揺れる船にて#2
ふぅ――――――
息を吐く音が、静寂を取り戻しつつあった部屋に浮かぶ。
息を吐いた当人の眼は閉じたままだった。
そして。
濃藍の眼を開けたミルネが、セラに言の葉をかける。
「これからは、星壊による災害に対して、あんた自身がアークを使って立ち向かうことになるわ。・・・覚悟はできてる?」
覚悟を問われたセラは濃藍の眼に告げる。
「・・・もちろん、母さんを探すためにも強くなって僕は戦うよ。」
セラの覚悟の眼がミルネに刺さる。彼女は、その答えを待っていたかのように受けとめ、言葉を紡ぐ。
「まあ、・・・そう答えると思っていたわ。あたしが学園に戻ったらルビア姉の捜索にも力を入れるから、あんたは心置きなく
ミルネは何かを考えるかのように空を仰いだ。
少し間ができる。
白い部屋がより白く感じるような空白ができる。
ミルネは覚悟を決めたかのように、再びセラに向き合う。
「・・・じゃあ、あんたの保護者として言わせてもらうわ。」
「な、なんだよ急に・・・。」「まぁ、黙って聞きなさいよ。」
ミルネは、セラの驚きの言葉を、食い気味に静止させ話を続ける。
「あたしは・・・あんたが命を懸けて戦うことに、本当は反対なのよ?星壊災害は簡単に人間の命を刈り取るわ。・・・もし、何かあったらルビア姉に合わせる顔がないもの。でも、あんたの覚悟をあたしは尊重する。その代わり、約束して頂戴?・・・この先、何が合っても自分のことだけは信じ抜くのよ。」
セラは突如語られたミルネの心情に思わず唾をのみ、続く彼女の言葉を聞いた。
「あんたはこれから、学園、戦場で様々な出会いと別れを経験することになると思うわ。・・・そして、選択を迫られることになる場面もあると思うの。そんな時、あんたが、あたしを助けようとしたように、自分の眼でみて、感じて、信じたものを貫き、守りなさい。あたしは、そんなあなたを応援してるわ。」
ミルネは、叔母という立場、護り切るという責任、多くの秘匿せねばならぬことが重なり、今まで本音の思いというものは語れなかった。
だって、本音は時に相手を傷つけ関係を悪化しうるものだから―――
だから、今、セラが自立していく、この時に告げたのであった。
危うい彼の今後、何かの支えとなるために。
セラは返す言葉が出なかった。
何故なら、このようにして他人から自身に対しての思いを面と向かい受けたことがなたから。
記憶の空白を追いかけることしかできていなかった彼の心に、人の思いが温かく淡い色彩となって広がっていく。
母への思いしかなかった心のパレットは、ミルネの思いという新しい色を得ることができた。
そして、人生の旅にて得る色で彼が歩く道のりを彩り、そして自分の原点になるものを創り出していくことをミルネは願っていた。
彼の心に追い打ちをかけるかのように、ミルネはさらに声をかける。
「人間は価値観も変化していくものよ。・・・あんたはあんたらしく頑張りなさい。・・・あーと、学園では色んな人と共同生活することになるから、寝起きが悪いのは何とかしなさいね?」
ミルネは最後、セラの顔を覗き込むかのように首を傾け、いたずらな笑顔を見せる。
「・・・分かった。俺、頑張ってみるよ。」
彼は追加で投げられた声でようやく反応できるようになり、言葉を返すことが出来た。
そんなセラに対し、ミルネは「最後に」と言い、ある物を手に握らせた。
「今から学園に行くあんたに渡しておくわね。入学祝の贈り物よ。」
贈り物と呼ばれた羽のピアスがあった。彼はその羽を握りしめ「ありがとう」と呟き、始めて装着する痛みに堪え、ピアスを両の耳に付けた。
セラがピアスを付け少しすると部屋にコン、コン、コンと三回ノックが響く。
ミルネが「どーぞ。」というと、セラと歳が変わらないように見える一人の少女が、黒をベースとし白いラインが所々に入った服を身に纏い、その歩みに白金の髪を揺らして入ってきた。
「学園長、星壊エネルギー耐性を調べるための物を持ってきました。」
少女はそう言い、ミルネに手に乗る大きさの黒い立方体を手渡した。
「ありがと、ニア。丁度いいから紹介させて頂戴。彼女はニア、学園であんたと同じ小隊で活動する先輩よ。」
「セラさん、始めまして。紹介に預かりましたニアです。気軽にニアと呼んでください。」
ニアはセラに向け、手を差し出す。
セラは、少し戸惑いながらも、その手を取った。
「よ、よろしく、ニア?」
「はい。」
ニアは少し微笑み、握られた手に少しだけ力を込めた。
その様子を見たミルネが、話の修正を行おうと黒い立方体をセラに渡す。
「ミルネ、これは何?」
「あんたの星壊エネルギーに対しての耐性を調べる物よ。星壊エネルギー耐性が高ければ高いほど戦士としての潜在能力があるってことになるわ。物は試しよ、その立方体に思い切り力を込めてみて。」
「わ、分かった。・・・うッ!」
セラはミルネに言われた通り、手に握った黒い立方体を身体の前にくるよう突き出し力を込めた。
初めてアークを発現させミルネを助けた、あの時のように。
すると黒い立方体がその形を変え、展開するかのように動き、ホログラムの球体を創り出した。
そして。
その球体はだんだんと強い光を放ち始めて。
ボンッ!
黒い立方体ごと爆ぜた。
「・・・え?」
その光景にセラは首をかしげることできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます