第15話 掌編集 3

 色んな夢を見た。


 1 対カニモグラ


「迷った」

 学校の帰り道、風邪で休んだクラスメイトにプリントを送り届ける役目を担任教師から恐れ多くも承り三度拝した私だが、いつの間にやら知らない道に迷い込んでいた。

 先生は私の家の近くだから、と言っていたが私はそのクラスメイトの家を知らない。普段の生活で関わることもない。そもそも家が近いなんていう感覚だって、大人と小学生では大きな差がある。

 こんなプリント捨てようか、などと考えていると別のクラスメイトのA子に出会った。こちらは少し話をする仲だ。聞いてみると家の場所を知っているとの事で、私は彼女とともに道を歩く。

 突然、目の前から河童が走ってきた。緑の肌、バサバサの髪の上の器のようなへこみ、すれ違う瞬間に見た背の甲羅。うむ、河童である。

「なにを急いでいるのやら」

「アレじゃない?」

 A子の言うアレとは巨大なカニであった。カニのくせに横歩きせず腹を見せ、両手のはさみを振り乱し、こちらに迫り来る大きなカニだった。

「食ったらうまいか?」

「大きすぎて道を塞いでる。逃げなきゃ!」

 ぼんやりとしていた私の手を握り、A子は走り出す。カニは両目をぎょろぎょろとさせ、泡を吐きながらはさみを振り乱し追いかけてくる。これが人間であったら完全にキ××イだがカニなのでしょうがない。ともかく私たちは必死で走る。

 逃げるうちに私の家の前まで来た。まだ追ってくるかと後ろを振り返るとカニはぐよぐよとその姿を捻じ曲げ、大きなモグラになった。つぶらな瞳が愛らしい。

 なんてこと言ってられない。モグラになっても私たちを追いかけてくるそいつに嫌気がさしてきた。家にはいる隙だけでも作れないか。ふと地面を見るとこれまた大きなサツマイモが落ちていた。私はそれを拾い上げるとモグラに向かって投げつけた。

 モグラはぎいぎい悲鳴のような音をあげ、その場に踏みとどまる。私とA子はその隙に家の中へと逃げ込んだ。


  ***


2007/8/16

・小学校の近くでクラスメイトの家が分からなくなり別のクラスメイトに案内してもらった。

・途中、変な河童が走ってきてすれ違った後、大きなカニに追いかけられて二人で必死になって逃げた。

・私の家の近くでカニがモグラに変身した。落ちていた大きなサツマイモを投げて家の中に逃げ込んだ。


  ***



 2 母の行く道


 保育園で友達と遊んでいたとき、ふいに先生に呼びだされた。園長室に連れていかれ、なんだか嫌な、冷たい空気を感じる。

 園長室の中では父と祖父母が茶色なソファの上にすわり、うつむいていた。私が来ても何を言うでもなく、ただじっと座ったまま下を見ている。

 どれほど時間が経っただろう、誰かがふと、父と母が離婚するのだと言った。りこん。リコン? よく分からない。リコンとは何かと聞くと、父と母は離れて暮らし、もう母とは会わないのだという。

 そんなの嘘だ、でたらめだ。私は園長室から出て、保育園の玄関に向かって走る。園長室から玄関までの道のりが永遠のように遠く感じた。

 やっとの思いで玄関にたどり着く。そこにあったのは母の後ろ姿だった。母はこちらを振り向かず、保育園の外へと向かって歩く。私がどれだけ声を掛けても、その歩みは止まらない。

 おかあさん。おかあさん。

 母はこちらを振り向かない。母の行く先は白い光に包まれていた。

 私はただ泣いていた。


  ***


日付不明/保育園児の頃

・先生に呼ばれて園長室に連れてかれる。

・中で父と祖父母がうつむいて座っていた。

・父が母と離婚したと行ったのを聞いて玄関に走っていくと母がこっちを見ずに去って行った。母の行き先は白く光っていた。


  ***



 3 遠くのあの子


 金髪のあの子、かわいい子、私の友人。あの子は言っていた。「いつか東京に行くんだ」って。東京のおしゃれな喫茶店で働くんだって。あの子は輝いていた。あの子は夢を叶えるため旅立った。

