第11話:アイン・マグナ
俺の父は勇敢な戦士だった。
今でもよく幼い時の会話を思い出す。
「なぁ、アイン。マグナ家の戦士は命を懸けて人類のために戦う、此の家訓は知ってるだろ?」
「うん!パパ!知ってるよ!ぼくもパパみたいな戦士になりたい!」
「ははっ、そうか。パパもまだまだ頑張らないとなぁ。・・・でもな、戦士には家訓より大切なことがあるんだ。」
「え?おしえて!パパっ!」
「それはな・・・」
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あと、別れの時と。
第二次使徒災害。
人類史上最悪の災害であったとされる災害。
人類の2割が犠牲となったとされる災害。
降臨した使徒と教会が全面戦争した初めての災害。
世界が黒の靄で覆われた災害。
憧れの父と母は10年前の第二次使徒災害で命を落とした。
父は協会の招集を無視し、災害に遭った自宅のある街へ自身の高速船を飛ばした。
そして、沈む街に沸く星壊の獣を一人で相手し自宅に向かう。
しかし、自宅に父が辿り着いた時、既に母は無残な姿になっており、その犯人の異形が俺のことをその凶悪な爪で喰らおうとしていた。
辿りつまでに数えきれないほどの戦闘を行ってきた父はアークから伝う最後の力を振り絞り、俺の盾となった。防御に使う力も乾き、凶悪な爪が戦士を貫く。
「間に・・・合った。」
「父さん!なんで・・・」
「・・・アイン。いつか話したことを覚えているか?これが俺の答えだ。」
俺に力なく覆いかぶさる父の身体。光の翼は砕け、その身体は傷だらけで、特に致命傷となった腹に空いた穴からは、絶えず赤い物が流れ、俺に地面に滴り続けていた。流れる血の温かさと引き換えに父の身体が冷たくなっていく。俺はその身体をただ抱きしめ泣くことしかできなかった。
その後俺は父を追ってきた協会の戦士に保護、そのまま孤児院に送られてミヤビとカイに会った。
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「エマージェンシーコールだと!?」
下位12番隊隊長のエギが無線に対し驚きの声を上げる。
エマージェンシーコール。
災害に現れる星壊の獣にはランクがあり、三、二、一と数字で階級分けされており、数字が小さくなるほど危険であるとされている。
ただ何事にも例外は存在する。一級の枠に収まらない
この「0級」が災害で出現した際に発せられるのがエマージェンシーコールである。戦地に居るすべての上級戦士が招集され対応に当たる。また協会の本部にも応援要請が入る。
「アズール!隊の指揮を任せる。もうすぐ対策本部に要請した偵察ドローンも来る、その情報も使いながら被災者を連れ、避難場所の教会へ迎え!」
「了解!!」
アズールの返事を聞き届け、エギは足元に小さなクレーターだけを残し飛んでいった。
「今から避難を再開します!アインはアークを使用し偵察ドローンを活用し遊撃へ、ミヤビは先頭で偵察、カイは被災者のサポートをしてください。ボクは殿で皆さんの援護をします。」
「「「はい!」」」
指揮権を得たアズールがすぐに役割を伝える。
直ぐに返事は来たが、非常事態を理解している彼らの表情はやや硬い。
初出動でエマージェンシーコール、緊張しないはずがなかった。少しの間が空き、彼らは与えられた役目のため持ち場へ散る。
遊撃のために俺の手首の端末と偵察ドローンを同期させるために隊を離れる。遊撃の主な役目は付近に居る星壊の獣の討伐をしながら、災禍に残された人が居ないかの確認だ。そのためにも早く偵察ドローンと同期をさせたい。
アークを起動し権能を使う。
俺の権能は【加速】である。
移動から、思考まで自身に関わること全てを加速させる権能だ。どこまで速くするかは俺の自由ではあるが、速くすればするほど身体にかかる負担は大きくなる。
権能のおかげもあり、対策本部から来た三機の偵察ドローンを見つけることができた。おそらく本部で設定された通りに行くと、
手首の端末を操作し光の信号を一機に当てる。すると俺の頭上で留まり旋回する。
同期成功だ。
初めてだったけど、学園で教わった通りにいって良かった。これで偵察ドローンが何か見つけたら手首の端末に情報が共有されるようになる。
鉄のカラスが仲間になった、しかしエマージェンシーコールから身に圧し掛かる不安感は拭えない。
パンっ!
「しっかりしろ俺。マグナ家の人間だろ。あの父の一人息子だろ?」
両手で自身の頬を叩き、己に言い聞かせる。
手首の端末にドローンから知らせが入る。星壊の獣、敵が現れた。
「行かなきゃ。」
再び加速する。
ドローンが見つけた異形は2体。直ぐ近い場所だったため直ぐに見つけた。1体だけであるが。
「これくらいなら!」
光の翼の軌跡だけを残し、その速さを力に変えて異形に突っ込む。
俺の装備は速さを活かすため短剣である。この短剣を腰から抜き、両手で構える。
手が少し震える。
それを押さえつけるかのように、短剣を握る手を強める。
そして、貫く。
大きさ、固さからして三級程度の星壊の獣だったのだろう。そのまま塵となって消える。
「これくらいなら、余裕みたいだな。」
――――――――――
人間、いやすべての知性ある生物が戦いの最中、一番隙があるのはどこだろうか?
背中だろうか?
いや、違うだろう。
戦闘中、最も隙のある瞬間。
それは。
勝ちを得た瞬間である。
――――――――――
異形を塵にし一息ついたアインが、自身に飛び掛かる先ほど塵にしたのと同じ異形に気付いた時にはもう遅かった。
「まずい!?」
現実から背くように目を閉じる。
しかし、一瞬脳裏に過ったものが訪れることはなかった。
恐る恐る目を開ける。
そこには、光を吸収してしまうかのような漆黒の槍が異形を貫いていた。
異形は塵となり、消える。役目を終えた漆黒の槍が球体になる。
「ふぅ、間に合った。」
聞き覚えのある声がする。
俺は、声の出先を探し視る。
見つけた。
倒壊した家の瓦礫に光の翼を生やし、周囲に漆黒の球体を浮かべた
「ここからは僕も一緒に戦うよ。」
――――――――――
初出動でエマージェンシーコールが発動された時、新人戦士の生存率は60%。
前回のエマージェンシーコールでは一人残らず堕ち、全滅した。
0級が現れた戦場に、安息の地など存在しないのである。
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