、お兄さんとはとっても仲良しなのはいまだ配信でめちゃ強調するんだよね……。


 それに、注目を浴びる理由は他にあった。


「みそらさま、今お時間よろしいですか?」


 アルマがボクの席の前に立っていた。


 教師が少しザワつく。

 あの甘城アルマが『様』づけするなんてと、ボクはほんと色んな意味で一目置かれるようになっていた。


 もちろん、アルマに様付けは取り消すようお願いしたのだが。


『いやです』

『い、いやって……さすがに危ないって』

『いやでございます』

『普段は地味で目立っていないボクが、アルマから様づけされていたらおかしいよね?

 誰かが関係性を怪しむって』

『みそらさまは、みそらさまでございます』

『……わかった。好きにして』


 断固としてゆずらないアルマに、ボクがそうそうに折れた。


「大丈夫だよ。屋上にでも行こうか」


 魔活についての簡単な打ち合わせだと思い、承諾する。

 教室から離れたかったので、ちょうど良かった。


 生徒の視線をチラホラと感じながら廊下を歩いていく。

 アルマはボクの隣をまるで配下のようにしずしずと歩いていた。


「みそらさま、少々お疲れではありませんか?

 本業以外でなにやら気を揉むことが多いご様子。

 今は優先すべきことに力をそそぎ、それ以外は放置するべきかと」


 本業とは魔活のことだ。

 それ以外のことは、クスノさんとのボランティア活動やミコトちゃんと遊ぶことだろう。

 うん、まあ、魔活も本業じゃないんだけどね……。


「いや、とことん付き合うとは決めているから」


 アルマとの魔活のこともだ。

 すると彼女はわずかに首をかたげ、無表情でボクの脇腹を突いてきた。


「みそらさま」


 つんつんと、脇腹が優しく突かれる。


「みそらさま」

「な、なんだよぅ」

「なんでもございません」


 そのわりには、つんつんをやめてくれない。


 アルマ、よくわからないところがあるんだよあ。

 ボクが魔王と信じこんでいるのはわかるのだけれど、ちゃんと鴎外みそらボクを見ているときもある気がする。

 下手すればデッドエンドなので、迂闊に聞けないけどさ。


「ですが。みそらさま、八蜘蛛やぐもさんは小学生だということをお忘れなく」


 アルマは脇腹を突くのをやめた。


「うん……。よ、よくわかっているよ……」

「小学生との不純異性交遊の話ではなく……いえ、わたしもそれは監視しているのですが。

 八蜘蛛さんは冒険者として優れていますが、あくまで小学生としてはです。

 こちらに関わらせるのは危ないかと存じあげます」

「アルマ……」


 そんな良識があったんだ。


 って、なにをボクは失礼なことを考えているんだ‼

 魔王さまが関わらなきゃ、アルマは比較的おとなしい子だろ!

 ただちょっと、日ごろの行動で魔王さまを占める割合が多いだけで……!


「……みそらさま、今なにを考えておられます?」


 アルマがボクを見透かすようにじーっと見つめてきたので、アハハと笑っておいた。


 でもたしかに、アルマの言うことはもっともだ。

 ミコトちゃんは小学生。

 トラップ技術はすごいが、他のステータスが抜きんでて高いことはなかった。


 そもそも標準世界ボクたちの世界では、力のない小学生。

 以前も悪人狩りなんて危険なことをしていたみたいだし、ルールギリギリで遊ぶ癖があるのかもしれない。遊ぶにしても、一定の線引きはしたほうがいいのかな……?


 と、ポケットのスマホがふるえる。

 ミコトちゃんからのメッセージだ。


『おにーさん』


 いつになく簡素なメッセージだな。


 小学校の授業はもう終わったみたいだ。

 高校はまだ終わってないよ、と返しておこう。


「みそらさま……? 八蜘蛛さんですか……?」


 アルマがなにか言いたげに視線を送ってくる。


 うーん……。

 アルバイトも最近は、赤沢先輩にシフトを変わってもらうことがあったしなあ。

 先輩今日はシフト変わって欲しそうだし、ボクが代わりにいくか。


「今日はアルバイトを優先するよ」

「みそらさま、金銭が必要であればわたしが養いますが」

「……遠慮しておくよ」


 ヒモの魔王さまはちょっと……。


 とまあ、ミコトちゃんにもそうメッセージを送っておこう。

 コンビニに来てくれるなら、おしゃべりはできるよとも文を添えて。

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