浮き上がる意識と広がった光景

 ふわっ、と一気に目が覚めた。

 すっきりとした感じはなくて、ただ身体が重い。

「先生、目覚めました」

「おお……!おかえりなさい。……ああ、奥さん、目覚めましたよ」

「藤吾!おーい、おはよ」

 目を開けて、数回瞬きをすると、夢の中で愛した恋人がいて、彼女は今、『奥さん』と呼ばれていた。

「今、いつ……」

「今は二〇二三年です。三日間お疲れ様でした。良かったですね、依田さん。成功しましたよ!貴方だけです!」

 医者は感動しているらしく、理子と同じように目に涙を溜めている。

「……成功、か」

 なんとなく、夢の中の実感ではあるものの、そうなると分かっていたからだろうか。感動はなく、安心感が優っていた。

「理子」

「ん、なに?」

 辛うじて動かせる腕に力を入れて、彼女の頬に触れる。温かくて、温度を奪ってしまいそうだ。

「具合、悪くない?大丈夫?」

「うん、私は大丈夫。最近眠気が凄かったんだけど、今はもうスッキリだよ」

「……そうか」

 きっと、この試験の影響によるものだ。

 俺はグラグラと視界が揺れる不快感があったけれど、理子にないのならそれでいい。

 どうやら、大部屋から個室に移されたらしい。静かな室内に心電図の音がやけに響いていた。

「さ、依田さん。感動の再会の直後で申し訳ありませんが、少し経ったら検査に行きましょう。用意、頼みますよ」

「はい」

「……あれ」

 看護師を見て、気が付いた。

 あの人じゃない。あの美人な看護師ではなかった。どういうことだ。

 俺の考えている事が分かったのか、医者は理子に席を外すよう促し、二人きりになったタイミングで椅子に腰掛けた。

「気付きましたか?」

「看護師さん、違う人ですよね。……夜勤?」

「いえ、彼女には、今回の試験から外れていただきました」

「へぇ。……」

「理由を、知りたそうですね」

「まぁ、はい」

 知りたくないと言えば嘘になる。そして、どうやら医者も話したいらしい。

「今回の被験者の中に、以前依田さんの担当だった看護師の同級生がいたんです。そこまでは事前に分かっていたのですが、どうやら…‥かなり親しい関係だったようで、耐えられない、と訴えがありましてね。それで今回は、別の看護師に代わってもらったんです」

「へぇ」

 まだ脳が起きていない。だから、話は聞いていても、中身を全部理解できた訳じゃなかった。だが、待てよ。

「俺だけ、って言いましたよね」

「……ええ」

「……その同級生は、無事なんですか」

「気になりますか?」

「……いや、やめときます」

 これ以上は聞いてはいけないような気がして、話を膨らませるのはやめた。

「いやぁそれにしても、本当に素晴らしい変化ですよ。貴方に関する記述が大きく変わりました。学歴も経歴も、依田さんに関するもの全て、です」

 大層嬉しいらしい医者は、検査の準備を整えた看護師が戻るまでの間、一人でずっと話していた。

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青春リベンジ‼︎ 雪原宙也 @chu_ya11

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