ギャルエルフのエドナさん! 出会って5秒で惚れちゃったぼくは、きみと仲良くなりたくて…

@mullhouse

第1話 ギャルエルフのエドナさん

 朝のHRの終わりに、担任教師から衝撃の事実を告げられた。


「えーっと、もしかしたらみんな噂に聞いてるかもしれないけれど、このクラスに転校生が来ている。転校生……っていうのかな? 転入生……いや、転『世』生……まあ、なんでもいいか。じゃあ入って、エドナさん」


 戸を開けて教室に入ってきたのは、異国の人……どころか、異世界の人だった。

 褐色の肌によく似合うウェーブのかかった金髪。細い顔のラインに、すーっと流れるような目鼻立ち。ああ、きれいだなと心の声が漏れそうになる。

 なによりも、異世界らしい容貌は、その耳だった。

 横方向に長くて、細い耳。そこだけは、この教室の誰と比べてもはっきりと違っていた。


「エドナさんは別の世界からこの世界に転世してきた子だ。じゃあ、自己紹介……あー日本語わかるの?」


「はい」


 元気に頷いてチョークを受け取ると、エドナさんはカツカツと横向きに字を書き始めた。幾何学模様を描いているのだとぼくには見えたし、ほかの生徒があとで言うには知恵の輪を描いているのだと思ったそうだ。


「エドナ・シューウェクト・フォーナー・帆佐那です。いわゆるエルフ族ってやつでーす! 気軽にエドナって呼んで~!」


「え、ギャル?」


 教室がざわめきだった。

 エルフのエドナさんは、なんというか、とてもじゃないけどエルフっぽくなかった。制服はさっそく着崩していて胸元がちょっと見えている。スカートは短くて、ハリのあるふとももがはっきりと主張している。身に付けているものもキャラもののアクセサリーとかルーズソックスとかだし、どこからどうみてもギャルだった。

 ギャルエルフのエドナさんだった。


「じゃあエドナさんは日馬くんの隣ね」


 急に名前を呼ばれたぼくはどきりとした。たしかに、朝から隣の席に誰も座らないことに違和感を覚えていたところだ。しかし、そこは……


「先生、そこは小口くんの席だったはずですけど」


 委員長の女の子が手を挙げて疑問を投げかけた。


「うん。小口君はエドナさんと交換であっちの世界に留学中なの。だからそこでいいよ」


「あ、そうなんですか……」


 小口くん、いつのまにかそんなことになっていたのか。昨日まで「あーテストかったりー。なあ日馬、帰りにアニエイト寄って漫画の新刊漁ろうぜ」って話しかけてくれていた小口くん……彼だけがクラスで唯一話せるオタク仲間だったのに……。


「おじゃまー。お隣さん、よろしくね~。エドナって呼び捨てでいーよ」


さっそく鞄をフックに引っ掛けて椅子に腰を下ろしたエドナさんが話しかけてきた。


「あ、ぼくは日馬です。日馬善です」


「ヒウマゼンくん? じゃあ善くんって呼ぶね~」


「あ、あはは」


 距離の詰め方がギャルのそれだ。エルフってもっとこう、おしとやかで、ちょっと高慢で、適切に距離を保つ種族じゃなかったかな?


「ていうか教科書まだないんだよね。善くん見せて~」


「あ、それなら今日の範囲を職員室でコピーしてきますよ」


「は? 机くっつければよくね~?」


 がつん、と机を寄せてくる。その勢いで、彼女の胸元のあたりから(たぶん、いやきっとそう)ふんわりと果実の香りが漂ってきた。あ、だめだ。惚れちゃう。好きになっちゃう。

 オタクはこういうことされると弱いんだ。


「あれ、どしたん? 善くん固まっちゃってね?」


 顔を近づけてくる。ばっちりメイクした顔が、と息のかかりそうなくらい近くにある。


「あ、あの、その」


「んー?」


「眉毛、きれいですね」


 頭の回転がめちゃくちゃ遅くなって、そんな言葉しか出てこなかった。

 エドナさんはきょとんと眼を丸くしたあとで、にやあっと笑った。

 それから、両手でほっぺを抑えると、小躍りするみたいに左右に揺れた。


「え、まじ、わかる? 今日眉毛めっちゃ上手に描けたんだよね。ホームステイ先の家の人もだれも言ってくれなかったんだけど。善くんだけだよ、そう言ってくれたの。すごくうれしー!」


「あ、そうなんですね、あ、はい、あ、あの」


 話すときに「あ」ってつけるのやめたいな。

 いい香りに包まれながらそんなことを思った。


「え、ほかには? メイク良いところとか、わかる?」


「メイクっていうか、香りが、とても」


「わかる?! いい匂いでしょこれ! 桃の香りがベースになってるんだけど、春のお花畑をイメージしているんだって。これけっこう高くてさー。使うかどうか迷ったんだけど、初日だし? 気合入れるつもりで使っちゃったんだよね」


「耳の、ピアスも」


「ふふふ」


 エドナさんは純粋そうにほほ笑んだ。


「善くん、仲良くなれるかも。これからよろしくね」


 よろしく。

 ぼくは口をぱくぱく動かしながら応えた。

 仲良くなれるかもだって?


 ぼくはもう、エドナさんのことを出会って五秒で好きになっちゃってるっていうのに。

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