第1話(2)・・・スイートピー_湊大好き_スタート・・・
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「マグマ! へー! ガザニア凄いね! 土の温度を強化の
対人用修練室の観覧席でスイートピーとガザニアの戦闘を観戦していたローズが感心の声を上げる。
その隣に座るクレソンが冷静に応えた。
「ガザはフリージア隊長を目指して、本当は純粋な刀を扱う『紅華鬼燐流』を
「そうして編み出したのが、琥珀色の溶岩を司る剣士というわけね。……これ考えたの絶対クレソン、あなたでしょ?」
「うん」クレソンが肯定する。「僕が尊敬するクロッカス隊長は何人もの隊員の相性適正や潜在能力を見出したって聞いたから、僕も頑張ってガザに合う
クレソンは第五策動隊所属だが、最も尊敬しているのはクロッカス。クロッカスは『
頭脳派のクレソンとしては、地平線の彼方以上の応用力を誇るクロッカスの知能に魅了されないわけがなかった。
「でも」
クレソンが注釈を入れるように接助を紡ぐ。
「あくまで僕は提案しただけ。……土属性に取ってA級上位である『
クレソンが誇らしく嬉しそうにガザニアを褒める姿を見て、ローズは思った。
(ガザニアとクレソン、真逆の性格だけどやっぱり相性良いわよねっ)
ローズは戦闘中の二人の方を向く。
(勝負は技術ももちろん、思いの強さも結果に大きく関わってくる。……ガザニアとクレソンの思いの強さは本物)
ローズが改めてガザニア達を認める。
(それでも、スーは
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(ガザニアのレベルはギリギリA級下位に届くくらい。クレソンのサポートがあったとしても、『
スイートピーは決して表情には出さないが、常に焦りを感じている。
『聖』の隊員は全員強い。他の組織だったらもっと上の役職にいてもおかしくない人達ばかりだ。
そして仮隊員はその予備軍であり、うかうかしていたらいつでも追い越されてしまう。
(私はお兄ちゃんみたいな天才じゃない。……お兄ちゃんみたいな天才でさえ常に努力を怠らないのに、私が一瞬でも気を抜ける暇なんてない!)
スイートピーは己に喝を入れ、纏う
臨戦態勢である。
「やる気になったみたいだな!」
ガザニアがスイートピーの目付きが変わって犬歯を剥き出しにする。
「教えてやる! この『
高らかに叫び放つガザニアに対し、スイートピーはどこまでも冷静だった。
(ガザニア、いつも勝負を仕掛けてくる時素っ気ない態度取ってるけど……まあそれも本心だけど、感謝もしてるんだよ)
スイートピーが二本の音叉を構える。
(だって、ガザニアの成長を目の当たりにさせられて、私の中の慢心が消えて焦りを忘れないようにしてくれるんだから!)
「紅熔裂砕流・一式!」
ガザニアが斬馬刀にどろっとしたマグマをまるで絵具を付けるように纏って、スイートピーへと直進してくる。
そしてスイートピーの元へ着く……前に、斬馬刀を振り薙いだ。
「『
すると斬馬刀のマグマが振り薙いだことによる慣性で勢いよく飛散し、肌に直撃すれば大火傷必至のマグマの粒が全方位に猛威を振るう。
『紅蓮飛沫』は対スイートピー用と言っても過言ではない。
神出鬼没なスイートピーの為の、全方位展開技でる。
「『
対するスイートピーは音叉を鳴らし、生じた超振動攻撃で向かってくる溶岩の礫を全て落としてみせた。
「くっ…! だったら!」
ガザニアがすぐ切り替えて次の技を発動する。
「紅熔裂砕流・二式『
(『一閃炉』はマグマの斬撃を飛ばす技! これでスイートピーを右に寄らせて、もう一度集中的に『紅蓮飛沫』を飛ばす!)
………しかし。
「遅いよっ」
ガザニアの心境とは程遠い、明るく元気な声が真後ろから聞こえた。
首を動かし、目線だけやると、音叉を構えたスイートピーがガザニアの背中を完璧に取っていたのだ。
(そんな…! 隙を突かれないように『一閃炉』が大振り過ぎないよう訓練したのに…! さっきとスピードが桁違いになってないか…!?)
(って思ってるみたいだけど、これはさっきの高速移動とは違う。『
ガザニアは
超重量の攻撃。子供同士とはいえ、男女の対格差が明確になってくる11歳。
ガザニアの斬馬刀の直撃を正面から受け止めるわけにはいかない………本来ならそう考えるのだが……。
ガキンッ!!
