Day.30 握手
たった数秒握手をしただけで、相手の年齢、血液型、誕生日や性格、生い立ちまで見抜ける超能力者が世間を賑わせている。握手の時間が長くなればそのぶん読み取れる情報も増え、果てには将来の出来事まで言い当てられた者もいるそうだ。
ぜひ自分の未来も教えてほしい、と縋る依頼人は多いらしいが、一つ問題がある。超能力者についての情報はなにも明かされていないのだ。
性別も年齢も、身長も分からない。「花子」と呼ばれてはいるけれど、誰が言い出したのか分からない偽名がいつの間にか有名になっただけだ。雑誌やメディアの取材を受ける際も、衝立越しやボイスチェンジャーの使用など、自身の素性につながる手がかりは徹底的に残さない。
「花子」の能力は尊敬される一方で、厄介だと畏れる奴らから狙われてもいる。そういった勢力から隠れるための手段だろう。
けれど、俺は知っている。「花子」の本名も年齢も、なにもかも。
俺と奴は、幼なじみなのだから。
奴が己の超能力に気づいたのは、俺と手を繋いで歩いていた時だ。突然青い顔をして「君とは一緒に居られない」と、なんの前触れもなく絶交を言い渡してきた。
今なら分かる。奴は俺が将来どんな人間になるか知ってしまったに違いない。
任務完了、と独り言ちながら、倒れ伏した「花子」の胸からナイフを抜く。
あの時未来を教えてくれていれば、俺は変われたかもしれない。それを選ばず恐れて逃げた結果がこれだ、と嗤いながら握った奴の手は、いつかと違って冷たかった。
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