 金髪のあの子、かわいい子、私の友人。私は応援した。「いつかきっとお金を貯めて、会いに行くから」って。笑って見送った。心で泣いていた。

 あれから何年経っただろう。私はあの子に会うために東京に行く。町の外に出るのも初めてだった。新幹線に乗るのに心臓がばくばく言って、なんども駅員さんのお世話になった。

 あの子に貰った最後の手紙のその住所。そこの喫茶店で、住み込みで働いているという。あの子の夢は叶ったのだろうか。それだけが心配だった。

 住所の場所には、小さな喫茶店があった。店先の黒板に『本日定休』の文字が書いてある。近くにタオルを頭に巻いた年配の男性が煙草を吸っていたので、ここで働いている女の子を知らないか聞いてみた。男性は見た目に合わぬ親切さで、店の奥に案内してくれた。コーヒーの匂いが沁みついていて、オレンジに光るランプが綺麗だった。あの子の金髪がよく映えるだろう。

 あの子の部屋の中に通される。彼女は布団の中で休んでいた。上下する布団を見ながら待つ。おもむろに、彼女は起き上がり、こちらを見て驚いたように目を見開いた。少しもつれた金髪が輝いていた。

「会いに来たよ」

 そう言うと彼女は泣きながら私に抱き着いてきた。私も、泣きながら彼女をしっかり腕の中に抱いた。


  ***


2007/08/20

・金髪のかわいい女の子が友人で、東京の喫茶店で働きたいというので私は応援しながら見送った。

・数年後、その子に会うために東京に行く。喫茶店にいたタオルを頭に巻いた煙草を吸っているおっさんが店の奥に案内してくれた。

・その子は布団で休んでいたから少し待った。その子が起きたところで、泣きながら抱き合った。


  ***



 4 黒い山、白い山


 太陽が二つ昇る昼下がり、男と女の影が本体から切り離されて空で踊っている。なんてことない、いつもの日々。

 私は遠く遠くの山の間を見ている。白い山と黒い山。その間に大きな穴が開いている。ここから見ても大きいのだから、あの山の麓まで行ったらどれだけ大きいのだろう。私は双眼鏡を持って穴の中を覗く。

 穴の中は夜だった。暗い空にはやっぱり太陽が昇っていて、それでも夜の黒に「お静かに」と言われた風にぼんやりと光っていた。

 夜空の下は森が広がっていた。森の中には立派な洋館が立っている。きっと吸血鬼が住んでいるのだ。太陽さえ黙らせる夜の中、吸血鬼は空を飛ぶのだ。


  ***


2007/10/30

・詳細不明

※スケッチのみ(略)


  ***



 5 天国への階段


 ひとつ、またひとつ、私は階段を上っていく。周りは金色に光輝く雲に囲まれていて、真っ白な階段を黄金でできているかのように照らす。

 ひとつ、またひとつ、私は階段を上っていく。一歩を踏み出すたびに楽隊の音楽が近くなる。祝福の賛歌だ。私を迎えてくれるのだ。

 ひとつ、またひとつ、私は階段を上っていく。大きな扉が近づいて来る。私の何倍も何倍も大きなそれは大理石に金の糸でつづられたような文様が浮かんでいる。

 扉はひとりでに開いた。音もなく、滑らかに開くそれは私を迎え入れる。音楽が大音量で鳴り響く。天使たちが手に手に楽器を取り、吹き鳴らし、叩き、弾く。

 私は天国へ来たのだ。


  ***


2007/某日

・金色に光輝く雲に囲まれた階段を上っていく。一番上には大きな扉があり、開くと天使が大勢いた。

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