絶奏Ⅱ:「金髪黒ギャル(中身は巨漢)分隊支援火器射手&施設科隊員は男の娘」
上空で旋回行動を始めたKV-107。
その開かれた後部ランプドア上に、二人分の立ち構える人影が見える。
朴訥そうな巨漢の隊員、町湖場。そして中性的な美少年の宇桐の二名だ。
「うっわー」
「ウジャウジャいるな」
ランプドア上より眼下地上を見降ろしながら、緊張感の無い声を零す宇桐と、端的な言葉を紡ぐ町湖場。
二人の目が捉えるは、地上を埋め尽くさんまでのオブスタクルの大群。大、中、小、様々なサイズ形態のオブスタクルが、蠢き行進する光景だ。
「――うぉッ!」
その瞬間。KV-107の近くで、中規模の爆発炸裂が起こる。そしてそれを皮切に、KV-107
の周辺でいくつもの爆発が巻き起こり始める。
それらは、機械の特徴を併せ持つオブスタクルが、その身に備える火器を用いて向けて来た攻撃。KV-107を狙った対空砲火だ。
「っ――まぁ、狙って来るわな」
「ッ、機長!俺等は今すぐ降下します、機は退避を!」
宇桐は揺れた機上で踏ん張りつつ、軽口を零し。
町湖場は装着するヘッドセットに発し上げ、コックピットに向けて要請の言葉を送る。
《――了解!頼むぞ!》
ヘッドセットからは機長の声で返信が来る。
「よし、行くぞッ!」
「オッケィ!」
そして端的に一言、言葉を交わし合う町湖場と宇桐。
その次の瞬間――なんと二人はランプドアを踏み切り、機上から宙空へと飛び出した。
KV-107は比較的低高度を維持して飛んではいたが、それでも地上まではかなりの高さが在る。そして今現在の町湖場と宇桐は、パラシュート等の降下に必要な装備は、何も身に付けてはいなかった。
はっきり言って、致命的な行動。
飛び出した二人の身体は、引力に引かれて降下を始める。
――その宙空に身を置く二人の身体に。直後、変化が巻き起こった。
二人の足先に、それぞれ淡い発光現象が発現。次にはそれは光のベールを形作り、町湖場と宇桐、それぞれの身体を包み登り始めた。
それは、先に香故に見られた現象とまったく同じものだ。
まず、町湖場の側に焦点を当てる。
最初に光のベールを潜った、彼のその太く武骨な脚は、健康的な程よい 太さを持つ滑らかなラインのそれへと変わる。続けベールを潜ったのは腹部や胸元。岩石が如き様相で割れていた腹筋は、引き続き割れを残しながらも、色気を醸す物へと変貌し、大木の用であった腰回りはくびれを作る。強靭な胸筋もまた一変し、これ見よがしな膨らみを見せ、我儘なまでの豊満な乳房を体現させる。最後に頭部がベールを潜り、厳ついという言葉を体現していたまでの顔は、華奢で整ったそれへと変わる。そして同時に短く刈り揃えられていた頭髪は、一変して尻まで届く長い、そして眩しいまでの金髪へと変貌。
光のベールは、そこで消失。
そして現れたのは、全身を健康的な褐色で彩った、一人の美少女。
年齢は10代後半程か、身長は160㎝半ば。眩しい金髪の前髪の元には、目尻の釣り上がった凛々しい眼が見える。そして眩しい金髪はツーサイドアップに結われ、可愛らしさを醸し出していた。
その正体は、男性から女性へとその姿を変化させた、町湖場自身だ。
さらに服装も迷彩服3型から一変。
上衣は首元から豊満なバストまでを包み、しかしそのラインをはっきりと強調させるインナーアーマー、その胸元には陸士長の階級章。色気の漂う腹筋腰回りは露出。そしてその上から、多数のエンブレムや刺繍に彩られたジャンパーを羽織っている。下衣は丈の短いホットパンツに、ニーハイブーツ。左耳の上には、羽飾りのアクセサリーが見える。
その服の色合いは、陸上任務隊の制服を意識した緑を基調とする。
町湖場のその全体的な要素を、一まとめにしてそして崩して表現すれば――ギャル。褐色黒ギャル。
武骨な巨漢であった町湖場は、一転してそんな美少女褐色ギャルへと、姿を変えていたのだ。
続け、焦点は宇桐の側へと移る。
同様に宙空を降下する宇桐にも、また足元より同様の発光現象が発現。光のベールが彼の身体を包み上り出す。
しかし、彼にあっては形態が特異であった。
