もっさもさ

 目の前を歩いて来たその犬は、もっさもさだった。

 近づいてくるそれは、口から赤い舌を垂らしながらへっへっへと歩いてくる。リードを持った壮年の男性はこちらを見止めると、目を細めて軽く会釈をした。

「おはようございます」

「おはようございます!」

 返した挨拶は無意識のうちに、自分が思っていたより大きな声が出た。白い犬は首をこちらへ向け、見上げて目を合わせてきた、ように見えた。口角を持ち上げて開いた口は笑顔を連想させ、自然と心地よい気分となった。

 こちらへ興味をもっていながらも、暴れることなく飼い主の男性の歩くペースに合わせるように歩くその姿が、しつけの行き届いていることを物語っていた。

 すれ違い、しばらく歩いてから振り向いた。それなりに離れた距離であっても、悠然と揺れる尻尾の存在感は揺らいでいなかった。

 あの犬はなんという種類だったか。何か聞いたことがあったはずだが、どうにも思い出せなかった。

 スマートフォンを取り出し、検索エンジンで調べようとし、手を止める。検索するとして、何と入れるべきだろう。

 暫し悩んだ後、取り敢えず思い浮かんだ文言を入力してみることにした。

 えーと、し、ろ、く、て、で、か、…あ。

 サモエドか、そういえばそんな名前だったな。

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