異常事態の始まりと新たな出会い

 翌日、俺はいつも通り、朝ごはんを銀の雫で食べていた。するとミオから話しかけられる。

「知っていますか?昨日、サクラから少し離れた丘で冒険者と思われる者の左手だけが見つかったらしいですよ。10個の左手が綺麗に丘に並べてあったんですって。警察が捜査を始めているようです。常連の刑事さんが教えてくれました」


「へえ、左手が10個か。なんだか気味が悪いね。なにかメッセージなのかな?」


「その辺りはまだわかっていないようで、捜査中みたいです。無事解決すると良いんですけどね…… 最近すごい強い盗賊がサクラに来た、なんて話もあったり物騒なニュースが多いですね」


「そうだね。まあサクラには強い冒険者がたくさんいるから大丈夫だろ」

「そうですね、とりあえず早く解決することを祈りましょうか」

「うん」


 ミオと話を終え、コーヒーを飲んでいると突然女の人に話しかけられる。ピクシーのようだ。

「あなたがカミト? チームを募集していると掲示板を見たんだけど……」

 あ、掲示板から自分の用紙を剥がすのを忘れていた。

「すまない、もうチームは決まっているんだ。剥がすのを忘れていたよ」

「そうなんだ。ならごめんなさいね。あ、私はナタリー。今後クエストとかで一緒になるかもしれないからその時はよろしくね」

 ああ、と俺は頷く。


「良かった! 男の子をこのチームに入れるのは反対だったのでよかったです。ちょっとかっこいい人ですけど! あ、私はメアリーです。よろしくお願いします」

 かっこいい、なんて変身してから初めて言われたぞ。素の自分ではないといえ、褒められると照れる。

「こんにちは……、ヴェラです。よろしくお願いします」

「よろしく、3人でチームを組んでいるのか?」


「ええ、そうなの。私達は同じ村の出身で、色々あって村を飛び出して冒険者になったんだけど…… チームランク3で頭打ちになったから新メンバーを入れようかと考えていて」

 チームランク3から4になるのは最も難易度が高いと言われている。所謂「中級者の壁」である。ランク4に上がると受領できる依頼は格段に増えるが、危険度も格段に上がるため冒険者ギルドの判定が厳しい。

「同じ村出身3人に新しく追加するのはなかなかハードルが高いな……まあ女性が無難なんじゃないか?」

「そう思ったんだけど中々女性で有望な新人冒険者がいなくてね……まあ気長に探すことにするわ」


 俺達はその後、軽く雑談をした。

「あ、そろそろ依頼を探しに行かないと。またあったらお話ししましょうね!」

「ああ、よろしく頼む」

 気づいたら俺も集合時間が近づいている。俺は集合時間に遅れないように急いで冒険者ギルドに向かった。


 今日、ライエルが持ってきた依頼は、「警察の捜査の警備」だった。珍しい依頼だ。

 丘の上で捜査する際に警察を魔物から守る仕事のようだ。丘は近場なのでそれほど強力な魔物が出るとは考えられないが、報酬が良かった。

「1週間警備するだけで金貨6枚だ。分配しても余裕で今月の家賃を払えるぞ!」

「いいね、暇な時間も多くて色々雑談もできそうだし、気楽な依頼だね。これにしよう」

 これは、さっきミオが言っていた「冒険者10人の左手が並んでいた」事件の捜査だろう。ややこしいことに巻き込まれないといいな、俺はそう考えていた。


 この依頼は複数チームで合同で行うようである。

「チーム同士で喧嘩したりしないでくださいね」

 受付嬢からそう釘を刺されたので、他のチームもいるのだろう。低ランクの依頼なのであり得ないと思うが、ハイエルフのチームといったややこしいチームと一緒でないことを祈ろう。


 冒険者ギルドに指定された集合場所に向かうと、なんとナタリーとメアリー、ヴェラがいる。

「おお、カミトさっきぶりじゃん。貴方達も警備の依頼受けたの?」

「おお、ナタリー達か! そうだ、よろしくな!」


「おい、この女の人達知り合いか?」

 ライエルに話しかけられる。

「ああ、さっき銀の雫でチームに入らないかと声をかけられたんだ。それで少し話したんだよ」


 しかしさっき解散したばかりなのにもう再会するなんて。

「これは運命ですね!」

 メアリーの笑顔が眩しい。とりあえず笑っておいた。


 ライエルとアズサ、ナタリーとメアリーは警察と打ち合わせをしに行った。暇になったのでヴェラに話しかける。

「ヴェラって普段は何して遊ぶんだ?」

「…… んー。私は魔道具を集めるのが好きだから、魔道具屋巡りが多いかな……」

「魔道具か。なんかオススメの魔道具ある?」

「XXXXXX」

 ヴェラはすごい早口になりだした。完全なるオタクだな。全く何を言ってるかわからなかったが、とりあえず「ありがとう」と伝えておいた。

「とりあえず、変な物買って逮捕されないように気をつけろよ」

「……もう遅いかもしれない……」

 ほぼ犯罪者じゃないか。俺はその収集癖に呆れてしまった。


 打ち合わせが終わったようで、皆戻ってきた。とりあえず2人1組で丘を中心に円形上に待機し、監視する形をとるようだ。

「カミトさん、私とペアになりましょう!」

 メアリーがいきなりそんなことを言い出す。

「いいんじゃないか? 冒険者の繋がりを作るのも悪くない」

 ライエルはそういうと、ナタリーに声をかけていた。やっぱチャラいなあいつ。


 クエスト中はメアリーが色々話しかけてくる。途中から面倒になって適当に返事をすると、「うざいんですけどー」と口を膨らましていた。妹がいたらこんな感じなのだろうか。俺はそんなことを考えながら周囲の警戒を続けるのだった。


 初日は何事もなく終わった。このまま1週間平和に終わるといいな、そう考えながら俺は帰宅した。ホームに帰還するとアリエッサが少しイライラした顔をしている。

「機嫌が悪そうだな。どうした?」

「ギルドから何か依頼を受けてくれないかと言われまして…… 王族の警備なんていう面倒なものから小さな村のアンデット退治まで多種多様な依頼を見せられまして。面倒な案件はギルドに突き返して、少しだけアンとエッジで対応するようお願いしました」


「ありがとう。ちょっとでも冒険者ギルドに恩を売っておくのも大事だもんね。助かるよ」

 冒険者ギルドに恩を売っておくと、便宜を図ってくれることがある。ギブ&テイクの関係というやつだ。アンとエッジには申し訳ないが頑張ってもらおう。

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