光のベールが宇桐の身体を通過しても、その個所は元の男性の身体のまま。
男子の物ながらも独特の色気のある脚。微かに腹筋のある腹部、腰回り。華奢ながらも鍛えられた胸筋。そしてその中性的な美少年の顔。
その全てがそのままに、纏う衣装だけが迷彩服3型から変貌。
上衣は、その首元から胸筋までを包むインナーアーマー。その胸元にはまた陸士長の階級章。その腹筋と腰回りは露出。その上からエンブレムや刺繍に彩られたジャンパーを羽織る。下衣は丈の短いホットパンツに、ニーハイブーツ。そして右耳の上には、羽飾りのアクセサリー。
それは、先に変貌した町湖場とお揃い。そして対になる衣装。
それが、男子のままの身体の。中性的な褐色美少年である宇桐の身を、その特性を生かしながら格好良く可愛らしく飾り。独特の、そして少し特殊とも言える魅力と色気を醸し出していた。
宙空で、そんな可憐な身体と衣装への変貌をそれぞれ見せた二人。
そんな二人は、続きさらに特異な様子を見せる。
先まで引力に引かれて急降下していた二人の身体の、その効果速度が目に見えて緩やかになりはじめたのだ。まるで水中で浮力の力を得ているかのように、二人はふわりと宙空の残る高さを降下。
「っよ」
「っと」
そして二人はそれぞれその足先を軽やかに地面に着き、地上へと降り立った。
「――さて」
そして二人の内の町湖場が声を零し、そして二人は同時に先を見据える。
華麗な変貌の後に地上へと降り立った二人だが、その先に広がるは、地面を埋め尽くさん勢いのオブスタクルの軍勢。それが総じてこちらへと迫る、絶望を描いたような光景。
しかしそんな光景を前にしているにも関わらず。町湖場は、そして宇桐は、涼しいまでの色をその顔に見せていた。
そして町湖場の方は、自身の身体の後ろへ回し下げていた、何か二つの物体を繰り出した。
黒や灰色を基調とした、武骨なそれぞれ――それは、機関銃だ。
7.62mm機関銃FN MAG、そして5.56mm機関銃MINIMI。陸上任務隊で採用配備される、二種類の機関銃。今は黒ギャル美少女となった町湖場と対比して、不釣り合いなまでの双方がが、しかし町湖場のその左右の腕に持たれ構えられていた。
「ミッション開始と」
「行きますか」
そして続き先の光景を見据えつつ。町湖場と宇桐はそれぞれ、弾むような声色で紡ぐ。
その直後。二人の頭上を、切り裂くような音を響かせ複数の飛翔体――UAVが飛び抜ける。
瞬間、それを合図とするように。町湖場と宇桐は同時に地面を蹴って飛び出し――また驚くべき姿を見せた。
二人が見せたのは、常人離れした凄まじい跳躍。一度地面を蹴っただけで十数メートルの距離を進む、文字通り飛び駆けるような動作だ。
恐るべきまでの動きで、飛ぶように駆け進み始めた二人。
そんな二人の周辺で、次の瞬間に数多の小中爆発が上がり巻き起こり始める。オブスタクルの軍勢からの攻撃だ。だが攻撃が襲い上がる中を、しかし二人はまったく怯む様子など見せず駆け続ける。その目指す先は、攻撃の元たるオブスタクルの群れの真正面。
その上空へ、先に飛び抜けたUAVの一群が旋回舞い戻り、二人を援護するように追従を始める。そしてそのUAVから、曲、音楽が届き聞こえ始める。それは、先に香故が奏で歌声紡ぎ始めたそれ。
「ッゥ――」
「スゥ――」
そして二人もまた。小さく息を整え、そしてそれぞれが歌声を紡ぎ始めた。
「――――――」
「――――――」
途中からのものであった音楽に、しかし二人は見事なまでの滑らかさで合流。
そして紡ぎ奏でられる詩。それはかつて誓い合った約束を思い出す物。交わし合った笑顔を懐かしむもの。
それらを伝える言の葉が、町湖場の可愛らしい、そして宇桐の男の子特有の、それぞれの歌声に紡がれ。歌声となって周囲に響き伝わり始める。
飛ぶように駆けながら、敵の砲火の中を縫い進みながら、歌声を紡ぎ奏でる二人。
「――――――」
「――――――」
そして歌詞は、尊い思い出の日々をもう一度取り戻す事を誓う信念を謳い。その一節と同時に曲調は急激な盛り上がりを見せる。それはサビへの突入の前触れ。
