第6話
結論から言うと、フィオナは妊娠した。
大喜びのフィオナとは反対に、死刑宣告されたかのように顔色が悪くなるアルヴィン。
この国では男女関係なく長子が家を継ぐ。
だから男児が生まれるまでとか、そんな事をしなくてもいい。―――つまりは、アルヴィンは詰んだのだ。
「身から出た錆って言葉知ってます?極東の島国の諺みたいですよ。あ、あと後悔先に立たず、とか」
アルヴィンの弟ルヴィアンが容赦なく傷をえぐってくる。無慈悲に、遠慮なく、嬉々として。
落ち込む兄を見ながら、フンと鼻を鳴らした。
彼は怒っていたのだ。フィオナ同様、あの時の言葉を。
いくらまだ王太子だったとはいえ、人として言っていい事と悪い事がある。
あの時の言葉を聞かれていたのだ。フィオナが怒って当然だし、今のような態度を崩さない事も当然だと思う。
ましてや冤罪で離縁しようとしていたのだ。自分を守るのは自分自身。
彼は、義姉を応援していた。
ただ、王妃としてとても優秀で、離縁してしまうのがもったいない位だと思う。
子が産まれたらきっと心境の変化が訪れるのではと、期待もしている。
腹を痛めて産んだ子だ。妻も言っていたが、何にも代えがたいほど、可愛くて愛しいと、母性も生まれてくるのだと。
子を産まない男である自分でさえ、愛しくて仕方がないのだ。
彼女は子が産まれすぐに離縁するつもりでいるようだが、きっとそれは叶わないだろう。
取り敢えず侍医に、引き留める言い訳を色々考えてもらわないとな。情に訴えないと!
それと出産前まで、兄上も義姉上に許してもらえるよう頑張ってもらわないとね。
ルヴィアンは、暗幕を背負いうなだれる兄にの肩を叩き、「挽回しないとね」と一言残し部屋を出たのだった。
運よく妊娠したフィオナは、あまり目立たないお腹を嬉しそうに撫でていた。
幸いな事につわりも軽く、今では食べ過ぎで食事制限されるほど。
公務も無理なくこなし、太りすぎないよう軽い運動もして、見ている周りがハラハラするほどアクティブに動き回っていた。
未来の国王に何かあってはと、嫌な汗を流しまくる側近を横目に、フィオナは毎日楽しそうだ。
それもそのはず。この子が産まれれば、自分は自由になれるのだから。
お腹を痛めて産んだ子をすぐに手放すのは、もしかしたら辛いかもしれない。だが、今のフィオナには実感がない。
妊娠は離縁の手段。
子供を巻き込んで申し訳ないと思うが、この城の人達はみんないい人ばかり。
母親がいなくても、きっと逞しくも優しい子に育ってくれるはずだ。
母が恋しいときは父親がいる。彼が慰めてあげればいい。
そう、単純にそう思っていた。―――お腹の子が動き始める前までは・・・・
ある日、お腹の調子が悪くガスが動いたのかな?と思った。
だが、それは不定期に時々おきた。
医師に聞いてみれば「それは胎動ですよ」と言われた。つまり、お腹の中で子供が動いているのだ。
とても不思議っだった。こんな小さな世界に人が育っている事を、初めて実感した瞬間だった。
思ってた以上にフィオナの喜びは大きく、この感動を誰かに伝えたかった。
侍女のマリアに。護ってくれる騎士達に。王弟夫妻に。いつも傍にいてくれる人達に。
でも、何故か満たされない。何故なのか考えてもわからない。
実家にも知らせた。友人にも知らせた。
それでも、満たされないのだ。
何が足りないのかしら?
夫?・・・・まさかね。私の姿も見たくないでしょうに、妊娠してからは無理して顔を出してくれるけど。
確かに未来の国王だから、生まれるまでは心配なんでしょうね。
だって、この子が無事に生まれてこないと、離縁できないんだもの。
そこまで思って胸に小さな痛みが走った。が、それが何なのか気付かずフィオナは頭の中をリセットする為に、散歩しようとマリアに声を掛けたのだった。
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