第2話 私に洋服、脱がして欲しいの?

 宇佐美光莉。俺に先ほど別れを告げたである。しかもそのお姉さん?全く理解ができない。あまりの衝撃に脳内の思考が停止した。


「おーい!おーい!大丈夫かい?海斗君。海斗君、フラれたんだろー?知ってるぞ。」


何か言っている。ただ今の俺はそんなのを聞く余裕すらもない。


「ほんとに大丈夫かい?フラれて、ショックで固まっているのか?」


俺は何とか正気を取り戻し、もう一回聞き直す。


「あのー、今、なんて言いました?」

「ほんとに固まってたのかー。可愛いなぁ、海斗君は♡」


そう言って朱莉さんは俺の頬を撫でるように触る。


「ちょ、何ですか?いきなり俺の家の前まで押しかけてきて。そもそもあなたが俺のストーカーってことが意味わからないんですけど!?」

「言葉の通りじゃん。私は海斗君のストーカーだよ。だから君が今日、フラれたことも知ってるんだ。」

「は、はぁ。」


話が全く通じない。

これじゃ説得する気にもならない。この人、ほんとに何なんだ?


「こんなところで喋ってないで、早くお家入ろ?風邪ひいちゃうし、フラれたショックで、何もしたくないだろからさ。私がご飯も作るよ。ほら、早く鍵開けて?」


「イヤです。普通にイヤです。あなたに主導権握られるのイヤです。」


「そんなこと言わないでさぁー。じゃー、いいよ。約束する。私を家に入れてくれたら、何でもしてあげる。ご飯も作るし、私の体で海斗君のこと癒してあげる♡」


「ちょ、何言い出すんですか。何でそんなことして貰わなきゃいけないんですか。自分で出来ますよ。」


「自分で出来たら、さっき公園で脱力して天を仰いでないと思うよ。海斗君、今、何もやる気ないのわかるんだから。お姉さんに任せない!」


「はぁー。」


俺はこれ以上、朱莉さんに何を言っても勝てそうにないと思い、家の鍵を朱莉さんに渡す。すると朱莉さんはすぐさま家の鍵を開けて、俺の手を引っ張って一緒に家に入る。






 朱莉さんは俺を強引に家に連れ込むと、俺を玄関に置いてすぐさまキッチンに向かった。


「約束通り、今日は私がご飯作るから、早くお風呂入ってきな!頭洗って、体洗って、嫌なこと忘れよう!」


そうは言われたものの、動く気もしない。彼女にはフラれるし、フってきた彼女のお姉さんに無理やり家まで連れてこられたのだから。てか帰ってきたんだけど。色々訳がわからなくなってきた。


すると朱莉さんが玄関で立ち止まっていた俺の手を取って、風呂場まで連れて行く。






 俺は風呂場に連れてこられて、早く風呂に入れと朱莉さんに言われる。いくら全くの赤の他人ではないとはいえ、流石に関係も複雑な人に風呂に入れと言われても。


ちんたらして明らかに風呂に入ろうとしない俺を見て、またしても朱莉さんは俺に言う。


「ちょっと!海斗君!何でお風呂に入らないのよ!何で動かないのよ!ご飯の心配はいらないから!」


「いや、別に飯の心配はしてないですよ。」


「じゃなんでお風呂に入らないのよ!あっ、もしかして、私に洋服、脱がして欲しいの!?そっかー、甘えん坊なんだね♡いいよ、お姉さんが脱がしてあげる♡」


そう言って朱莉さんは俺の着ていた制服を脱がそうと近寄ってくる。

流石にここまでされたら抵抗する。


「ちょ、自分で制服くらい脱げるんで。風呂、入りますから。あの、もう行ってもらえませんか?」

「そっか、そっか。流石に恥ずかしいよね。女の子の前だもんね。」


そう言って、朱莉さんは脱衣所から出ていき、料理を始めた。


「風呂入って、一旦落ち着こう。」


俺はそう呟いて、制服を脱ぎ、風呂に入る。






 30分近くお風呂に入っていただろうか。俺は風呂から出て、体を拭き、パジャマに着替える。そしてリビングに向かうと、まだキッチンで料理をしている朱莉さんの姿があった。


「あっ、海斗君。お風呂出たんだね。ちょっと待っててね、もうちょっとでご飯、完成するから。」


「ありがとうございます。」


なぜだかさっきまであれだけ違和感しかなかった朱莉さんが家に勝手に入ってきていることに何の違和感も感じない。感じないどころか、普通にご飯作ってもらってる自分がいる。さてはこの人、意外と接しやすいかもしれない、なんて思っている自分がいることにちょっとびっくり。


「何作ってるんですか?」


ただ気になって朱莉さんに聞いてみた。


「海斗君も話す余裕が出てきたんだね。安心だ。今ね、ハンバーグ作ってるんだよ。あと焼くだけだから、待っててね。」


どこか幼いような、でも大人な笑顔を振りまいて、俺に言う。

正直、可愛いなと思った。


「朱莉さん、僕のこ……。」


俺が質問しかけた時、朱莉さんが声を被せて、言った。


「質問はご飯食べる時にして?今は休んでてね。」


そう言われて俺はソファーに座った。別に質問ができないわけでもないし、何よりなぜか朱莉さんの声が心地よくて。不思議なくらいに朱莉さんの言うことに従ってしまう。


童顔でそれでいてかつ完璧なスタイル。正直自分の性癖にドストライク。


少し余裕が出てきて、朱莉さんの観察をしていると、ますますどこからか安心感が湧いてくる。

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