ショートショート
古海うろこ
砂にかえっても
海に行こうと倉橋が言ったので、翌日俺は体調不良で仕事を休みレンタカーを借りた。
「本当に行くとは思わなかった」
助手席に収まった倉橋は俺を見て言った。膝の上で神経質に組まれた手の、右親指の付け根にほくろが二つ並んでいる。惑星のようなそれが好きだ。
「言い出したのはお前だよ」
倉橋は海を避けていた。二年前に水難事故で記憶をなくして、俺のことを忘れてしまってから、一度も海へ行っていない。
「ケーキ屋に寄ってほしい。あと花屋にも」
高速に乗る前、倉橋が突然そんな事を言う。
「記憶が戻ったら砂浜でケーキを食べて、花束を投げて祝いたい」
戻らなかったら、とは聞かなかった。ただ、今日は風が強いから、きっと倉橋は砂まみれのクリームを食べて文句を言うだろうと思った。
ショートショート 古海うろこ @urumiuroko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ショートショートの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます