第18話 再会と森の異変の話

 エルミリオ王国、それは肥沃で緑多き大地と、安定して発達した文化。

 安定した経済と軍事力を持ち、広い国土を持つこの世界屈指の大国の一つ。

 大陸西方に位地し、海と山岳地帯、平野に森林、都市部と考えうるあらゆる条件を取り揃えている。

 無いのは砂漠くらいだろうか。


 前世の知識を借りて表現するなら、王道ファンタジー中世のど真ん中。


 そんなエルミリオ王国の王都アルデン、姫騎士が団長を務める王国精鋭の天虹てんこう騎士団が駐屯し王国の秩序を守護しているという。






 「なぜ俺がそんなところに?」



 街で偶然再会した女騎士アルーシャに連れられ、やってきたのは騎士団駐屯地。

 それはいい。この国には治安維持を任務とする騎士団が複数駐屯しており、俺が連れてこられたのは警邏騎士の駐屯所、だと思っていた。


 連れてこられたのは王国最精鋭の天虹騎士団の駐屯所であった。

 おかしい、一介の冒険者にすぎない俺がなぜこんなところに?恐れ多いんだが?

 俺の肩に乗っている小竜モードのレナがクククと笑っている。



「以前から私は騎士団の駐屯所にいるとお話したと思ってましたが……?」


「天下の天虹騎士なんて聞いてないよ!?」



 警邏騎士に聞けば会えるというから、もっと身近な部署かと。



「ええ、私の名前を出せば、こちらに通されますので」


「それは……そうなんだけどね!」



 所属はちゃんと教えてほしかった今日この頃。



「失礼します。もしや自己紹介をちゃんとなされてない?


「失礼ですねアイーダ。きちんと名乗りましたとも」



 美しい金髪の貴族の令嬢じみた美貌を持つ女騎士がブレストメイル越しに、ふふんと胸を張る。

 身長はアリスより低いが胸の豊かさは鎧越しで見る分には不正確だが多分アリスと同レベルか。

 なお横に立つアルーシャの侍従と思わしきメイド服の女性は身長も胸の大きさも俺の知る女性で一番である。



『主は女性を見ると胸を比較するのやめるのじゃ』


(悪いとは思ってる、悪いとは)



 サガなので簡単にやめれないとも思うが。

 聖剣ルクスに性癖を叱られる虹等級冒険者の転生勇者がいた。



「もしやとは思いますが……ロイス様は姫のお立場をご理解なされていないではないかと……?」


「まさか、そんな…………しっかりとフルネームを教えましたよ」



 確かにフルネームはしっかり教わっている。


 アルーシャ・アルデンシア・エルミリオン。


 ほら、ちゃんと覚えているぞ俺は。



「アルーシャ・アルデンシア・エルミリオンだろ?…………あれ?」



 アルーシャ…………アルデンシア…………この国の王都の名がアルデン。

 エルミリオン…………この国の名がエルミリオ……

 あれ、そう言えば、今メイドさんが姫とお呼びしていたような?



「……え、あれ……まさか…………っ!?……!?!?!?!?!」


「こほん……紹介を補足します。この方はアルーシャ・アルデンシア・エルミリオン第一王女殿下……」



 コホンと咳払いを間に挟む。



「エルミリオ王国王位継承権第二位、現国王エドリック様のご息女にて、天虹騎士団の団長にあらせられます」


「調子乗ってすんませんでしたぁああああああああああああっ!」



 田舎から来た冒険者が対等に会話していい相手ではない。

 偉い人には頭を下げる。常識だね。



「あの、いえ……頭を上げてください。ここでの私は姫ではありませんから」



 アルーシャが言うには、騎士とは軍人であり、軍内において王族も軍人として扱われる。

 軍人である以上は王族ではないし、軍内においては実力と階級で判断される。

 過去の例では王族が騎士の称号欲しさに軍に入り、三日でたたき出された前例もあるとか。



「へぇ……それじゃあアルーシャ……さまは実力もしっかり評価されているのですね……」


「以前も言いましたが呼び捨てで結構。今は騎士と冒険者の身分。こちらが客として招いた以上はこちらが礼を尽くす側です」



 良いのだろうか?チラリとメイドのアイーダさんを見る。

 彼女の表情はやれやれと呆れたような感じではあるが、否定の意図は見当たらなかった。というか仕方ないという顔だった。

 そこまで言われて形式にこだわるのも逆に失礼なのだろうか?



「わ、わかったよアルーシャ……それで、俺をこんなところに呼んでどんな用なんだ?」



 なんとか口調を戻し……戻せているだろうか?

