第21話

お互いの気持ちを確かめ合ってからのアルヴィンは、傍から見ても浮かれまくりで『凍れる月の君』はどこへ行った?状態だ。

想いを通じ合わせたその日から二人の寝室は一つとなり、侍医から許可が下りたその日、あの悲惨だった初夜をやり直し、今ではこれまでの余所余所しさなど見る影もない。

当然、あの子作り初夜も初夜だが、気持ちを通わせてからの初夜はそれはそれは濃厚で甘いものだった事は言うまでもない。


なんらかの功績をあげた貴族をもてなす食事会だろうが、なんらかの式典の為の舞踏会だろうが、他国の王族の親善訪問だろうが、兎に角アルヴィンはフィオナを離さない。

そして、ちょっと気を抜けば、誰の前だろうと何処であろうとイチャイチャしはじめ、側近に注意される事がお約束の様になっていた。


アルヴィンもモテるが、フィオナの人気は結婚式のお披露目で爆発的なものとなっていた。

彼女が結婚適齢期を超えている事は、良くも悪くも有名だった。だが、まさか王妃になるとは誰も思わない。

しかも婚期を遅らせていた原因ともいえる、愛想のなさなど見る影もなくニコニコしているのだから、陰口を叩いていた貴族の男どもは臍を噛む思いでフィオナを見ていた事は言うまでもない。

それに加え、当時は不仲説が流れていた為、お披露目式でフィオナの美貌に落ちた他国の王侯貴族達が、自国へ招待しようと手紙が山の様に届くのだ。

それは今も変わらずで、アルヴィンは鬼のような形相でお断りの手紙を返している。


だからこそ不仲説を払拭する意味もあるが、ただ単にフィオナの傍を離れたくないだけのアルヴィン。

まさか自分がここまで相手を束縛し嫉妬するなど、これまでの自分からは考えられない事だ。

自分の息子にすら嫉妬してしまうのだから、重症だなと苦笑してしまう。

あからさまに嫉妬してしまえばフィオナに嫌われると、グッと堪えてはいるが、彼女の美しい胸に吸い付いている息子が羨ましくて仕方がない。


げっぷを出した息子は、ジッと授乳の様子を見つめていたアルヴィンへとフィオナから渡された。

もう数えきれないほど抱き上げている、可愛い息子。

危なげなくその腕の中に納まり、そして息子は安堵したようにアルヴィンの服を掴んだ。


愛らしい王子殿下はレイナードと名付けられた。


「レイはもうじき、離乳食が始まるんだったよな?」

慣れた手つきで子供をあやしながら、ソファーでゆったりとお茶を飲むフィオナをうっとりと眺めながら声を掛けた。

「えぇ。そろそろ始めてもいいのではと言われているわ」

アルヴィンの熱視線はいつもの事なので、にっこりと微笑み返しながら「早いものね」とご機嫌の息子を見た。


実は子供が六か月を過ぎた頃に、国民へのお披露目式を予定していた。

レイナードは本当に誰に似たのか、愛想が良い。

だが、誰にでも懐くというわけではない。

いかにも邪な気持ちを持っている人間には、そっぽを向いてしまう不思議な子供だった。

周りの人達は子供ながらの自衛本能なのかと訝しむものの、彼の天使のような微笑みに陥落しあっさりと受け入れてしまうのだから、これから先どれだけの人達を魅了していくのかと考えるだけで将来が恐ろしい。


アルヴィンはフィオナの横に座り、彼女の腰に手を回す。

そして器用に彼女を膝の上に抱き上げた。子供と妻。両手に花である。

満足そうに笑う夫に、堪え切れずフィオナは声を上げて笑った。


口を開け歯を見せて笑う姿は、令嬢どころか王妃らしからぬ姿。

だが、彼女をうっとりと見つめる夫は、今日も妻に恋をする。


「フィオナ、俺を好きになってくれてありがとう」

温かな絵のようなこの幸せが、まるで夢の様で時々怖くなるけれど、膝にかかる重みが現実なのだと喜びを伝えてくれる。

「私の方こそ、ずっと好きでいてくれてありがとうございます。こうして子供の傍で過ごす事が出来て幸せですわ」

「息子だけか?」

少し拗ねたように唇を尖らす、可愛い夫。

フィオナ自身、こんなにもアルヴィンを愛してしまうとは思いもしなかった。


最悪な出会いと結婚。

今となっては笑って話せるのだから、本当に夢を見ているようだ。


なかなか返事を返してくれないフィオナに、不安そうに顔を覗き込んでくるアルヴィンに、そっと口づけた。


「私も、心から愛してますよ」








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口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く ひとみん @kuzukohime

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