数分で読める何かの話し
低田出なお
夜の上の方から
想定よりも、随分と落下時間が長い。
目の前を高速で流れる壁を眺め続けていたが、早くも飽きてきた。体感で言えば、もう10分以上経った気がする。
視線を下へ向ける。煤けた内壁が、真っ暗な底へ吸い込まれていた。
確かに外から見た建物の造形は、高く聳え立つ堅牢な城だった。だが、だとしてももう少し短いかと見ていた。
どうやら目算は外れたらしい。ほぼ一年ぶりの仕事とはいえ、観察眼も衰えているようだ。私は諦めて目を瞑り、重力に身を任せることにした。
どれくらい時間が経っただろう。瞼の向こうに薄い光を感じた。
目を開けようとすると、周囲の埃やらが邪魔をする。私は袖でぐしぐしと顔を拭った。
目を開くと、眼前の壁は下からの光を浴びている。そのまま下を見ると、下の床が視認できていた。
まずい、もう着く。
私は慌てて肩にかけた荷物を背負い直した。
十数秒後、足元の灰を巻き上げながら、なんとか着地する。小さくない音と共に舞い上がった灰と埃が鼻孔をくすぐり、くしゃみが出そうになるのを必死に堪えた。
幾ばくかの間の後、一息ついてから足元の唯一の出口に目を向ける。当然ながら、人が出入りするために作られていない。ここを出るには腰をかがめる必要があった。
一度側に荷物を置き、膝をつく。頭をぶつけないように手をやって、こっそりと這い出た。
「えっ」
目が合った。小さな声が薄暗い部屋に短く響いた。こちらを見止めた黒いパジャマの少年は、蝋燭が灯る燭台を手にしたまま、怯えを目に宿して後退りした。
「ふむ」
本来であれば、こうした状態はあってはならない。しかし、この世に絶対などありはしない。必ずイレギュラー発生するものだ。
無論、こうなった場合の対処は予め決められている。私は落ち着いたまま立ち上がり、頭の赤い帽子を整えた。
「メリークリスマス。今年は良い子にしてたかな?」
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