「ッ」
瞬間。二人の町湖場が、両腕の機関銃を繰り出し突き出し構え。そして先行するようにより一層大きく跳躍し飛び出す。彼、いや彼女が飛び出し突っ込む先は、先に蠢くオブスタクルの大群。
「スゥ――」
町湖場が一度呼吸を整え。
同時に曲調はサビへと突入。
そして町湖場は、その両腕に構える機関銃の、その引き金に駆ける指に力を込め。
――力強い歌声と、金属の唸り声が響き広がったのは、同時であった。
「――――――!」
町湖場の口より紡がれるは、自らを掻き消えんばかりの力で受け止める事を望むもの。それが可愛らしくもパワーのある歌声で、力強く奏でられ響く。そして同時に上がったのは、連続的な金属音と破裂音――発砲音。町湖場の構える機関銃が、銃火を吐き出し始めたことを知らせるそれだ。
一方、大挙して迫っていたオブスタクルの軍勢にも変化が確認される。
蠢き地鳴りを立てて押し進んでいたオブスタクルの動きは、しかし歌声が広がり届いた瞬間に、急激な勢いの減退を見せたのだ。その突進を止める個体も現れ、オブスタクル達はぶつかり合い、もつれ崩れ、途端にその統制を目に見えて失う。
そして、その軍勢の正面突端を形成していた、小サイズの数多のオブスタクルの元に。機関銃の銃火が飛び込んだ。
飛び込んだ銃火火線は、その一角にいたオブスタクル達を貫き弾く。襲い来た銃火によって小サイズのオブスタクル達は弾き飛ばされ、あるいはその身を貫かれ大穴を開ける。そして驚くべき事に、火線により屠られたオブスタクル達は。次の瞬間にはその体を黒い煙――いや、影のように変質させ、そして掻き消えるように消失していったのだ。これは、オブスタクルという未知の存在が見せる特性の一つであった。
「――――――!」
町湖場は力強く歌い続けながら、オブスタクル達が消失し開けた一角へと踏み込む。
そして両腕に構える機関銃を薙ぐ様に撃ち、周囲に蠢くオブスタクル達へ向けて、火力を投射。オブスタクル達を屠り消滅させ、切り開いた道をさらに突き進む。
飛び駆けながら、時にステップを踏み、時にその身をくるりとターンさせ。軽やかな動きでオブスタクル達を翻弄しながら、そして火力を持ってオブスタクル達を退け。さらに歌声を奏で続けながら、町湖場は軍勢の中を暴れ進む。
「――――――!」
それに続くは宇桐だ。
町湖場が小サイズのオブスタクルを退けた事で切り開いた活路へ、宇桐はやはり力強く歌声を奏でながら、続き飛び駆けるように進入。さらに何機かのUAVが宇桐に続き、低空飛行で彼の身を追う。
宇桐がその目に留め狙うは、先に町湖場が狙わなかった、軍勢の中でも特に目立ち点在する、中から大サイズのオブスタクル個体。
宇桐は飛び駆け、ステップでオブスタクルからの猛攻を交わしつつ、その腕に装着する端末を操作。その操作はUAV列機側で反映され、各機は散開。それぞれはその機首を、今しがた宇桐が目当てを付けた大型オブスタクルへと向け。そしてその腹に抱いた得物――対戦車ミサイルが、それぞれから撃ち放たれた。
至近距離で撃ち放たれた対戦車ミサイルの群れは、オブスタクル達に迎撃の暇を与える事すらなく、その巨体に命中。衝撃と爆炎を上げてオブスタクルのその巨体を損壊させ、屠り。そしてそれぞれを消滅に至らしめた。
一度散開したUAV各機は、再び宇桐の元へと合流。さらにその宇桐は、町湖場と合流してその脚を揃える。
そしてそのタイミングで、最高潮を迎えていた音楽は、一度収まりを見せる。
「――――――」
「――――――」
町湖場と宇桐は、どこか儚さを感じさせる締めくくりの一節を。それぞれ性質の異なる歌声で紡ぎ、そしてしかし尊いまでに見事な調和で交えて奏で響かせる。
そして一度視線を交わし、次の瞬間には二人は再び二手に分かれて各方へと飛ぶ。
それから続き、蠢くオブスタクルの中を、切り開いて縦横無尽に駆け。歌声を、そして銃声や爆音を上げ。
恐ろしい未知の存在の大群を、麗しくも果敢なまでの姿で討って回った――
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