第2話:災害の訪れ
セラが自室に戻った後の食卓にて、自身もシャワーを浴び、軽装な寝間着に着替えていたミルネは、ポケットから出した懐中時計を開けて中に折りたたまれていた一つの写真を眺めていた。
(あれから5年よ、シルバ、ルビア姉・・・すべての真実を知った時、セラは私を恨むわよね?)
彼女は好物であるインスタントの珈琲を入れを少し口に含む。
酸味が鼻孔をくすぐり、苦みが舌を刺激する。まるで思考を映した味わいにミルネは思わず目を細めた。
「ちょっと、濃かったわね・・・」
少し苦しくなる胸が自分の思考に対するものか、配分を間違えた珈琲のせいか分からない。
ミルネは彼の誕生日である今夜だけ、これまで同じ屋根の下で過ごした5年の月日に対して珈琲と共に感傷に浸ろうとしていた。
しかし、その感傷に浸っていられる時間は彼女に多く与えられることはなかった。
「・・・っ!?」
彼女の行動は速かった。
ミルネは、エネルギーを計測していた鉄のカラスが騒ぎ出すのを見逃すことなく外に飛び出し、離れにある日中に栄えをみせていた街の方を見る。
その目に映ったのは、騒がしく警報を鳴らしながら街の方で飛び回るドローン。
黒い靄が湧き始める地面。
街の方から逃げ出す烏やネズミなどの動物たち。
街の中心であり、多くの街頭に照らされたシンボル的存在の教会に集まる人々の姿があった。
この光景を彼女は良く知っていた。
・・・そして、一番恐れていた。
「まさか・・・いや、間違いないわ!災害がくる!」
セラを守るために慌てて家に戻ろうとしたミルネの足元には、街のものと同じ黒い靄が湧き上がり、短夜の熱を奪い始めていた。
(うそ・・・もうここまで!?ま、まずい、本当に不味いわ!)
想定外の速さで広がる厄災の知らせがミルネの足に纏わりつき、更に焦りを加速させる。
彼女が外に出た際に開けたドアから黒い靄が家の中に入り込んでいっていた。
「え!?な、なんだこれ!どーなってる!?」
セラの戸惑い、叫びを上げる声が響く。
流石の彼も異常事態に気付き、部屋を飛び出した所で黒い靄に脚を取られたのだろうと察することが出来た。
ミルネは彼の声を聴き、思わず歯を食いしばる。
そして何か決意をしたかのように数刻の間を置き、息を軽く吐き出す。
(躊躇っている場合ではないわね。後で謝るしかないわ。許してもらえるか知らないけれど・・・)
ミルネは、現状を未だ理解できずに戸惑っているセラと目が合い、彼に対し優しく微笑み手招きをする。
手招きをする彼女の後ろでは幾つもの黒い靄が人型、四足歩行型など様々な異形となり、こちらに歩みを始めている。
セラは、未だに混乱した状態で招かれるがままミルネの方に歩み寄っていった。
今まで見せたことのない少女の表情にセラは思わず緊張する。
「セラ・・・ごめんなさい。先に謝らせて頂戴。・・・あたし噓をついてた。許してとは言わないわ。でも、・・・でもね、あなたを守る我儘は言わせて欲しいの・・・」
「・・・え?」
発せられた言葉の意味を飲み込めていないセラを置き去りにし、ミルネは迫る異形の前に立つ。
ミルネのうなじから光る亀甲模様が浮かび出し、ひび割れ砕け落ちた。
中からは4枚の羽と亀の甲のような模様が刻まれた黒い刻印が現れ、光を放ちミルネの身体を覆っていく。
背中から幾つもの光の菱形で形成された透き通った4枚の羽が姿を見せ、光でできた装甲を身に纏った彼女の右手には光が集まり、大きな光の盾が握られていた。
そして一言・・・彼女は、彼を守るための言葉を放つ。
「《
セラの身体を覆い、守るように光の亀甲模様の球体が現れる。
彼の近くにあった黒い靄から体長約5mの異形が彼のことを強襲したが、彼を覆う光の球体の触れた瞬間に最後の声すらも発することなく爆ぜて失せた。
「ミルネ!一体これはなんだよ!」
「・・・・・」
光の球体に包まれ、急転した状況に思わず声を上げる少年をミルネは無視して地を蹴りだす。
彼女たちの周囲には、既に数十の異形が家の街頭に照らされ、集まっていた。
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