順調な日々と不安な兆候
それから1週間、俺達は毎日クエストをこなした。もっとペースを空けても問題ないのだが、4人で活動するのが楽しかったからである。受けた依頼は低レベルの魔物を多数撃破するというものを中心にした。ゴブリンやコボルト、オークやトレント、ガーゴイル……LV10の俺であったら3秒で撃破できる弱い魔物だが、LV3としては歯応えのある魔物である。後は、薬草の回収という依頼も面白かった。この薬草がポーションになるんだったな、など改めて知識を取得することが楽しい。
報酬は四等分している。チーム結成時に話した通り俺は少なくていいと言ったのだが、マルクとアズサに反対されたため、均等に配分することになった。なんでもお金の配分は極めてセンシティブなテーマらしく、不用意に変なことをすると後々トラブルになるリスクが高いそうだ。チームが解散する理由一位が報酬での揉め事らしい。レベルが違う場合には差をつけても不自然ではないが、同じレベルで差があるのは見た目にもよくないと説得された。
さすがにお金には困ってないからいいよ、とも言い出せず、俺は素直に報酬を受け取るようにしている。
なお、ヘッズオブドラゴンの報酬配分は全てアリエッサに一任している。最初はお金が溜まって行くのが楽しかったが、LV7を超えたあたりから使い切れる金額ではなくなって溜まっていく一方になった。それで興味がなくなりアリエッサに、配分は任せた! と一任している状態だ。冒険者は、酒や女に金を使うというのがあるあるだが、酒は飲んでも酔わないので面白さがわからないし、女は……昔お店に行ったらアリエッサとエリスにバレて1週間口を聞いてくれなかったのでそれ依頼自重している。アリエッサ曰く「そういうお店に行くのは怠惰の象徴」らしい。辛いところだ。
移動中は雑談しながら進む。
「昨日の芸能新聞読んだか?あの歌姫が今年も全国ツアーをするらしいぞ」
「キキの話?見た見た。サクラにも3ヶ月後くらいに来るみたいだね。僕一回ライブ行ったことあるけどすごい楽しかったからまた行きたいなあ」
誰だそれ?
「キキって歌姫がいるのか?」
「キキを知らないの?彼女は5年前くらいにデビューした歌手で、圧倒的な声と作詞能力、そして整った顔で瞬く間にスターになった、世界の歌姫よ。特に歌詞がすごいんだから」
「そうなんだ?歌詞の何が凄い?」
「リアリティかな。あるあるという感情を上手く言葉で表現していて… とにかく聞いていると心に沁みるのよ」
「おい、向こうの方に魔物の匂いがするぞ。全員戦闘準備だ」
ライエルの一声で俺たちは戦闘モードに移行する。
現れたのは、グールだった。何かの死骸を食べながらこちらへ向かってくる。
「汚ねえ。近寄りたくねえな」
ライエルはぼやくも、グールはLV4の魔物だ。遠距離攻撃だけで倒せるほど弱くはない。
「でも、どうする?LV4は流石に今の私達でも荷が重いんじゃない?」
「そうだね、バレないうちに撤退するのもありだよ」
ギロっ。目が合ってしまった。グールは実は足が速い。俺達に逃げるという選択肢は無くなった。
「全員、戦闘開始! まずは遠距離攻撃だ! サンダー!」
「ウインド!」
「ポイズン!」
「スロウ!」
俺とライエル、マルクは一気に接近し、剣で切り掛かる。
ガキーン。鈍い音がした。どうやらあまり効いていないようだ。グールの厄介な点は攻撃スピードがオーガより遥かに速いところ。マルクが防御している余裕がないため、全員ヒット&アウェイで攻撃するしかない。
ただ、頭がそれほど良くないのが救いだ。俺達はひたすらヒット&アウェイを繰り返した。
「ふう、魔法の効果が無くなったか。もう一回だ、アップ! シールド!」
俺は切れかかったバフをかけ直し、再度特攻する。汗が目に入って邪魔だ。しかし拭いている余裕はない。一撃でも受けると大ダメージになってしまうため細心の注意が必要だ。
ギギギ…… 戦闘開始から30分、地道な攻撃を四人で続け、なんとかグールを撃破した。
「よっしゃー!」
「はあ、疲れた。死ぬかと思ったよ」
討伐証明部位を回収し、俺達は離脱する。ちなみにグールの肉は腐っているので非常に不味いらしい。まあ見たらわかる。よく試した奴がいるもんだ。
クエストを終え、家に帰りこっそり拠点に帰還する。すると、
「あ、リーダー!」
「お久しぶりです!」
そこにはクエスト帰りのアンとエッジがいた。
「おお、お疲れ。またすぐクエストか?」
「いえ、疲れたのでしばらく休暇にします。明日は夜友達と遊びに行くんですよ!」
「自分は家でゴロゴロします。お偉いさんのお守りは疲れました…」
「そうか、お疲れだったな。ゆっくりしてくれ。そういえばエリスはどうした?」
二人は意味深な顔をしている。
「一緒に帰ってきたのですが、急に「追加依頼を受けてくる」と言って旅立って行きました。ゆっくりできない性格ですね……」
あーまあ、エリスだしな。そして、俺は二人に変身について説明した。二人ともアリエッサから話を聞いていたようで、俺の過ごし方に賛成してくれた。
「ただ、このチームでもっと成長したいです。あまり新しいチームばかりに力を入れないでくださいね」
「それは約束する。どっちも頑張るようにするよ。まだまだ色々なことを一緒にやっていこう」
チームメンバーに応援されると嬉しいものだ。その後、アリエッサが作ってくれた夕食を皆で食べ、クエストの話を色々と聞き、こちらも話した。すっかり満足した俺はすぐに眠りについたのだった。
皆が寝静まった深夜、サクラの端の古びれた一軒家に一人の女が訪れる。
「ありがとう。貴方のおかげで準備はできたわ。後は満月の夜に実行するだけ」
「おお、それはよかった。健闘を祈るよ」
顔に傷が入った男はニヤッとしながら答える。
「でもこんな所に出入りしてたらお前も盗賊だと思われるぜ。気をつけろよ」
「そうね、ありがとう。私はお礼を伝えたかっただけ。これで最後にするわ」
「こっちとしても宣伝としてちょうどいいからありがたいぜ。きちんと成功させてくれよな」
「もちろんよ、ようやく巡り合いた復讐の機会、逃すわけにはいかない」
そう呟くと女は闇夜に消えていったのだった。
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