長い付き合い   1

 生命線がめちゃくちゃ長い。

 鏡の前で顔を濡らしたまま、ぼーっと手のひらを眺める。近づけたり、離したりしてみても、長さは変わらない。

 ゆるやかなカーブを描いた皺は手のひらを超え、もはや手首へと進入してきている。

 一度、見なかったふりをして、再び顔を洗う。洗い終えてから、あえて手のひらを見ないようにして、顔を拭いたタオルで拭った。

 タオル掛けに、ちょうど真ん中が掛かるよう調整し、寝巻きの短パンを軽く叩く。

 そして意を決して、両の手のひらをえいやと目の前に広げた。

 生命線がめちゃくちゃ長い。

「…なにこれ」

 自分の記憶が正しければ、昨日までの手のひらは、こんな事にはなっていなかった筈だ。 

 至って普通の、なんの変哲もない男子高校生の手のひらだった筈だ。

 なのに、何度見返しても、その生命線は長かった。

 指で、手首に延びた生命線の端を触る。目で見ると数のようにすら見えるそれは、薄らと窪んでいる。

 元からあった横方向の皺と重なり、十字になった皺は、なんだか奇妙に見えた。

 手首を持ち上げ、洗面所の窓から入る光にかざす。そして、手を傾けたり、反らせたりしていると。

「あんた、学校いいの?」

「おうっ?!」

 突然話しかけられて、大きな声が漏れる。振り返れば、母さんが歯ブラシを咥えながら、呆れのこもった視線を向けていた。

 別に悪いことをしていたわけでもないのに、なんだか気恥ずかしく、手を隠すように後ろに組む。

 しかし、その恥ずかしさを書き換えるように、すぐに母さんの言葉が頭の中で繰り返された。

 …今何時だ?

 洗濯機の上に置いておいたスマホを引っ掴み、電源をつける。

「やっば!!」

「なにをしてんの」

 小馬鹿にしたような言葉は耳に入らない。慌てて寝巻きを脱ぎながら自分の部屋へ戻り、登校の用意を始めた。

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