第11話 地味男子、フラグを立てる

 イベントも終わって、ダンジョンから脱出する。

 日は暮れはじめていて、学園次元都市トゴサカの町並みに夕焼けが照らされていた。


 ボクは園井田そのいださんと途中まで一緒に帰ることになった。

 園井田さんはもう、真っ白い制服に着替えている。


「どしたの? 鴎外おうがい君」

「……園井田さんは真っ白い制服が似合っているね」

「当たり前でしょ。なに、うさうさガール衣装の方が似合っているとでも?」

「あ、あははー……」


 うさうさガール衣装も可愛いと思うけど、口にするとすごく怒られそうだ。

 あんなに怖いと思っていた鬼の執行長もこんなに近しくなって……いや一部めちゃめちゃ怖い面はあるのだけども……仲良くなった感じがした。


 そうだ、とボクは思いつく。


「園井田さん、ちょっとここで待っていて」

「?」


 きょとんとした彼女を待たせて、ボクは近くのコンビニへ立ち寄る。

 ジュースとお菓子を買ってきて、憮然と立っていた園井田さんに袋を差しだした。


「はい、これボクからのプレゼント」

「なんで?」

「今日イベントをがんばったのに報酬なしでしょ?

 少しはご褒美があってもいいかなって」


 しかし園井田さんは受けとらなかった。


「ねえ、授業サボリ魔君。ボランティアは授業の一つだし、その授業に報酬を求めるのは間違っている。

 そもそもあたしはまだ授業中の身であって、これは買い食いよ?」

「自分にも他人にも厳しい……」

「あたしは執行長なの。厳しいぐらいでちょうどいい」


 園井田さんは断固受けとりを拒否した。

 ボクはちょっとだけ深呼吸をしてから、勇気をだす。


「友だちからのプレゼントでも……ダメ?」

「友だち……?」

「そ、そう。友だちいない同士で、ボクたちはもう友だちなわけで……」


 ボクは力なく笑った。

 園井田さんはまん丸くしたあと、頬をうっすらとだけ染めて、おそるおそるコンビニ袋を受けとった。


「あ、ありがとう……。み、みそら君」


 今度はボクが目をまん丸くした。


「ちょっと、黙らないでよ」

「い、いきなしだったから」

「……親しい友だちは下の名前で呼び合うのがフツーでしょ! みそら君!」

「……うん、そうだね。クスノさん」


 ボクたちは名前を呼びあい、二人して恥ずかしそうに笑った。

 クスノさんは嬉しそうにコンビニ袋の中身を見つめたあと、いつもの勝ち気な表情で告げてくる。


「みそら君にはお礼として、模擬戦で鍛えてあげなきゃね」

「へっ⁉ や、ボク、そーゆーのは……!」

「あなたのダンジョン観はわかっている。

 あたしも同じ考えだし。

 でもそれはそれとして、楽しみ方をもっと増やしていいと思うの」


 クスノさんは優しい瞳で言う。


「あたしはね、、それで得るものもあると思うの」

「…………?」

「ええ。ダンジョン攻略における効率的な成長じゃなくて……お互いにお互いを認めあう成長といえばいいのかしら?

 あたし、聖ヴァレンシア学園でライバルと競い合って、きずけた楽しさも知ったから……。

 みそら君にも知って欲しいなって」


 クスノさんは、ダメかなと瞳で聞いていた。


 目が覚める思いだった。

 どうにか聖ヴァレンシア学園との抗争を避けようと考えていたボクだが、そのあとのことを考えていなかった。


 ぶつかりあって、そのあとだ。

 そのあとが大事なんだ!


 スポーツマンシップといえばいいのかな。

 いがみあっていた同士が互いにぶつかりあい、認め合う。

 そして最後は爽やかに笑顔でアハハと締めくくる。

 誰も悔しい思いをしない、素敵な終わり方だ。


 いい! いいじゃないか……!

 ……!


「全力でぶつかりあう……いいかも」

「うん、考えておいてね」


 クスノさんはそう言って、ボクから離れた。


「それじゃあまたね、みそら君」

「うん。またね。ばいばい、クスノさん」

「……ばいばいっ」


 クスノさんは恥ずかしそうにバイバイと元気よく言って、ボクとはちがう方角へ歩いて行った。

 これが青春なのかなあとじんわりと浸っていたが。


 心臓が止まりかける。


 雑居ビルと雑居ビルのあいだ、路地裏の影に彼女が立っていた。

 アルマはなにも言わずただ黙って、ボクをじーーーーーーーーーーーっと見つめていた。


 ※※※


 そのあと、ボクの説明にアルマは納得してくれた。


「そうですか、敵を知るために接近を……。

 さすがです、魔王さま。

 そうともしらず、わたし、てっきり。大変なことをしでかすところでした」


 大変なことはなにか聞かなかった。

 聞けなかった。 

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