ダンジョンで釣りしてたら同じクラスの美少女配信者に見つかってバズった件
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 ダンジョン配信物始めました
「いやあああああ! 死にたくない! 死にたくよおおおおお!」
死に物狂いの悲鳴は300と41の世界に響き渡った。
一つは揺らめく松明の頼りない明かりに照らされた仄暗い洞窟。
あちらこちらに
剥き出しの岩肌が巨大なアリの巣のように入り組むその場所は
もう一つは店舗兼自宅である老舗和菓子屋
残りの339は――。
訂正、今351に増えた残りはこの配信を視聴しているリスナー達のいるどこかだ。
声の主、自分と似た容姿と名前を持つ女剣士キャラを半泣きで操作するのは、高校一年生の
その名の通り、愛嬌たっぷりの幼顏とグラビアアイドルみたいな身体、配信受けしそうなアニメ声が特徴的な美少女である。
お陰で彼女は配信活動を始めて僅か三か月で登録者三千人を突破した。
そうなる事を見越してと言えば語弊があるが、そうなる事を願ってのデビューだった事は間違いない。
愛嬌未来は大いなる使命を胸に配信活動を行っていた。
その使命とは、実家の和菓子屋を救う事である。
材料費の高騰、低価格高クオリティーのコンビニスイーツの台頭、若者の和菓子離れ、その他様々な理由で愛敬堂の売り上げは年々下がっている。
このままではそう遠くない未来、未来の愛した愛敬堂の味はこの世界から姿を消し、存在したことすら忘れ去られてしまうだろう。
愛敬堂の未来を担う三女として自分に出来る事はないか?
そう考えた時たどり着いた答えがダンジョン配信だった。
世は大配信時代。
世間ではダンジョン配信を題材にしたラノベや漫画が大ヒットし、その影響を受けて現実世界でもMMORPG内でのダンジョン配信が大流行していた。
有名ストリーマーや大手Vチューバーも流れ込み、配信内で取り上げられた商品がバズって人気になるなんて事も起きている。
それで未来もダンジョン配信を行って配信内で実家の和菓子を宣伝する事を思いついたのだ。
現役女子高生の肩書と男ウケする容姿、感動を誘う配信理由でデビュー当初は自分でも驚く程の勢いで登録者が増えた。
だが、可愛いだけで数字が稼げるほど配信業は甘くない。
一ヵ月が経った辺りで登録者の増加ペースは陰りを見せ、三か月が経った今はほとんど横ばいだ。
この一週間に至っては増えるどころか微減している始末である。
理由は分かっている。
シンプルに配信がつまらないからだ。
コメントでも度々それは指摘されている。
実家の再興の為に配信者を始めるくらいだから、未来は真面目な性格だった。
普通なら褒められるべき美徳だが、配信者としては面白みに欠ける。
ゲーム自体あまり得意ではないというのも災いした。
今未来のプレイしている『アブソリュートオンライン』は30年以上の歴史を持つMMORPGの元祖とも呼ばれる作品だ。
典型的な剣と魔法のファンタジー世界を踏襲しつつ、マルチバース的設定で世界観を膨らませ、度重なるアプデによりとんでもなく複雑で広大な作品に仕上がっている。
そんな本作は数年前の超大型アップデートでグラフィックを一新し、令和の時代に再ブレイクを果たしたわけなのだが。
この作品はキャラが死んだら死体が残る。
装備は勿論、一部の例外を除いた全所持品もその中だ。
その間プレイヤーは霊体となり、他プレイヤーか
許された猶予は僅か15分。
それまでに回収しないと死体が消えて全てを失う。
いわゆる全ロスという奴である。
初心者でゲーム下手な未来は頻繁に死亡し、全ロスの頻度も高かった。
トラブルは配信を面白くするスパイスではあるのだが、毎度の事では飽きられる。
未来の場合配信中は生きている時間より霊体になって半泣きでヒーラーを探している時間の方が多いくらいである。
こんな無様な配信ではいくら可愛くたってリスナーが離れていくのも当然だろう。
このままではいけない!
未来は一念発起し、裏でせっせと始まりの街近くの墓地でゾンビやスケルトンを狩り、雀の涙みたいなゴールドをかき集めて普段よりもちょっとだけ良い装備を購入した。
そして今日この日、ネットで調べた初心者向けのダンジョンに足を踏み入れたというわけだった。
裏作業の話になるが、ここまで来るだけでも大変だった。
アブソリュートオンラインの世界は広大だ。
古の神々の戦いによって砕けた世界はバラバラのジグソーパズルみたいに散らばって、それぞれが
それだけでもややこしいのに、この世界には初心者が無料で利用できる便利な転移サービスのような仕組みは存在しなかった。
ログストーンと呼ばれるアイテムに座標を記憶し、そこにワープする『リコール』という魔法は存在する。
というか、これがないとゲームが成立しないくらい必須級の魔法とアイテムである。
これらは自分で作る以外では、商人として活動するプレイヤーから直接購入するか、彼らが自分の店に置いたベンダーという販売用NPCから購入する他ない。
自分で作成するには『マーク』という魔法が必要なので、シンプルな剣士キャラである未来には扱えない。購入するには金が足りない。買えた所で結局『リコール』の魔法が使えなければ意味がない。他にも方法は色々あるのだが、様々な理由によって未来には実現不可能なものばかりだ。
そういう訳で未来は攻略サイトの地図を見ながら徒歩でここまで来た。
それだけで丸二日かかった。
途中で死んだり迷いまくったりしたからだ。
馬があればもっと早く移動できるのだが、もちろんそんな金はない。
ともかく、それだけの苦労が詰まっているだけに、今日の配信にはかなり気合を入れていた。
初めてのダンジョンで頑張っている姿を見せてどうにかリスナーの心を繋ぎ留めたい。
いや、繋ぎとめるだけでは駄目だ。
なにかこう、上手い感じに面白い事をしてリスナーを増やしたい。
それこそ、誰かが切り抜いてバズらせてくれるような凄い撮れ高を作らなければ。
それがまさか、こんな事になるなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。