スイートピーが正面から斬馬刀を受け止めてみせた。それも一本の音叉で、だ。
音叉と斬馬刀を持つ両者の腕がぶるぶると震えており、大した力量差がないことを証明している。
「くそ…!」
ガザニアが押しきれないことにギリリと歯軋りをする。
スイートピーは「ふふっ」と余裕の笑みを崩さず言う。
「忘れないでよ。……私も〝強化系〟なんだからっ」
そう。
スイートピーの
だからこそガザニアの攻撃も真正面から受け止められたのである。
「ああわかってるよ!」半ば自棄気味にガザニアが言う。「鎮静系顔負けの動きをしやがるから忘れそうになるけどな!」
もちろん片時も忘れてなどいないが、そう言わずにはいられなかった。
スイートピーの
これは湊と同じ
もちろん精度は湊に数段劣るが、そこらのA級鎮静系に匹敵する。
……これは一重に、スイートピーが
スイートピーは一歳から四歳頃まで約二年半、『
より正確に言えば、湊に守られながら育てられた。
湊が如何にしてその環境を赤子一人育てながら生きながらえたかはとても簡単には説明できない。
さすがに初期の頃の記憶はないが、最後の一年のことは鮮明に覚えている。一体湊がどれだけ二人の命を繋ぐ為に先の見えない『慟魔』での地獄の日々を生き抜いたか。
鬼獣という化け物と隣り合わせでいつ発狂して心が死んでもおかしくないのに、スイートピーに愛情を注いで育ててくれたことを、どんなに辛くてもスイートピーにたくさんの笑顔を見せてくれたことを覚えている。
そんな湊の姿を一歳の頃からスイートピーは見ていたからか、三歳前後の物心つく頃には〝風〟を媒介にして気配を絶てるようになっていた。
きっと赤ん坊だったスイートピーも無意識の内に〝お兄ちゃんの為に頑張らないと〟〝お兄ちゃんの足手まといになっちゃいけない〟〝おにいちゃんを楽させてあげたい〟〝おにいちゃんを喜ばせてあげたい〟と思ったのだろう。
もしかしたら湊の風操作を見たことによる刷り込みが働いたのも要因の一つかもしれない。
スイートピーは地獄を生き抜く過程で、息をするように気配を消す
「さあ、行くよっ」
次の瞬間、じりじりと歪な鍔迫り合いをしていたスイートピーの姿が消えた。
斬馬刀が空を切る。
(くそッ! 目で追えない…!)
己の非力さとスイートピーのレベルの高さに悔しさを感じていると。
『やっぱりマグマそのものを自在に操作することはできないみたいだね』
「!?」
どこからともなくスイートピーの声が聞こえる。
密閉空間内で障害物もないのにスイートピーの声だけが聞こえてどこにいるのか探知もできない。
そしてスイートピーの推察は当たっていた。
ガザニアは土をマグマへと温度上昇させることにリソースが全部割かれて精密な操作はまだできないのだ。耐熱耐性の高い斬馬刀に纏わせて、振り回すか飛ばすことがやっとなのである。
(く…! 完全に見切られてる…!)
『悪いけど、』
スイートピーのまた声が響く。
『生涯敗北どころか一本取らせるつもりもないから!』
………そして、神出鬼没縦横無尽のスイートピーの猛攻が始まり、ガザニアに手も足も出させず、打ち負かした。ガザニアは最後に「まだ…か…」と悔し笑みを浮かべて気絶した。
戦闘を終えて修練室から出た(ガザニアをクレソンに任せて置き去りにした)スイートピーは、既に強者の貫禄を放っていた。
■ ■ ■
『聖』総隊長室。
青みがかった黒髪ロングヘアが優美に揺れる独立策動部隊『聖』の総隊長、西園寺瑠璃は、腹心である第一策動隊隊長であるスカーレットと、総隊長補佐であるチェリーを両脇に侍らせて、眼前の隊員に最後の確認を行っていた。
「……ということで、宜しくお願いできるかしら? コスモス」
問われた隊員。赤髪おさげの少女、コスモスは大きな感情の機微を見せず、冷静に応えた。
「畏まりました。……スイートピーのお
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いかがだったでしょうか?
スイートピーの物語開幕!って感じで書きました。
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@triangle_0130
※『鎮静のクロッカス』は小説家になろうに投稿している作品を転載しています。
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