みじかいおはなし

enmi

第1話 桃から生まれた桃太郎 1




「もうすぐ日が暮れる、家に帰った方がいいんじゃないか?」


探し物をしている旅の途中、少年が一人で川辺に佇む姿を見て思わず声を掛けた。


「こんなところに一人で居て、鬼に喰われちまうぞ?」


少し脅せば家に逃げ帰ると思った。


「、、、家に帰りたくないんだ。」


暗い顔で少年がポツリと言う。

何か訳がありそうだ。


「どうして家に帰りたくないんだ?

俺で良ければ話を聞こう。」


もうすぐ日暮れ、子ども一人この場に残して行くのは気が引けた。

とりあえず話を聞くことにした。


「俺、おじいさんとおばあさんと暮らしてるんだけど、、、二人が怖いんだ。」


「二人に暴力でも振るわれるのか?」


見たところ怪我もないし、着物も良い物を着ている。

虐げられているようには見えない。


「殴られたことなんて一度もない。

二人は優しいよ。」


益々謎は深まるばかり。


「優しいのに怖いのか?」


「俺、鬼退治に行かされるために二人に育てられてるんだよ。

一人目が鬼に殺されて、俺はその代わりなんだ。」


少年の目から涙がボロボロ溢れる。


「俺、鬼退治なんか行きたくねぇ!

殺されちまう!怖いんだ!」


「そりゃ怖いな、俺でも怖い。」


少年の背中を摩ってやった。


「お前、親はどうしてるんだ。

爺さんと婆さん以外に家族は居ないのか?

他の家族に相談は出来ないか?」


「親なんか居ない。

俺も一人目もそこの川から流れて来た桃から生まれたんだ。

桃から生まれたから名前も桃太郎って言うんだよ。」


桃から人が産まれるなんて話は聞いたことがない、、、。

この子は爺さんと婆さんに騙されているんだなと思った。


「よし、俺が二人と話しをしてやろう。

家に案内してくれるか?」


少年の横顔が少しだけ姉に似ていたからか、俺はこの子を放っておくことができなかった。



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