 正直、立場を抜きにしてもアルーシャの顔をしっかり見れない状態なのだが。


 前世の記憶で勇者ヒデオが愛した女と瓜二つの容姿が俺の脳を破壊する。



「ええ、実は……本来は例の真竜がいた森の調査をする予定だったので協力を要請するつもりだったのですが……ごほん」



 例の森、街道沿いの森に赤い真竜が現れたという噂か。

 結局あの場に現れたのはドラゴンではなく上位種の魔物だったが。



「……貴方ですよね?武闘大会に現れた赤い竜人を倒したロイス選手とは」


「……はい」



 隠すことではないので、そこは正直に答える。



「やはりですか……まさか王都内部に現れるとは……しかも既に個人に倒されるとは……」


「さすがは虹等級冒険者として認定されたスーパールーキーと言ったところですか……」


「ああ、いや、その……はい」



 騎士団を動かして討伐の準備をしていたら、既に倒されていた。

 それは確かにまあ唖然とする話だろう。

 それはそれとして何か過大に持ち上げられてる気がしてくすぐったい。




『別に過大ではなかろうよ。余を打ち倒した英雄など、向こう数百年は余裕で語り継がれてしかるべき偉業ぞ?なんなら余が語り継ぐ』


(やめい)



 念話で俺に語り掛けてくる肩の小竜に思念でツッコむ。

 別に世界を救ったわけじゃなし、大げさすぎる。



(……そう言えばレナ、森で目撃された赤い竜ってやっぱお前?)


『お?聞きたいか?うむ、確かに余である。あそこで余のお宝センサーがピキーンと来たからな』



 そう言えば、前にレナが王都の近くにまだお宝があると言ってたな。

 どうやら森の近くにレナにお宝認定される何かがあるようだ。

 それを探してフラフラしているところを人に目撃されたということか。



『うむ、まあ途中で魔の瘴気臭くてやめたがな』


(瘴気?)



 瘴気という言葉自体は知っている。

 魔族、と呼ばれる存在が発する邪悪な魔力のことだ。

 魔族とは、一応はこの世界の生態系である魔物とは違い、世界そのものの歪みが生物として顕現した邪気そのものの具現と言える存在だ。

 確かルチアスから聞いた話では、魔族が発生し始めた世界では魔物の数が増大し、秩序が乱れ、秩序の乱れが魔族の発生を加速し、やがて魔王が誕生する。


 つまり魔物の増加と狂暴化は魔族発生の影響であり、放置すれば魔王が生まれてしまうわけだ。

 さすがにこの事実はこの世界では知られてないが、瘴気あるところに魔族があり倒すべき存在とは認識している。



「おまえ、それマジかよ!?先に言えっ!?」


「……っ!? す、すみません!」



 レナからもたらされた情報の重みに、思わず念話が声に出てしまった。

 なぜか必死に謝るアルーシャ。



「あ、ちが!ごめんなさい!違うんです!ええと、実はですね!?」



 これは思ってる以上に状況はやばいようだ。

 

 今の暴言と、情報の出どころであるレナのことは誤魔化しつつ、森の異常事態を二人に説明してみる。

 大会で倒した竜が今わ際には残した言葉から、という形で、森に瘴気が発生していることを伝える。



「森に瘴気が?…………確かに、魔族が発生しているとなれば上位種が発生していることは不自然ではない……」


「本当でしょうか……瘴気の発生など数十年に一度あるかないか、まして上位種の魔物を発生させるほどの瘴気など聞いたことが……」



 実際にゴブリンナイトという分布上は存在するはずのない上位種と対峙したアルーシャは信じてくれたが、常識的に考えると信ぴょう性は薄いと考えるアイーダさんの反応は対照的だ。



「ですが事実として森の生態系に異常が起きているのは間違いないのです。真竜の影響と考えてましたが、別の要因は否定できない」


「……ですね。かしこまりました。真竜調査用に準備をしていた天虹騎士団をそのまま動かしましょう」



 どうやら王国最精鋭の天虹騎士団が森の調査を行うようだ。

 とはいえ、レナが気にしていた宝も気になるし、万が一魔王の発生に繋がっては堪らないから俺も独自に調査をするか……



「ええ。ランドルフ将軍に通達を、天虹騎士団は街道沿いの森へ瘴気の調査に向かいます。指揮は私、天虹騎士団長アルーシャが」



 そして、と言葉を付けたして。



「調査協力者として虹等級冒険者ロイス・レーベンを団長補佐に任命し、同行します」



 何故か、知らぬ間に騎士団の偉い人の補佐をすることになっていた。

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