屈託のない笑顔を

ひじま

プロローグ

_____ざぶん、ざぶん。


波の音と、かすかに香る潮の匂いで目が覚めた。

ぼやけた頭で口から垂れたよだれを拭きながらあたりを見回すと、先程たくさん乗っていたはずの船内の人々は、すでに降りたのか私以外誰もいないようだ。広々とした、赤一色の高級感ある船内を見回すと、やけに装飾の施された、丸メガネの形をした小さな窓を見つけた。


そこから外の景色を覗くと、小さな島がぽつんと一人浮かんでいるのが見える。


「幸せの孤島、ゴア島」

「そこに入ったものは、たとえどんな極悪人だとしても幸せに生きることができる」

「しかし、一度入れば二度と外に出ることはできない」


ゴア島について聞けば、誰もが皆が口を揃えてこう返す。

みんなにとっては、それほどまでに恐ろしく幸せな場所で、誰もが帰りたくなくなる場所なのだろう。

...ただの噂でしかないのだけれど。


そんなことは私には関係ないし、私がここに来たのは約束を守るためきただけだ。

......いや、だめだ、私はただ見るだけだからな。そうだ。関係ない。


再び小窓をよく覗いてみると、あんなに遠かったはずの島も近づいてきた。

前のときから随分時間が経ったけど、相変わらず海辺は汚いし、草木が生い茂っていて中が見えない。誰も手入れしてないのか?汚すぎる...


「まもなくゴア島に着港します」


突如船内アナウンスが到着の合図を知らせる。どうやらゴア島についたようだ。


(待ってて、おじさん)

私は祈りながら船を駆け下りた。

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