第9話
日に日に大きくなるお腹。そして活発に動き始める赤ちゃん。
一度お腹に触れ子供が反応を返してくれたのがよほど嬉しかったのか、今では時間ができればお腹を触りに来るアルヴィン。
あの時流した涙の理由。
フィオナは生まれる子に対し、母親を取り上げる事への罪悪感からだと思っているが、彼に直接問うたわけではないので、実際の所はわからない。
だが今では、本当に嬉しそうにお腹を触り、語りかけている。
そして、自然とフィオナとの会話も増えていった。
女性に触れる事、触れられる事を拒んでいた理由も、幼少時に襲われかけたり、年齢を重ねるごとに女性の狡猾な誘いや罠に悩まされていた為で、誰も信用できない精神状態だったことををフィオナは初めて知った。
女性を信用できないのだから結婚する気もなく、王位を継ぐ条件が結婚ならば弟に譲り、自分は大公として補佐をするつもりだったと聞いて、そこまでだったのかと驚いた。
「だからあの時は、本当にどうやって結婚を回避するか、結婚してもどうやって離縁するかしか頭になかったんだ。そんな考えなしの行動が、あなたを傷つけてしまった。本当に申し訳なかった」
これまで何度も、しつこい位謝罪されたが、彼の背景を知ってからの謝罪は、不思議と不快ではなく素直に受け入れることができた。
やはり会話をする事は大事なのかもしれないな・・・・と思うフィオナ。
あれほどあった嫌悪感も、今ではエスコートされながら散歩するくらいは薄れている。
今日もお腹を触り、赤ちゃんに語りかける夫を見下ろし、なんだか切ない気持ちになる。
本来なら幸せ絶頂期なのだろうが、フィオナは出産が近くなればなるほど空しさを感じる様になってきた。
嬉しそうにお腹に語りかける夫。
子供が生まれたその先の未来には、自分はいないんだなぁ・・・と、実感し始めたから。
女性に関しては、未だに警戒しているようだが、フィオナには無条件で触れることができると、はにかんだ様に笑う夫にギュッと胸が締め付けられる。
あぁ・・・なんだかなぁ、この可愛い生き物は・・・
この人、本当に綺麗な顔をしてたのね。
いつも見ているのに、今初めて見たかのように感心してしまう美しい容姿。
黙っていれば二つ名通り『凍れる月の君』なのだろうが、今は相好崩しまくりの恐らく誰も見た事がないような甘い顔をしているのではと思う。
先日訪れた王弟でさえギョッとし、彼を信じられないものでも見る様に凝視していたから。
でも、まぁ、彼が求めているのは世継ぎであって私じゃないし・・・
子供が生まれるまで疑似家族を堪能すればいいのかしらね。
別れた時の衝撃が怖いけど・・・・
既にアルヴィンに対し、心を開いている事すら気付かないフィオナは、離縁後は自分以外誰も悲しむことが無いのだと疑いすらしないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます