白百合乙女と恐竜世界

ASD

第1話 太古の森の鎧竜

「どこ…ここ?」


目を覚ますとそこは辺り一面ジャングルだった。

シダやソテツが生えてまるで恐竜時代…いやそんなわけないか花も咲いてるし…。


たしかあたし古代優里ふるしろゆりは高校の修学旅行でシンガポールに来ていたはず。

直前までは五人グループでガーデンズ・バイ・ザ・ベイという植物園を観光していた。


じゃあここは植物園の中なのか?

いや、それにしては人の気配がなくて不気味だ。


そんな感じで不安になってると近くの茂みから何かが出てきた。

…え?まさか猛獣?


「優里おはよう、体調は大丈夫?」


出てきたのは同じクラスの勝山博愛かつやまはくあ寺野てらのメアリだった。

良かった人だ…と思ったがよりによって一匹狼とドジっ子か…。


あたしに声をかけてきたのは勝山博愛。

休み時間は一人で本を読んで過ごしている変わり者のぼっちで、一匹狼というあだ名がある。

クラス内に友達はいないがユニセックスな外見の美形で女子にモテモテ、ファンクラブができる程だ。

父親は有名な登山家らしい。


もう一人は寺野メアリ。

イギリス人とのハーフで童顔低身長巨乳アニメ声の恐竜オタク。

男子がいればモテモテだったのだろうがうちは由緒正しいお嬢様学校、ぶりっ子であざといしドジで皿とか花瓶とかすぐ割るし何もないところで転ぶし話せば恐竜の話しかしないので嫌われている。

そんな彼女についたあだ名はドジっ子メアリ。

父親は日本一有名な博物館の館長だとか。


この二人、つまりはクラスのはぐれ者コンビだ。

普段なら絶対にかかわらないし、かかわりたくない。


「別に怪我とかはしてないわ…ところで勝山さん、姫香と撫子は?」

「少し探したけどいなかった。私達三人以外人はいないみたい」


実に困った。

友人の姫香と撫子ではなく一匹狼とドジっ子なんかと行動しなきゃいけないなんて、屈辱だ。


それにしても本当にどこなのよ、ここ。

スマホの電波は圏外だし。


…あ、なんかこの状況既視感がある。

もしかして今流行りの異世界転移をしたのでは!?


「…ス、ステータスオープン!」

「優里どうしたの?頭大丈夫?」

「あ、メアリそれ知ってマース!異世界転移の常套句デース!」

「異世界転移?ああ、チートとか悪役令嬢だっけ。私そういうの全然詳しくないや」

「そうデース!メアリは異世界転移したらドラゴンを飼いならしたいデス!でも意外デス、優里はお嬢様でアニメとか見るイメージなかったデス」


は、恥かいた…一匹狼とドジっ子の前で…優等生のあたしが恥かいた…恥ずかしい…。


「だ、だって仕方ないでしょ!こんな状況なら異世界だと思うじゃない!じゃあここはどこなのよ!」


そう言われて困る一匹狼、一方ドジっ子は何か思いついたようだ。

だが、それは異世界転移と同じくらい突拍子もないことだった。


「メアリ思ったデス。間違いなくここは中生代白亜紀後期、恐竜時代デース」

「はぁ?馬鹿じゃないの!花咲いてるしそんなの有り得ないわよ!」

「花が出現し始めたのは白亜紀の初め頃からデース!それに異世界転移説よりメアリの説の方がまともデース!」

「な、なによ!このドジっ子!アニメ声!無駄にデカい乳!」

「おっぱいは大きければ大きい程偉いデース!負け惜しみ乙デース!」

「キー!」


あたし達が小学生以下の口論をしてると、博愛が割って入ってきた。


「まあまあ喧嘩は止めようよ。あと実は私もメアリの説に賛成。実はさっきチラッと見たんだよ、羽毛が生えたダチョウみたいな恐竜みたいな生き物が走ってる姿」

「もう、勝山さんまでそんな冗談を…付き合ってられないわ」

「優里待って、一人で勝手に進むのは危ないよ」


博愛の静止を振り切りあたしはズカズカと歩いた。

ここが恐竜時代だなんてそんなわけないでしょう、馬鹿馬鹿しい。


すると、ある程度歩いたところで何者かにあたしはぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


あたしとしたことが前方不注意で誰かにぶつかってしまうなんて。

相手に謝ろうと前を見る、すると次の瞬間あたしは驚いて体が固まってしまった。

そこにいたのが人間ではなかったからだ。

四肢が短く、鎧のような装甲を体に纏い、尻尾には大きなコブのようなモノが付いている。

アルマジロ?センザンコウ?ゾウガメ?

…いやそのどれでもない、なぜなら目の前の生物がそれらよりも明らかに大きすぎるからだ。

ぱっと見象二頭分はあるし。

じゃあ何者なのか、一つ心当たりはあるが違うに決まっている。

しかし、とてもじゃないがそれ以外は考えられない。


「き…きょう…」


叫びそうになった時、あたしは急に後ろから口を塞がれた。


「落ち着いて優里。野生動物相手にパニックになって急に叫んだりするのは非常に悪手」


塞いだのは勝山博愛だった。


再び謎の生物を見ると、鼻息を荒くしてこちらを完全に警戒中。

尻尾をゆらりゆらりと揺らしている。

あのコブ付きの尻尾で思いっきりフルスイングされたら、人間の体なんて確実に真っ二つだろう。


「相手を見ながらゆっくり静かに後退すれば大丈夫、そうゆっくり落ち着いて…」


博愛の指示通りに生物から離れ、十分距離を置いたところであたし達三人は道を引き返した。

危ない、なんとか九死に一生を得ることができた。

それにしても今の、どこからどう見ても本物の恐竜よね。

と、いうことは…本当に恐竜時代に迷い込んじゃったわけ!?

これからどうなってしまうんだろう…。


「感動デース!あれは絶対に本物のアンキロサウルス、中生代白亜紀後期の北米に生息していた正真正銘の草食恐竜デース!やはりメアリの説が正しかったのデス!」


…あたしと対照的になんか一名盛り上がってる人いるけど、今は精神的に構っている余裕がないのでとりあえず一旦無視することにした。


「もう、一体これからどうすればいいのよ…」

「優里、とりあえず水場を探そう。これからサバイバルすることになりそうだし、食料と水は必要になる。生物がいるってことは必ず近くにあるはずだし」


水場か、生きるために必要なのはわかるけどそう簡単に見つかるのだろうか…。

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