第16話 次回、ザマァ!

〈『武装解除ディスアーム』www〉

〈あぁ。そういや素手の必殺技スペシャルムーブだっけ〉


 武器にはそれぞれの種類に応じて必殺技が幾つか設定されている。


『武装解除』は見ての通り、相手の装備した武器を一定時間外す効果だ。


 両手持ちの戦士の場合、攻撃は勿論回避判定も武器に依存する。


 その武器を解除されたら?


「オラオラオラオラオラオラ!」

「ぐああああああ!? って、素手の攻撃なんかでやられるわけねぇだろ!? 舐めてんのか!?」


 格闘用の武器を装備しているならいざ知らず、†unknown†は完全な素手だ。


 殴り速度は速いがダメージは雀の涙である。


「舐めてんだよ。だから言わせんなって」


 †unknown†が毒の塗られた手裏剣を投げつける。


「残念だったな! 毒なら効かねぇよ! 俺は『吸血鬼』だ!」


 わざわざキャスパーがフルフェイスの兜を取って見せる。


 頑張ってキャラクリしたのだろう。


 イケメン顔は真っ白な吸血鬼色だ。


『死霊術』スキルには幽霊レイスやリッチなどに変身出来る呪文がある。吸血鬼化ヴァンパイアライズもその一つで、与えたダメージの一部を回復するライフリーチや高いスタミナ回復力が付与される等、様々な恩恵がある。


「吸血鬼が自動解毒出来るのはレベル4毒デッドリーポイズンまでだ。自キャラのスキルの効果くらい覚えとけバーカ」


 直後、レベル5毒リーサルポイズンの効果が発動し、強力な持続ダメージがキャスパーを襲う。


「ぐぅ!? そんなもん解毒ポーションで――」

「吸血鬼は作成にニンニク使う解毒ポーションは飲めねぇし、そもそも自動解毒に頼ってるような奴がそんなもん持ってるわけねぇな?」


 キャスパーが言葉に詰まる。


〈いや包帯巻けよ〉

〈『治療』で治せるだろ〉

〈バカかかこいつ?〉


 向こうでも同じようなコメントが流れたのだろう。


「う、うるせぇ! 今やろうしてた所――」


 そこで再びキャスパーが言葉に詰まった。


「な、ない!? 包帯がない!? なんでだ!? 確かにちゃんと持ってたはずなのに!?」


〈バカスwww〉

〈近接キャラで包帯忘れるPKいるってマwww〉

〈どんだけ笑かしてくれるんだよwww〉


「探し物はこれか?」


 †unknown†が足元に包帯を落とす。


 わざわざ染めたのか、赤い包帯である。


「その色は!? 確かに俺の包帯!? なんでてめぇが持ってんだよ!?」


〈いや、なんで赤いんだよ〉

〈中二的なあれじゃね?〉

〈これは恥ずかしいwww〉


「う、うるせぇ! 血染めの包帯かっこいいだろうがよ!?」

「その気持ちは理解してやらんでもない」


 腕組みをして頷くと、時継は種明かしをした。


「なんでお前の包帯を俺を持ってるかだが。そんなもん盗んだからに決まってるだろ?」


 にぎにぎと†unknown†が虚空を握る。


「盗んだ!? そんな暇はどこにも……」


〈いやあっただろ〉

〈お前が未来ちゃんイジメてる間に盗んだんだよ気づけバカ〉


「あ、ありえねぇ! てめぇの事は配信見て知ってんだ! どう考えてもスキルの合計値超えてるじゃねぇか!?」


〈それは思った〉

〈少なくとも『釣り』、『魔法』、『高速詠唱』、『音楽』、『忍術』、『格闘』、『毒』、『隠密』、『窃盗』、『覗き』は取ってるんだよな。しかも高レベルで〉

〈スキルの威力見た感じ『魔法理解』とかの補助スキルも取ってるっぽいし〉

〈チートか?〉

〈だったら流石に幻滅だわ〉


 コメントがざわつきはじめる。


 キャスパーはここぞとばかりに語気を強めた。


「そんなのチートに決まってんだろ! バーカバーカ! 配信でチートバレとかてめぇはもうおしまいだ! チャンネルは炎上、アカウントもバン! 折角バズったのに残念だったなクズ野郎! 見てるかGMジーエム! ここにチーターがいるぞ!」


 GMゲームマスターとは運営サイドのプレイヤーのようなもので、プレイヤーでは解決出来ない問題を解決する為に存在している。行き過ぎた迷惑行為、チートやバグの解決などがそれにあたる。それでキャスパーは†unknown†をチーターとして報告したのだろう。


 問題が認められれば†unknown†はGMの待つ時の牢獄で禁固刑を受けるか、最悪垢バンになる。


 だが、この時は特に何も起こらなかった。


〈なんも起きねぇな〉

〈チーターじゃないんじゃね?〉


「そんな馬鹿な!? おいGM! 寝てんのかよ! この役立たずが!」


 ピシャン!


 抗議の意思を示したのか、キャスパーの頭上にダメージ判定のない雷が落ちる。


 タイミングよく毒ダメージでキャスパーが死亡する。


〈天罰下ったwww〉

〈GMグッジョブwww〉

〈GMも見てるとか人気コンテンツ過ぎるだろ〉

〈いぇ~いGM見てる~?〉


「はぁ~。てめぇみたいなバァ~~~カが考えなしに通報すっからGMが忙しくなるんだ。人様のことチーター扱いする前に足りない脳ミソでよく考えて見ろよ」


 フルーツかりんとう(レーズン味)をボリッボリッしながら言う。


 ミルクチョコでコーティングされたかりんとうとレーズンの組み合わせに脳が痺れる。


「まさか、長期プレイヤー特典か?」


 AOではプレイ期間が一年増える度にスキルの最大値が少しだけ増える。


「それだけじゃ説明つかないだろ?」


 それもあるが、それだけではない。


〈ソウルストーンピースでスキル入れ替えてるんだろ〉


「お、正解。リスナーの方が賢かったな」


〈当たり前だろ〉

〈バカにすんな〉

〈あ~。その手があったな〉


「ソウルストーンピースだぁ!? 高級アイテムじゃねぇか!?」


 ソウルストーンピースは複数の生産スキルが必要になる高難易度生産アイテムだ。


 その効果はスキルの保存と出し入れである。


 複数のソウルストーンピースを使えば自由自在にスキルを入れ替える事が出来る。


 ただし、生産品のソウルストーンピースは一回の使用で壊れてしまい、作成は高難易度ダンジョンのレア素材が必要になる。


 そういった事情で常に高値で取引される高額アイテムの一つだった。


 多少裕福なくらいでは手軽に使えるアイテムではない。


 だからだろう。


 キャスパーは急に勝ち誇りだした。


「つまり九頭井! てめぇは俺なんかをたった一回負かす為に貴重なソウルストーンピースを何個も無駄にしたわけだ? もったいねぇえええ! そこまでして俺に勝ちたかったのか? 必死乙! 決闘には負けたが、勝負は俺の勝ちみたいだな! ぎゃははははは!」

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